2018年、LCC就航で台湾旅行が人気となり、これをきっかけに火がついたタピオカドリンクブーム。しかし、ピークを迎えた2019年以後、ブームは陰りを見せる。店の乱立で希少性が薄れたのに加え、新型コロナによる外出控えで、客足が激減したのだ。しかし、完全にブーム終息したと言われる中で、今もなお出店拡大を続けているチェーンがある。「ゴンチャ」だ。かつてはタピオカドリンクの代名詞的なブランドの一つだったが、なぜブーム後も好調なのか。運営会社であるゴンチャ ジャパン(東京都)社長の角田淳氏に聞いた。
タピオカではなく「ティーカフェ文化」を広める
ゴンチャは、世界に2200店を展開する台湾発のティーカフェだ。カスタマイズできるのが特徴で、5種類からまずお茶を選び、次に甘さを4段階、氷の量を4段階、さらにパール(タピオカ)、アロエ、ナタデココ、ミルクフォームのトッピングから最大3種類を選び、自分好みの一杯を楽しめる。ゴンチャが日本に上陸したのは2015年で、タピオカブーム以前のこと。「日本にティーカフェ文化を作る」ことがその狙いだったのだが、2018年にタピオカブームの波が押し寄せ、期せずして売上がそちらに偏ってしまったという。
とはいえタピオカは、ゴンチャにとっても「こだわりの強い」トッピングではあった。店内調理をすることででの調理にこだわり、もちもちと歯ごたえのあるタピオカを提供、ブームを牽引した。だからこそ「終焉」のインパクトは大きかったはず。ブーム後も生き残っている理由について角田氏は、「アジアのお茶がメーンの大手チェーンがほかにないのが大きいのでは」と分析する。
日本では、家庭ではお茶を淹れて飲むが、街を歩くときはペットボトルや水筒で持ち歩く以外、あまり飲む機会がない。それに、日本のお茶は何も加えず食事と楽しむものだが、アジアで流行するお茶は、砂糖やミルク、トッピングを加えたり、フローズンで飲めるものなど、バリエーション豊かだ。この「多様さ」が、ファンに選ばれている理由ではないかと話す。
顧客を惹きつける「おいしさ」「楽しさ」
商品力もものを言っている。ゴンチャのお茶はストローを指す瞬間から、トッピングの食感、クリーミーなミルクフォーム、お茶の旨味と香りまで、「すべてがまとまるよう計算して設計されている」と角田氏。この一体感が、「おいしく、楽しい」体験として客を惹きつけているのだという。加えて角田氏は、「ゴンチャのファンの中心である10代、20代の女性にとっては、ストレスがないことも重要だ」と指摘する。甘さの増減や氷の量など、「すべてがカスタマイズで思い通りにできる」ことが喜ばれているのだ。
ちなみに、商品の中でも特に人気なのは、一年に9~12種類が登場する季節限定商品だ。旬の果実を主役に、幅広い層が楽しめるよう工夫が凝らされている。Xなどのソーシャルメディアでゴンチャについて語られる際、最も多いのが季節限定商品だそうで、その数が多ければ多いほど、来店数も増えるのだとか。開発は本国台湾ではなく日本チームで行われており、魅力ある商品づくりが命題となっている。
客と従業員の「推奨度」を上げる
現在、毎年約20店舗の出店を続けるゴンチャ。だがそうはいってもブーム終焉と新型コロナの影響は小さくなかった。2019~2021年にかけての売上高は、2018年に比べて半分以下に落ち込む場面もあった。その窮地を救う救世主として、2021年に社長に就任したのが角田氏だ。前職でサブウェイを立て直した経験を買われた形だった。
再生に向け角田氏が進めたのは、2つの「推奨度アップ」に向けた調査だ。1つめの調査相手は客。「ゴンチャを友達や家族に勧めるか」を丁寧に聞いた。次の調査相手は従業員。「ゴンチャを働く場所として勧めるか」を尋ねていったという。
これらの結果から「勧めない理由」に焦点を当て、改善の効果が大きいと見込んだ課題から集中して解決していった。狙いは、客と従業員が店舗で過ごす時間、働く時間の「体験価値」を上げていくことにあった。「再生への近道はない。1つ1つの問題の火を地道に消すことで、満足度を上げていくしかない」と角田氏は言う。彼のサブウェイ時代の異名は「消防士」だ。
この際に行われた改善で、最も注力したのは待ち時間だ。注文から受取までの時間を短縮するため、モバイルオーダーの仕組みやセルフオーダー端末も導入した。次は「NO」を言わない接客。なぜなら、客から何らかの依頼があったときに「NO」を言うのは、客と従業員、両方にとってストレスとなるからだ。
それまでは、例えばカスタマイズの依頼があった際、規定によって「できない」と断っていたこともあった。だが角田氏は、決まったレシピがあるとしても、「量を減らす」「ミルクフォームを抜く」など、できることなら要望に応える方針を打ち出した。さらに、販売終了していたが惜しむ声のあった複数の商品を復活した。反対に、コーヒーメニューは廃盤に。「もし蕎麦屋にラーメンがあったら、『この店大丈夫?』とお客さまは不安になってしまうだろう。ブランドの強みをしっかりと打ち出すためになくした」(角田氏)
従業員に向けた改革では、好む音楽を選んで導入したり、髪色も自由にした。また、「推奨度」が低い店では、「アルバイトの時給設定が周囲の店と比較して低くないか」「意味不明なルールや、無駄な仕事がないか」「定期的にミーティングが行われ、目標が分かりやすく共有されているか」などを確認して、真摯に改善していったという。
こうした改善を受けて、店舗従業員の「推奨度」がいち早くアップ。次に客、オフィス部門の従業員と続いた。オフィス部門従業員の「推奨度」は、業績の改善が目に見え、前進している感覚が得られるに連れて上がったそうだ。「ゴンチャの今の最大の目的は、それらの推奨度が上がることで高まる体験価値を守り、ファンになってもらうことにある」と角田氏は強調する。
店舗ではなくファンを増やしたい
2024年現在、全国に約170店舗を展開するゴンチャ。将来的な目標として1000店舗、まずは400店舗展開を近い目標に据えている。だが、出店には慎重だ。「店舗数を増やしたいのではなく、あくまでもファンを増やしたい」と角田氏は話す。ファンが増えれば、1店舗に来店する客が増える。それによって接客や待ち時間の満足度が下がったら、体験価値の質が担保できないため近くに2店舗を開ける。そういう順番なのだと。そのため、今後は関東、中部、近畿など、客数が多いエリアを中心に拡大していく予定だ。
ゴンチャの店舗の形態は、10坪のティースタンドから30坪のティーカフェまでさまざま。これも統一することなく、立地やニーズに合わせて作っていく。「これからもファンとゴンチャ、従業員とゴンチャのエンゲージメントにフォーカスしていきたい。しっかりと目線を合わせ、驚きと楽しみを届けることが自分の役割だ」と語った。