構造的なインフレが始まっている。今後、政策金利は下がることはないだろう。一方で業績の良い大企業では給与所得は上がるかもしれないが、個人レベルでみれば給与アップなど望めない人の方が多いだろう。NISA(小額投資制度)の後押しもあり、「国民総投資家時代」の幕開けというわけだ。
そうしたなかで、今回はいかにして株式投資で資産を増やすべきか、そのなかでアパレル企業への投資が実は有力な選択肢の1つとなりうること、そこで勝つための手法を解説したい(本論考は特定の銘柄への投資を推奨するものではありません。投資は自己責任でお願いします)。
安易な“億り人”本を鵜呑みにするな
まず、皆さんに申し上げたいのは、勉強せずして資産を増やすなどというのはあまりに虫が良すぎる考えだということだ。書店に行けば、「たった10万円から1億円へ」「あなたの資産を数億円にする。“億り人”になろう」など、「頭を使わずに、この株を買えば金持ちになれる」という初心者に響く題名をつけた本が並ぶ。
だが、こうした本に安易に飛びつくのは危険だ。都合の良い状況が今後も続くことを前提につくられているからである(もちろん、その前提通りになれば億り人になれるが、不確実性は極めて高い)。もちろん著者は自分なりのメソッドでやったわけだが、それが他人においても再現性があるとは限らないし、運もある。そのことを知らずに単にマネだけするのは危険だということだ。
「これからは、売上・利益などあなたには全く関係ない指標を追いかけてもしかたない。また、業績が良い企業の株は人気があるため、あなたが買いたいと思った時にはすでに、プロが大量買いして株価が上がった後だ。さらには「アパレル業界などオワコンだから株式を買ってはいけない」というのも間違いだ。
株式投資で儲けようと思ったら、下落時と高騰時の差が大きい、つまりボラティリティが高い株式銘柄ほど儲け幅が大きくなるが、同時に損失幅も大きくなる。一方、下落時と高騰時の差が小さい株式ほど儲け幅と損失幅が小さくなるのだ。
こうした話をすると、必ずでてくるのは「元本保証(投資した金額は絶対に回収できる)し、上がる株はないのか」というものだが、そんなものはない。光があるところには闇があり、良いことがあれば悪いこともある。株式投資における損と得は裏腹なのだ。
かくいう私のパフォーマンスを申し上げると、2024年は自分の投資のやり方を守ることで数百万円の儲けを出した。ここまで儲けがでると「働くのが馬鹿らしくなってくる」ほどだ。いろいろな人がいろいろな投資法を述べているが、私の直近5年の経験から言って答えは一つ。「そんなものはない」が正解である。
だから、こうしろ、ああしろ、あればいい、これがいいというのは信じない方がいい。自分で考え、自分で仮説を立て、その通りに行くか、行かないか、それを愚直に繰り返すことで儲けが決まる。これが投資なのである。
次にこれから始める人に向けて、投資の始め方と私が実際どういう風に始めたかをお伝えしたい。
投資の始め方 100万円貯め、高い授業料を払うつもりで行うことは?
まず、投資を始めようとする人は、欲しいものがあっても我慢して、まずは100万円貯めよう。これを逆の発想で、「どうせ100万円貯めるのだから先に欲しいものを100万円で買おう」と考えるのは失敗の第一歩だ。
とにかく、自分の給与、奧さんの給与の中から消費を我慢し少しずつでよいので100万円を貯めよう。最初に言っておくが、この100万円は捨て金になる可能性が高い。高い授業料だが、投資をして成功している人は誰でも通る道なのでここはぐっと我慢し、そこから自分なりの投資手法を編み出そう。
例えば、まことしやかに言われる「分散投資」(例えば100万円だと、10万円ずつ10の企業に分散投資をする)をすれば、損をする企業もあれば得をする企業もありトータルでリスクをコントロールできるという手法だが、そんなことをチマチマやっていても目標金額にいつまでたっても達しないというジレンマもある。
私の場合は、グロース市場から1社アパレル企業を選んで、(私にとって)大きな投資をした。その企業は私が買いを入れる直前、一気に26%も株価が落ちたが、グロース市場というのはそういうものだ。一分、一秒が勝負なので、逆に20%上がったら売りという具合に自動売買を設定しておいたところ、忘れた頃に自動で売り買いがなされしっかり売れた。つまり、その企業は、50%も株価が上がったことになる(なお、いちばん下落したタイミングで買って、いちばん上がったタイミングで売る、というのはもはや神業だ)。
また、自分で設定した範囲内であれば、株価が上がらなければ上がるまで待てば良い。だから、投資は、絶対に「必要資金でやってはならない」のである。
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アパレル企業への投資、抑えるべき4つのポイントとは
それでは、アパレル産業に対して如何にして投資をしていけばよいのかを考えていきたい。
繰り返すが、「アパレルはオワコンだから投資に向かない」と考えるのは誤りだ。投資にオワコンも何もないからだ。前述のとおり、「最低価格と最高価格の差」が大きい株式銘柄であれば、たとえ業績が振るわなくても十分投資に値する。
例えば、今にも破綻しそうな企業があったとしよう。これをどこかの企業が買収しようと声を上げれば、当然、株価は上がる。その時大事なことは、あなたが、その企業の中に投資に十分見合う「強み」を見出すことができるか、あるいは強みが見えるかどうか、なのだ。
「この会社は絶対的な“強み”があるから、どこかが絶対に買うはずだ」
そう確信すれば、あなたの責任(投資は自己責任だ)でその企業の株を安く買うことも可能だ。逆に、トヨタやソニーのような超優良企業の株価はほとんど動かない。売り手と買い手が均衡しているので、大きく儲かりもしないが、損失も少額だ。そういう意味で、アパレルの投資は非常にダイナミックでおもしろい。
また、アパレルのP/L(損益計算書)は信じられない。「信じてはならない」という方が正しいかもしれない。それは、アパレルのP/Lは余剰在庫を損失計上するか否かで利益率を自由に変えられるからだ。
ここを間違っている人が多いのだが、正しい会計処理は処理方法が変わらなければよくて、企業の数だけ在庫の処理方法があることになる。また、正しいか否かは会計士が決めるのではなく、基本的には事業責任者が決めることで、会計士は会計処理が昨年、一昨年前と変わるか否かを調べ、同じ処理方法であれば「正しい」ということになる。したがって、株式の高値、安値を見るPERは会社の数ほどあることになり、まったく当てにならないわけだ。
例えば、ワークマンのようなトレンドに左右されない作業服などは長いものになると数年も損金処理せずに在庫として持ちづけることができる。私が手がけた通販は2シーズン経つと損金処理をしていて、なんと家具など10年先でも定価で売れるような商品でも2シーズンで損金処理をしていた。こんなことをしていたら、ユニクロよりベーシックな家具や雑貨までファッション商品と同じ処理をしていることになる。
つまり、在庫に対して保守的な企業は、トレンドに左右されやすく、ある一定期間が立つと商品価値が下がるから損金処理をするのだが、逆の企業もあるということだ。すでに価値のない(=マーケットで売れない)在庫を簿価で大量に保有し、それゆえ例年高い利益率を維持している企業があるとすれば、そこは要注意ということになる。繰り返すが、たとえそうだとしても会計処理上正しければ、それは「適正」なのである。
アパレル企業への投資で儲けようとしたら、①期限を決めず長く持つことができる余剰資金でやる、②投資に十分見合う「強み」があるかどうか、③見る目を養うこと、最後に④販売している商品の価値の残存期間と在庫評価損の期間を考慮する、の4つが大事だ。もちろん日経新聞などでアパレルの記事をしっかり読み込むことも必要だ。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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