大丸松坂屋百貨店(東京都/宗森耕二代表取締役社長)は、外商部門を重要な成長戦略の柱と位置づける。アートのカテゴリーの育成に力を注ぐほか、地域共生のもとで創り出したエクスクルーシブな商品やサービスといった、他店では手に入らないオリジナル商材のラインアップを拡充し、富裕層を取り込む構えだ。さらに、長年培った富裕層とのネットワークを活用。高級外車や高級マンションの販売会社、店外のラグジュアリーブランド直営店など、外商顧客を対象とした提携販売事業にも乗り出している。
強みのアート事業は、成長の余地が大きい

インターネット通販やショッピングモールといった他業態との競合が激化し、百貨店は、地方や郊外の店舗閉鎖が相次ぐなど苦戦が続いている。しかし、大丸松坂屋百貨店は、そうした状況でも手をこまねくことなく、生き残りのための布石を次々と打っている。その一つが外商部門の拡充だ。
大丸松坂屋百貨店の外商部門を取り仕切る取締役兼常務執行役員営業本部長の加藤俊樹氏は、「日本経済が低迷しているとはいえ、富裕層は増え続けており、今後も消費は二極化していくだろう。百貨店としては、長年の実績がある外商部門をテコに、アッパー層を取り込むのが得策」との見方を示す。
大丸松坂屋百貨店の2024年の外商部門売上高(免税品除く)は、コロナ禍前の2019年に比べて約30%も伸びているが、商品別では、ファッションの海外ラグジュアリーブランドが約2.5倍と突出して増えており、売上構成比でも約30%を占める。次いで、時計が1.7倍と大幅に伸長している。その中で、全体のパイに占める割合はまだ小さいものの、同社が育成に注力しているのが「アート」のカテゴリーだ。
加藤氏は、「百貨店業界の中でも、当社のアート事業には定評がある。アートは、日本ではまだニッチなマーケットだが、それだけに、成長の余地は大きいと言えるだろう」と期待を寄せる。
「ショッピングモールでも異なるカテゴリーの買い回りは可能だが、百貨店は、ライフスタイル提案といった、カテゴリーの枠を越えた社内連携できるのが強みで、それを実践してきたのが外商部門。とりわけアートは、ほかのカテゴリーとの親和性が高い。例えば、高級ホテルを借りて、外商のお客さまをお招きする催事を年2回実施しているが、若いお客さまも、ラグジュアリーブランドなどと一緒に美術工芸品をお買い上げになるケースが目立ち、関心の高さがうかがえた」(加藤氏)

旗艦店の一つである「松坂屋名古屋店」は、2024年11月から順次、売場の約3分の1に当たる約2万7000㎡の大型改装に踏み切る。とりわけ、本館8階をすべて「アート売場」にリニューアルするのが目玉だ。
「アートの売場面積は2.5倍近くに広がる。ワンフロアを、美術館や画廊のようにアートで埋め尽くすという試みは、国内百貨店でも類例がないのではないか」(同)という。名古屋店内では、本館7階以下のフロアのラグジュアリーブランドと、アート作品のコラボなども計画中。さらに、名古屋店の組織改編によって、商品カテゴリーや所属部門に捉われず「店舗スタッフ全員で、外商のお客さまをおもてなしする体制を整えた」(同)
富裕層向けのディナーショーや海外旅行を独自企画
大丸松坂屋百貨店がもう一つ、強化しているのが、ほかでは手に入らないコラボ型の商品やサービス。「富裕層のお客さまは、特別な商品、特別な体験をお求めになる傾向が、極めて強い。当社としても、差別化の武器になると考えている」(加藤氏)
海外ラグジュアリーブランドと提携した「エクスクルーシブ商品」などを投入しているのはもちろんだが、とりわけ、「日本ならでは」のコラボ商品を展開しているのが特筆される。例えば、2024年10月には、京藍染師である松﨑陸氏と、イタリアのラグジュアリーレザーブランド「ヴァレクストラ」が共同開発したバッグを大丸京都店の周辺店舗などで販売し、好評だった。清水焼の若手陶芸家が「ポケモンキャラクター」とのコラボで制作した独自商品なども、人気を博したそうだ。
「モノ」だけでなく、「コト」でも、富裕層向けにオリジナルのラインアップに力を入れる。店外のホテルでの外商顧客限定のおもてなし企画や、社内の旅行事業部門と提携した特別感のあるオリジナル旅行も企画している。
百貨店の外商部門では、上得意客向けのサービスとして「特別割引」が主流だったが、加藤氏は、「富裕層のお客さまであれば、今はお値段を安くするよりも、プレミアムなノベルティをおつけするなど、付加価値で還元したほうが喜ばれると思う」と言い切る。
2030年までに外商部門の売上構成比を30%に
同社が外商部門を事業拡大の「テコにする」という意味は、商品やサービスの拡販だけではない。同社が長年培ってきた「富裕層における人脈・信用」を資産として、新たな事業でも活用しようという目論見なのだ。
その一環として、高級外車ディーラーや高級マンションのデベロッパーといった外部の事業者と提携、同社の外商顧客を紹介する見返りとして、成約した場合、一定のフィーを得るというビジネスモデルを検討中だ。百貨店は、かつてグループ会社で自動車や不動産の販売に進出したケースもあったが、現在では「ソフトアライアンス」のほうがお互いにメリットを得やすいだろう。
「ウィン・ウィンでビジネスが広がるなら、ライバル企業とも、積極的に手を組むべきだと考えている。例えば、当社は、自社カード以外のクレジット会社とも、販促企画などで提携している。ほかのクレジット会社にとって利用拡大できるのはもちろん、他社カードをよくお使いになるお客さまにとっても便利だし、当社の売上も増えるので、“三方よし”になる」(加藤氏)
そのほか、同社の百貨店内に出店しているラグジュアリーブランドのショップで、外商顧客のお目当ての商品がなくても、店外のブランド直営店を紹介するといった取り組みも実施している。もし直営店で外商顧客が商品を購入した場合、同社も一定の報酬を得られる仕組みだ。「提携先での売上も、当社の外商担当者の成績に加算する」(同)
大丸松坂屋百貨店の売上高(GINZA SIX除く)のうち、外商部門の占有率は現在、約27%だが、「2030年までに、30%まで引き上げるのが目標」と、加藤氏は意気軒高だ。