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セブン& アイ 伊藤順朗常務に聞く「なぜ、今SDGsなのか?」「どう取り組むべきか?」

SDGs特別インタビューのロゴ

コンビニエンスストア、総合スーパー、食品スーパー、百貨店など多彩な業態を傘下に持つ巨大流通グループ、セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)。近年急速に関心が高まるSDGsに対し、同社はどのようなスタンスで臨んでいるのだろうか。同社CSR統括部(現・サステナビリティ推進部)を5年以上にわたって指揮し、現在はグループの経営の中枢を担う、取締役常務執行役員の伊藤順朗氏に聞いた。

なぜ、セブン&アイは社会課題解決に臨むのか

いとう・じゅんろう●1990年8月にセブン-イレブン・ジャパン入社。2002年5月同社取締役、07年1月同社取締役常務執行役員、09年5月にセブン&アイ取締役執行役員に就任する。11年4月同社CSR統括部(現・サステナビリティ推進部)を経て16年12月に同社取締役常務執行役員経営推進本部長に就任(現任)。17年3月にイトーヨーカ堂取締役(現任)。現在に至る。

──なぜ、SDGsがここまで注目されるようになっているのでしょうか。

伊藤 国連サミットにおいてSDGsが採択されたのが2015年9月。それ以前からMDGs(ミレニアム開発目標)やCSRといったものは存在しており、企業を含むビジネスセクターが社会課題の解決に取り組むことの重要性はかねてより指摘されていました。ただ、ここにきて社会課題解決への注目はいちだんと高まっていると感じています。

 従来、社会課題の解決は、政府のような公的機関が取り組むものといわれてきました。しかしながら、『「社会の期待」-「政府の力」=「企業のCSR」』ともいわれるように、社会の期待、つまり課題が膨れ上がっているなかでは、ビジネスセクターの責任や企業への期待が高まっていると考えます。

──そうしたなかで、セブン&アイはどのようなアプローチで社会課題解決に取り組んできたのでしょうか。

伊藤 当社では、お客さま、お取引先、株主、地域社会、そして社員を含めたあらゆるステークホルダーから「信頼される誠実な企業でありたい」という社是を1972年に制定しています(当時はイトーヨーカ堂)。これを念頭におきながら、数多ある社会課題に対して当社として何ができるのか、そして何に取り組むのが社会にとっていちばん有効なのか、ということを考え続けてきました。

 フードロス、貧困、環境問題等々世の中には数多の社会課題があります。ただ、一私企業が、そのすべてに取り組むことはできません。ですので、自分たちの事業特性を生かせるかたちで取り組むべきことを決める。CSRの世界でいうところの、「マテリアリティ(重点課題)の特定」から始めていきました。

セブン&アイグループでは、グループ企業の店舗で回収したペットボトルを原料とする再生糸を使用した機能性肌着を2020年2月に発売している

SDGsにも対応する「5つの重点課題」

──マテリアリティを特定したプロセスについて教えてください。

伊藤 まず、行政が発表している調査や白書、研究機関による将来予想などを紐解きながら、数多存在する社会課題を列挙して92個の課題を抽出しました。そこから「セブン&アイとして何に取り組むべきか」という観点で、お客さま、株主、投資家、お取引先、従業員にアンケートというかたちでこれらの課題を投げかけ、30個まで絞り込みました。

 そして、これを叩き台にして、どの課題に取り組むのが最もインパクトがあるのかと、私を含めた当時の経営陣と有識者の方々で対話・議論を重ね、5つの重点課題を特定しました。SDGsが採択される約1年前、14年のことです。

──特定から約6年が経過していますが、課題の見直しなどは検討していますか。

伊藤 見直しの議論はもちろんありましたが、重点課題の解決はどれもまだやり遂げていません。あらためて5つの重点課題を見てみると、SDGsにおける17の目標のほとんどをカバーしています。ですので、小手先で変えるということはせず、5つの重点課題の解決を継続していくこととし、各課題にSDGs の目標を対応させるようにしています(図表参照)。

 国連のサイトなどにあるSDGsの原文を見ると、慣れない人は読んでいるだけで頭が痛くなってくるほどに項目は膨大にあります。企業としても、自分たちがこの中のどれができるのかがわからないかもしれません。

 ですが、われわれ小売業は生活・消費者に密着した産業ですので、こうした活動をやりやすいという側面もあります。また、「なぜ、SDGsに取り組むのか」という観点においても、とくに小売業は事業機会につなげやすいという面もあります。

「事業機会」にどうつなげるか

──「事業機会につなげる」という点について、もう少し詳しく教えてください。

伊藤 米ハーバード大のマイケル・ポーター教授が提唱した「CSV(クリエイティング・シェアド・バリュー:共通価値の創造)」という概念にもあるとおり、社会課題の解決を通じて経済的価値も創造するということです。

 社会課題の解決というのをミクロな視点で考えると、それはお客さまのニーズに置き換えられます。ニーズがあるということは、ビジネスのチャンス、つまり事業機会があるということです。生産財メーカーでは(SDGsの取り組みは)なかなかビジネスに直結しないかもしれません。ですが、小売業はお客さまや世の中の困りごとを解決することが売上・利益につながります。まさに一体であると考えています。

──SDGsのような取り組みは、やはりビジネスにつなげることが重要となるのでしょうか。

伊藤 それが理想ではあります。いわゆる寄付のような企業側がコストを払う社会貢献のアプローチもありますが、持続可能性を考えると、ビジネスにつなげて取り組んでいく必要があります。

 当然そのような考えで、すべてをうまく回していけるわけではありません。とくに環境問題などについては、「投資」としてやっていかねばならないでしょう。ただ、これもよくよく考えると、中長期的にはコスト削減につながると考えています。たとえば、太陽光パネルによって再生可能エネルギーに切り替えていくといった取り組みも、最初はパネル設置のコストがかかりますが、中長期的には電気代の低減につながりますよね。

各事業会社に“ミラー組織”を設置

──中長期のリターンにつながるとはいえ、現場は日々の予算を追いかけています。従業員のマインドをどのように変えていけばよいのでしょうか。

伊藤 本当に難しい問題です。とくに調達・仕入れの観点で考えたときに、持続可能な調達をしたいものの、実行すると価格が高くなってしまう、あるいは品質面でよいものができなくなってしまうという状況はよくあるでしょう。

 ですが、これも考え方次第です。「自分たちの一つひとつの商品開発がSDGsのどれに貢献できるのか。そういうことを考えながらやっていこう」と社内で言い続けています。

──従業員の意識を変えていくための組織体制について教えてください。

伊藤 19年2月に「CSR統括部」から名称変更した「サステナビリティ推進部」がその役割を担っています。私がCSR統括部にいた頃は6人のメンバーで構成されていましたが、現在は15人ほどの組織となっています。

 もう少し大きな組織の立て付けとして、グループ横断組織「CSR統括委員会」とその傘下にある5つの部会がそれぞれテーマを持って、事業を通じて社会課題解決に貢献する取り組みを実行しています。さらに傘下の事業会社にも、同委員会の“ミラー組織”を設け、業種・業態にあわせたCSRを推進する体制をとっています。

 すべてのグループ会社に設置できているわけではありませんが、セブン-イレブン・ジャパン、イトーヨーカ堂、そごう・西武、セブン&アイ・フードシステムズ(いずれも東京都)、ヨークベニマル(福島県)といった主要子会社はすべてミラー組織を設けています。これらの部会の取りまとめ役をサステナビリティ推進部が担っています。

急速に変化する投資家の意識

──投資家について変化を感じることはありますか。

伊藤 本当にドラスティックですね。私がCSR統括部に在籍していた頃は、「CSR」や「ESG」「MDGs」という言葉は企業人にはほぼ知られていませんでした。投資家の方々との面談の際も、CSRに関心のある方はほとんどいませんでした。

 潮目が変わったと感じたのは2年ほど前のことです。17年に機関投資家の行動規範である「スチュワードシップ・コード」が改訂されました。このあたりから、単なるリターンだけではなく投資先のサステナビリティや社会的責任を問う流れができてきました。

 19年も国内外の多くの投資家の方々と対話しましたが、こうした分野への関心は本当に高まっており、同じ投資ファンドの中でもESGを担当する方の発言力が強くなっているように思います。また、世界最大規模のあるファンドの会長から毎年年初に発せられるレターも、今年はほとんどが環境に関する内容で、情勢は随分と変わったと実感しています。当社としても、19年6月に初めて「経営レポート(統合報告書)」を公表し、業績だけでなく、当社の考えやESGの取り組みについても投資家の方々と対話するようにしています。

──事業の継続性を追求することで中長期的にリターンを提供できる企業に変わっていかなければならないということですね。

伊藤 そう思います。サステナビリティやCSRに力を入れている企業の業績がよいかというと、直接的な相関はないかもしれません。ただ、何かあったときのレジリエンス(回復力)が強いというのは言えるでしょう。企業としてステークホルダーと強固な信頼を得ていることにより、想定外のことがあったときでも早期に回復できるのです。

取引先を対象に「CSR監査」を実施

──まさに企業としてのサステナビリティですね。お客さまの変化という点ではどうでしょうか。

伊藤 変わりつつあると思います。とくに若い層は環境配慮型の商品を求める方が増えています。おいしさや安全・安心は第一ですが、それにプラスして、その商品が環境にとってどういうものなのかという点をアピールしていく必要もあるでしょう。

 ただ、まだ認知度の低い「MSC認証」を取得した商品をいきなり「買ってください」と提案しても売上にはつながらないでしょう。われわれのような小売業は、お客さまを「啓発」していくことも重要だと考えています。

 そのための活動の一環として取り組んでいるのが、「“海の絵本”制作プロジェクト」です。海洋環境・水産業の関連団体とタッグを組んで、お客さま参加型のクラウドファンディングによって絵本を制作するという内容です。高齢化や後継者の不足といった漁業者の事情や海洋環境の問題など、今の日本の水産を取り巻く問題を、まずは子供たちに絵本を通じて学んでもらうことで、(実際に商品を購入する)お母さん方にも知っていただきたいという思いで取り組んでいます。

──サプライチェーンに関して教えてください。セブン&アイグループではプライベートブランド(PB)を展開しています。こうしたPBは自社でコントロールしやすい側面がありますが、ナショナルブランド(NB)や仕入れ商品については取引先にどのようなお願いをしているのでしょうか。

伊藤 NBメーカーさんには、当社からお願いするしかないのが現状ですが、大手メーカーさんは当社よりもはるかに取り組みが進んでいらっしゃるところがたくさんあります。また、当グループでは、年に1回、お取引先さまに集まっていただき、経営方針を説明する懇談会を開催しています。この場で、「売上・利益を追求しながら、社会に信頼される存在になる」という当社の考えを強調しています。

 国内外のオリジナル商品のメーカーさんについて、5年ほど前からご理解をいただいたうえで、児童労働や強制労働、環境に対する違法行為の有無などをチェックする「CSR監査」も年間数百社のペースで継続拡大しています。われわれも調達方針を明確に出しておりますので、これに沿うような調達をお取引先さまにはお願いしています。

地域の課題に対して企業として何ができるか

──今後、取り組みを強化していきたいという分野はありますか。

「小売業は経営にSDGsを組み込みやすい産業」

伊藤 あらゆることが6合目、7合目といった状況で、十分ではありません。今後とくにスピードを上げていきたいのは、やはり社会的な関心が高い環境の分野です。これについては、19年5月にグループの環境宣言として「GREEN CHALLENGE(グリーンチャレンジ)2050」を策定しました。「C O ₂排出量削減」「プラスチック対策」「食品ロス・食品リサイクル対策」「持続可能な調達」の4つのテーマで、2030年の目標と2050年にめざす姿を設定しています。

──これからSDGsに取り組みはじめる小売業は、どの分野から手を付けていくのがよいでしょうか。

伊藤 われわれ小売業は生活者密着型ビジネスです。社会の困りごとに着目し、それを整理・解決していくという行為がそのままビジネスとなります。重要なのは、地域の課題に注目し、そこに対して会社として何ができるか議論していくことです。着手は小さなことからでよいと思います。取り組んでいくことで、(ステークホルダーからの)信頼を得ていけるのではないでしょうか。