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コロナ下で売上伸長するSM業界 アークス横山清社長が語る「M&Aをし続ける」理由

北海道・北東北で食品スーパー(SM)9社を擁するアークス(北海道)。地域密着型のSMを追求しながら、2018年12月にはバローホールディングス(岐阜県/田代正美会長兼社長)やリテールパートナーズ(山口県/田中康男社長)と資本業務提携を結び、「新日本スーパーマーケット同盟」(以下、新日本SM同盟)を結成した。今後の流通・小売業界の再編について、横山社長に聞いた。※本インタビューは3月中旬に行われました

社会インフラとしてのSMの役割を再認識すべき

よこやま・きよし●1935年、北海道芦別市生まれ。60年、北海道大学水産学部卒業、野原産業入社。61年、ダイマルスーパーに出向。85年、同社代表取締役社長。89年、丸友産業と合併しラルズ代表取締役社長。2002年、アークス代表取締役社長(現任)。07年、ラルズ代表取締役会長兼CEO(現任)。11年、ユニバース代表取締役会長(現任)。

──20年3月時点での直近の売上動向はいかがですか。

横山 19年10月以降、消費増税の影響で個人消費が低迷し、SM業界でもスーパーマーケット3団体が発表している20年1月の全国スーパーマーケット既存店売上高が対前年同月比1.3%減となるなど、厳しい状況が続いていました。しかし、20年2月後半以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って生活必需品を買い求める消費者が増えています。アークス傘下の店舗では概ね、対前年同期比を上回るペースで売上が伸びています。

──アークスの主な事業エリアである北海道では、2月28日から3月19日まで新型コロナウイルスの感染拡大防止のための「緊急事態宣言」が発出されました。

横山 消費者の間では不安感から食料品や日用品を備蓄しようとする傾向が強くなり、日用品や即席麺などが一時的に欠品するケースも見受けられました。アークスでは常時、物流センターで商品の在庫を適正に確保して各店舗に迅速に供給する体制を整備しており、翌朝の開店までには、各店舗の陳列棚へ商品を確実に補充しています。

 今回のコロナウイルスの感染拡大に限らず、近年は地震や豪雨、台風といった自然災害が日本各地で相次いでいます。SMは、労働生産性や商品回転率の向上のみにとらわれることなく、食料品を中心とする生活必需品を地域住民に提供するライフラインとしての役割をあらためて意識すべきだと思います。

デジタルシフトは必須に 企業間格差は拡大傾向

──アークスでは、19年10月に新基幹システムが稼働しました。

横山 14年6月の「システム統合基盤構築プロジェクト」の発足から約5年かけて150億円以上を投じ、19年10月からSAPジャパン(東京都/鈴木洋史社長)の新基幹システムを全面的に稼働させました。グループ共通の基盤として、経営情報の分析や間接業務の標準化・集約化などに活用し、グループシナジーの創出やコスト削減につなげていきます。

 SM業界でも、デジタルシフトは当たり前になりつつあります。キャッシュレスというと、これまではクレジットカードが主流でしたが、現在はスマートフォンアプリを使用するQRコード決済へと移行しています。今はさまざまな決済サービスが乱立していますが、この先1~2年のうちに方向性が定まるとみています。このような時代の変化に対応できないSMはやがて脱落し、SM業界での企業間格差はさらに拡大していくでしょう。

──SM業界で企業間格差が拡大するなか、アークスではどのような経営を実践していますか。

横山 アークスグループは、北海道・北東北の優良な地域密着型SMが提携する「強者連合」です。当社はSM9社の完全親会社としてグループ全体を統括する一方、傘下のSMは地元の消費者に寄り添い、迅速かつ柔軟な経営判断のもとで主体的に事業を運営しています。

 たとえば、旭川市を拠点とする道北アークス(北海道/六車亮社長)は、厳しい事業環境のなか、15年に総合物流センター「Dohoku arcs Mother Center(DaMC)」を開設するなど、事業改革をすすめています。

伊藤チェーンと経営統合 今後もグループ拡大へ

──19年9月、アークスは伊藤チェーン(宮城県/伊藤吉一社長)と経営統合しました。今後も同様の経営統合やM&Aを実行するのでしょうか。

横山 国内の人口が減少し、食品小売市場が縮小していくなかで、大手企業の事業規模がますます大きくなり、企業間の格差がさらに広がる「縮小拡大」は今後も続くとみています。

 02年に純粋持株会社に移行したアークスでは、M&Aを「合併・吸収」ではなく「Mind & Agreement(心と意見の一致)」と定義し、「志を同じくする企業が一定の取り決めに合意し、それに従って統合して事業を運営する」というスタイルをとってきました。11年には、北東北を拠点とするユニバース(青森県/三浦紘一社長)と経営統合し、15年度にはグループ売上高が5000億円を超えました。地域SMの優れた経営統合モデルとして評価いただく業界の声も少なくありません。

 宮城県南部で9店舗を運営する伊藤チェーンは、アークス傘下で岩手県全域および宮城県北部で店舗を展開するベルジョイス(岩手県/澤田司社長)と商圏が重複しておらず、東北エリアの店舗網の拡大につながります。アークスは関東以北を事業エリアとして売上高1兆円をめざし、当社の思想や行動規範を共有できる仲間をこれからも増やしていきます。

──グループの持続可能な体制構築に向けて、M&Aをすすめていくということでしょうか。

横山 そうですね。量販や合理化のためのM&Aではなく、持続可能な社会づくりに根ざした地域の生活インフラの担保という観点で、組織の再編成が必要だと考えています。全国的なSMのオーバーストア化が言われるなか、これまで新規出店に充てていた資金を経営統合への投資に活用するほうが効果的かもしれません。

新日本SM同盟ではCGCでできないことに挑戦

アークスは北海道・東北でグループに加盟する企業を今後も増やすほか、バローホールディングス、リテールパートナーズと18年12月に新日本スーパーマーケット同盟を結成するなど、全国規模での提携も活発化させていく考えだ

──18年12月に発足した新日本SM同盟の進捗はいかがですか。

横山 新日本SM同盟は、北海道・東北地方に店舗網を持つアークス、中部地方で事業を展開するバローホールディングス、中国・九州地方を事業エリアとするリテールパートナーズという有力な地域SM3社の集合体です。19年1月には提携推進委員会を創設し、地場商品や産地情報の共有や限定商品の開発を行う「商品分科会」、資材や什器の共同購入や店舗開発などを行う「運営分科会」、人手不足への対応についてのノウハウなどを共有する「間接部門分科会」、AIなど新しいテクノロジーの共同研究を行う「次世代領域開発分科会」の4組織を傘下に設置しました。

──アークス傘下のSMはCGCグループに加盟しています。新日本SM同盟との位置づけの違いを教えてください。

横山 CGCは、中堅SMがプライベートブランド(PB)の開発や商品調達を共同で行うことを目的として、地域ごとに運営されています。私が社長を務めている北海道シジシーは、18年度の売上高が1162億円で、道内で最大の卸売企業でもあります。

 新日本SM同盟では、北海道でのPB開発や大量共同仕入れなど、北海道シジシーへの参画を通じて培ってきた経験やノウハウを生かし、CGCでは実現が難しいことに取り組みたいと考えています。たとえば、北海道で獲れたほっけなどの地場商品を共同調達して原価を低減し、ほかの地方にある同盟企業の各店舗で展開してマスメリットを追求するなど、地域を越えた全国規模でのシナジー効果の創出をめざしています。

──イオン(千葉県/吉田昭夫社長)でも、傘下のSMを地域ごとの集合体へと再編する「SM改革」がすすめられています。再編の形態として、新日本SM同盟と似ている点もあるのではないでしょうか。

横山 複数のSM企業で一定の売上規模の集合体を形成するという面では似ているかもしれません。しかし、イオンのSM改革は、商品供給や管理の体制で一方が他方を完全に支配する形態となっている点で、新日本SM同盟とは異なります。新日本SM同盟は、3社が株式を相互に持ち合う資本業務提携のもと、各社がそれぞれ独立して事業を運営する「独立系食品流通企業の集合体」です。

──新日本SM同盟のもとで、バロー傘下のドラッグストア(DgS)である中部薬品(岐阜県/高巢基彦社長)と提携し、北海道や東北でSMとDgSを統合した業態に取り組む計画はありますか。

横山 アークスは16年にサンドラッグ(東京都/貞方宏司社長)と合弁会社を設立し、北海道・北東北でDgS事業を展開しています。したがってご指摘の件は現時点では具体的にすすんでいませんが、今後は新日本SM同盟のもと、別の形態でDgS事業に取り組む可能性は否定しません。

──最後に、流通・小売業界の相関関係は今後どのように変わっていくのか、見方を聞かせてください。

横山 この1~2年で業界内の相関関係はより明確になっていくでしょう。従来、企業間の相関関係は主に資本関係によって明確にされてきましたが、今後は物流、商流、人脈など、ほかの要素で表されるようになるかもしれません。これらがどのように相関図に加わっていくのかを読み解いていくことが、今後の重要なポイントになりそうです。