鰻の専門店チェーン「鰻の成瀬」が破竹の勢いで店舗網を拡大している。2022年9月に1号店である「横浜本店」(神奈川県横浜市)を出店して以来、わずか2年弱で210店を超えようという驚きのスピードで出店している。短期間での急成長とその成功要因などについて運営会社であるフランチャイズビジネスインキュベーション(東京都)の山本昌弘社長に聞いた。
立地を限定せず、独自の機器で品質を維持
「鰻の成瀬」の店舗拡大ペースは他を圧倒するスピードだ。他業種からの法人のフランチャイズ加盟店が多いが、店舗拡大の勢いを維持できる理由は「物件、お金、人にある」と山本社長はいう。「鰻の成瀬」の2024年4月末時点の店舗数は150店。そのうち9店が直営店だ。直近では6月末に熊本、岡山、栃木とまさに矢継ぎ早に出店している。
ウナギのビジネスを始めたきっかけについて山本社長は「飲食は立地が勝負だと思っていたが、ウナギには立地が関係ないということに気付いた。駅前にウナギ屋があったとしてもふらっと入らない。ウナギを食べたいと思ったら、インターネット検索をしてよさそうな店を探すのではないかと考えた」と説明する。
チェーン展開するにあたって、同社は都市部だけでなく、郊外のロードサイドにも出店するなど、立地を限定していない。むしろ商圏が広く取れて車による来店が可能なロードサイド店舗は、雨などの天候や駅前物件のように駅のポテンシャルに左右されないため、売上も好調に推移しているという。
さらに、物件探しの際には三等立地への出店でも構わず検討するという。これにより参入障壁は低くなった。三等立地かつ居抜きでの出店を行うことで、新店費用も抑制できる。
人材という側面で見ると、ウナギの調理は職人のスキルに依存するというイメージがあるが、同社は独自の調理機器導入し、属人化を排除。均一なクオリティで商品を提供することが可能になった。
集客は基本的に加盟店のオーナーが担うが、本部はノウハウの提供に加え、それらの業務を本部に依頼できるプランも用意している。ノウハウ提供後は自由に任せるということではなく、必要事項は必ず実践してもらうことで、不振店舗を出さない仕組みづくりを確立している。
低価格を実現するための工夫
同社のもう一つの特徴は、「リーズナブルな価格」と「メニューのシンプルさ」である。看板商品である「うな重」は「梅」が1600円。「竹」が2200円、「松」が2600円と、個人経営店と比べて大幅に安い。山本社長は「事業を始めるときにめざしたのは、ランチだけで売上利益が確保できる“ランチ逃げ切り”の業態。(ウナギであれば)ランチの価格が2000円でも『安い』『コスパがよい』と感じてもらえると思った」と話す。
コストに最も影響する調達では、養殖のニホンウナギを海外から輸入しており、商社を介して養鰻場や加工場との年間契約などを結んでいる。ビジネスの開始から現在に至るまで値上げは一切していないことからも、安定的な調達環境であることがうかがえる。
価格の据え置きが実現できている背景には集客やオペレーションでの工夫もある。
たとえば同社は既存鰻専門店チェーンでは見られなかった広告やSNS(交流サイト)の活用を積極的に実施している。驚くべきは自社サイトのPV数で、2024年3月の月間PV数は65万と同規模の外食チェーンと比べても多い。
「飲食業界では自社サイトを持つ店が少ないため、ブルーオーシャンを意識的に取りに行った。プレスリリースを作成し、メディアに取り上げてもらうことで、流入が増えてPV数がどんどん上がっている」と山本社長は話す。PV数が上がるほど、出店において重要な不動産情報も入るようになり、人材採用も進むというメリットも発生しているという。
さらにSNSでは「ファンづくり」を意識しているという。山本社長はX(旧ツイッター)に1号店「横浜本店」の売上を毎日投稿し、公開している。売上の変動を目の当たりにすることで、フォロワーや閲覧者には「応援したい、食べてみたい」という気持ちが生まれるというわけだ。
また、メニューのシンプルさはオペレーションのシンプルさと比例する。人材難の中、メニュー数を増やさず、オペレーションを極力シンプルにすることで、スタッフの負担が軽くなり、雇用や定着率を維持できるという社長の哲学も具現化されている。
生ドーナツのFC展開を準備中!
運営元のフランチャイズビジネスインキュベーションでは、来年夏までに47都道府県全域で店舗網を300店に拡大する計画で、国内出店の勢いは今後も続いていく。ただし「すべての店舗が長続きできる態勢を維持するため、300店でいったん出店は抑制し、既存店の業績の検証をしてみたい」と山本社長は話す。一方の海外は6月に香港、フィリピンに出店しており、その他の国からもオファーがあるという。
そのような中、山本社長が新ビジネスとして着目し、準備を進めているのが生ドーナツのフランチャイズ展開だ。「ウナギは夏に強く、冬に消費が落ち着く傾向にあるが、ドーナツにはその逆の傾向がある。特性の異なる商材を扱うことで、人材の併用やオペレーションの横展開など、同社が培ってきたリソースを生かすことができるのではないか」と山本社長は話す。