世界経済が大打撃を受け、「雇用や賃金が増えない中で、価格だけが上昇している」と指摘され始めている。小売の中で「最も身近な買物の場」であるコンビニへの影響も不可避的だ。アフターコロナのコンビニエンスストア各社が対峙する“見えざる敵”とは何か――。
東日本大震災を契機に注目集めたコンビニ
アフターコロナの小売業界は、「消費者の消費行動がガラリと変わっているだろう」(イオンの吉田昭夫社長)という見方で一致しつつある。コンビニも“新日常”と向き合うことになる。
緊急事態宣言によって外出自粛を要請されている現在、休業要請の対象業種ではない食品スーパーやドラッグストアに消費者が押し寄せている。「(商品を)出しても、出しても間に合わない」(食品スーパー関係者)というほど、小売の最前線では非日常が展開されている。
小売業界の関係者ならば、似たような光景を思い出すはずだ。東日本大震災の時である。震災発生直後は被災地への物流を優先したため、大都市圏に商品が回らなくなった。このときも、カップ麺や飲料水を買い求める消費者が食品スーパーに殺到した。
そうした状況下で当時、スポットが当たったのがコンビニだった。
ふと近所のコンビニをのぞいてみると、意外なことに品揃えが充実している。食品スーパーでしか買えないと思っていた日配食品や生鮮食品もある。すぐに食べられる総菜やファストフードがあり、デザートも充実している。そして、どの商品も食べてみるとおいしい――。
こうした経験によって、消費者は「カロリーが高そうな弁当やタバコを売っている場所」というコンビニのイメージを見直していくことになる。
東日本大震災があった2011年当時は、「コンビニは飽和状態である」というが一般的な見方で、今後成長は見込めないと言われていた。だが、震災以降はコンビニの便利さを改めて見直した消費者が続々と来店。大手コンビニによる「大量出店時代」が幕を開けたのである。
コロナショックで注目を集めているのは……
東日本大震災時のコンビニのように、今回のコロナショックをきっかけに価値を再発見されているのがドラッグストアとECだ。
コロナショックを受け、マスクや消毒アルコールを求める客が急増し、毎朝開店前から店先に行列ができる光景が、ドラッグストアの日常となっている。
ドラッグストア大手の3月の既存店客数は対前年同月比10~20%増と、東日本大震災当時のコンビニを彷彿させる勢いで伸長している。
ふだんドラッグストアを使っていなかった消費者が来店し、豊富な品揃えを目の当たりにしていることだろう。アフターコロナでは、従来はコンビニとスーパーしか行かなかった層が、買物のローテーションにドラッグストアを加えることになるとみられる。
コンビニが対峙する“見えざる敵”
他方、EC、とくにネットスーパーもその利便性によって注目を集めている。感染がリスク高い店舗に行かなくて済むためだ。
現在、各ネットスーパーサービスに注文が殺到している。平常時は当日あるいは翌日配送という体制だったが、最近は5~6日後に配送というケースもザラだ。
今回のコロナショックを契機に、実際にネットスーパーを利用し、商品の確かさや品揃えの豊富さを再認識することで、「商品を手に取って見ることができないから」という理由で敬遠していた消費者が、従来の買物パターンを変える可能性も十分に考えられる。
ただ、ドラッグストアもネットスーパーへの再注目も、一つの事象に過ぎない。コンビニが対峙しなければならないのは、消費者心理、そして購買行動の「変化」だ。この“見えざる敵”との戦いに勝てなければ、成長を描くのは難しい。
これまでのコンビニは「お店が身近にある」という利便性が最大の強みだった。しかし、ドラッグストアの小商圏化が進み、ネットスーパーが拡大していけば、その優位性は希薄化しかねない。そうなったときにコンビニの武器となりえるのは、商品か、サービスか、それとも別の「新しい何か」か。「近くて便利」で続いてきたコンビニモデルを見直す必要があるのかもしれない。