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ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェース依存めざす理由と新戦略の評価

アパレル業界にかかわりのない人やファッションにさほど興味のない人であれば、Goldwin (ゴールドウイン)という名前は知らない人が多いと思う。しかし、「The North Face 」(ザ・ノース・フェイス)という名前は誰も「アウトドアブランドね」と即答できるほど知名度は高い。実は、ゴールドウインとは会社の名前であり(同名のアウトドアブランドも展開する)、その基幹ブランドがザ・ノース・フェイスである。今日は、ゴールドウイン社が7月に発表した2029年3月期を最終年度とする「新中期5カ年経営計画」を分析し、その可能性やリスク、実現可能性などについて私の所見を述べたいと思う。

「THE NORTH FACE CAMP」

ザ・ノース・フェイス擁するゴールドウイン社とは

 まず、名前の整理からはじめたい。Goldwin(ゴールドウィン)というのが会社名で、同社が展開するブランドとして「The North face」(ザ・ノース・フェイス)と「Goldwin」(ゴールドウイン)などがある(そのほかにもアウトドアアパレルの「HELLY HANSEN」、スイムウェアの「speedo」なども取り扱う)。以下、社名については同名ブランドとの混同を避けるためゴールドウイン社と表記する。

 このザ・ノース・フェイスというブランドはモンスターブランドで、153月期は200億円台だったのだが、243月期には975億円となり、わずか10年で売上規模は5倍に膨れ上がった。

 243月期のゴールドウイン社の売上高は1269億円だったので、会社全体の売上高の実に77%をこのザ・ノース・フェイスが占めていることになる。

 さてこのザ・ノース・フェイスというブランドは、1966年にアメリカで誕生したアウトドアブランドで、現在VFコーポレーションがそのブランドを所有している。そして、日本と韓国においてはゴールドウイン社がザ・ノース・フェイスの商標権を持っている。

ゴールドウイン社の新中計点検 
ザ・ノース・フェイスの構成比は減少

 さてそのゴールドウイン社の5か年計画をみていきたい。最終年度である293月期の全社売上目標は1885億円(年平均成長率8%)、このうちザ・ノース・フェイスは1280億円をめざす。5か年でザ・ノース・フェイスは売上高を300億円積み増す計画で、この時点で会社の売上構成比は68%になる見通しだ。会社全体に占める構成比が243月期比較で9ポイント落とすと言っても、当然、依然同社の屋台骨を支える基幹ブランドと位置付けられる。

 ワンブランドで国内売上1000億円を超えるメガブランドは日本にそれほどない。有名なところではファーストリテイリングのユニクロ、GUがそうだ。しかし、ザ・ノース・フェイスは、(日本では)安価品ブランドではないため、この価格帯でSPA型ワンブランドで1000億超えの目がブランドは外資ぐらいだろう。

 これだけの規模とロイヤルティを持つブランドで、かつ「衣料品アパレルはスポーツカジュアルしか売れない」と言われているなか、もっとザ・ノース・フェイスの割合を高め派生ブランドを立ち上げながら売上を上げていくのがブランドビジネスのセオリーである。だが、同社は「Goldwin 500」というプロジェクト名で、5カ年で社名と同じ名前のSPAプライベートブランド「ゴールドウイン」で中計期間中に売上300億円をねらい、その後の4年で、500億円まで成長させるというプランをもっている。

 ライセンスの関係で海外展開の限られる基幹ブランド「ザ・ノース・フェイス」の成長を持続しながらも、ゴールドウインブランドの海外展開を急ぐ考えで、とくに中国での展開を加速させ、年間4店舗の出店を進める計画だ。

 

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ザ・ノース・フェイスと関係の深い
韓国YOUNGONEでの経験

 実は、私は今から78年ほど前になるが、毎週のように韓国に出向き半年続いて、韓国のアウトドア用品、ウェア大手であるYOUNGONE(ヤングワン)という会社のプロジェクトリーダーをしていた経験がある。古い話なのでもう事情が変わっている可能性は大いにあるが、当時の韓国はほとんどがFC (フランチャイズ)で、このYOUNGONEが韓国のザ・ノース・フェイスの(一部の)ライセンスホルダーだった。手前味噌だが、当時、私がいたカートサーモンの調査は非常に高く評価され、その後、YOUNGONEから別のコンサルティングの依頼を受けたほどだった。

 なぜ、YOUNGONEの話を持ち出したのかというと、まさにザ・ノース・フェイスのライセンスの問題である。古い話なので正確な記憶ではないが、エリアごとにライセンスが分かれれており、中々調査が思うとおりに進まなかった。私は各種小さいヒントから大きな仮説を導き、それを一つずつ確認してExternal due diligence (外部からの情報だけで当該企業の内部査察を行うプロフェッショナルな仕事術。大変な経験と人脈がなければ成功しない)を行っていった。その報告書は先方の役員に高く評価され、仕事が終わった後に、来日した会長から、渋谷のマークシティ内のホテルで新しい仕事の話をいただいた。

 丁度そのころ、日本のゴールドウイン社は、プライベートブランドのゴールドウインを立ち上げていた。私の完全な憶測だが、当時のゴールドウイン社幹部の心情を言うなら、「ザ・ノース・フェイスはどんどんメガブランドに成長し、日本だけで動かすわけには行かず、とくに中国や東南アジアなど、これからの成長市場で自由にビジネスができない。だから、ライセンスが複雑なザ・ノース・フェイスよりも、自分達の自由になるメガスポーツブランドをいち早く作り上げなければならない」というものであったのではないだろうか。

 ライセンスによる“擦った揉んだ”で、記憶に新しいのは三陽商会とバーバリーである。業界全体でみると、ライセンスについては伊藤忠商事は非常にうまくコントロールしているが、ゴールドウイン社の場合は、三井物産と身も心もがっぷりつながっている。ザ・ノース・フェイスのライセンスは日本と韓国に限られるからこの成長余地には限界があり、三井物産の協力の元、「ゴールドウイン」ブランドを思いっきり中国を軸に海外に拡大させたいということではないだろうか。なお、韓国ではYOUNGONEと合弁会社を設立し、ゴールドウインの販売を強化していく方針だ。

ゴールドウインのビジネスに欠かせない
韓国アパレルの特徴とは

 さて、ゴールドウイン社のビジネスにおいて重要な韓国アパレルの状況について少しふれておきたい。

 その前に知っておきたいことが、確実に私の予言「外資の日本買いが始まる」が動きだしているということだ。

 ここ最近、私の元には、海外アパレルの日本市場参入に関する講演依頼が多く舞い込んでいる。来週は、全員海外の人で、世界のアナリストを相手に、日本市場について語るのだが、講演は30分でQ&A1時間もある。つまり、ディスカッションに時間を割きたいということなのだ。また、先週は、16社の中国のアパレル企業相手に日本市場の分析とユニクロやシーインのビジネスモデルについて語ったばかりだ。

 話を韓国アパレルに戻そう。私は10年以上前から韓国を「要注意国」にしていた。韓国は前述のとおり通販が非常に流行っているのだが、リアル店舗はほとんどがFC (フランチャイズ)形式で、オーナーの気が変わると、アパレル店がいきなりチキン屋やコーヒーショップに変わってしまうのだ。

 また、私は韓国でフォーカスグループインタビューをやったのだが、国民が好きな色合いは派手な原色が多く、ザ・ノース・フェイスでも派手な紫や赤、黄色などがミックスしたような服が流行っており、日本で流行の商品をもってゆくと、「日本の服はみんな無印良品だ。色にバリエーションがない」といわれたものだ。

 韓国でアパレルが勝つためのとっておきの戦略を教えたい。それは極めてシンプルで、「韓国で勝つためにはロッテに行け」だ。韓国ではスーパーマーケット、ショッピングモール、百貨店、ECなどの流通はみな財閥が掌握している。だから、ロッテ(あるいは他の財閥)のキーパーソンを押さえれば、ほとんど全ての流通を確保できるわけだ。「ごちゃごちゃ考えるな、これがリアルビジネスだ」と韓国オフィスの友人は私に笑いながら語った。

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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