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#10 180万世帯が平均4万円を出資してまで利用するコープさっぽろの戦略性

北海道現象から20年。経済疲弊の地で、いまなお革新的なチェーンストアがどんどん生まれ、成長を続けています。その理由を追うとともに、新たな北海道発の流通の旗手たちに迫る連載、題して「新・北海道現象の深層」。第10回は、北海道食品スーパー市場の3極の1つ、コープさっぽろがテーマ。営利企業と伍する、あるいは上回る力を持つに至った、その戦略性に迫ります。

昨年10月にリニューアルオープンしたコープさっぽろなかのしま店(札幌市豊平区)。自営ドラック部門(コープドラッグ)を併設した「フード&ドラッグ」業態で、組合員の交流拠点である「トドックステーション」も設けられている

3極、それぞれの提携戦略と寡占体制に変化の兆し

 2020年は、北海道のスーパー市場の約8割を占めるイオン、アークス、コープさっぽろの3極寡占体制に少なからぬ変化が生じる年になりそうです。

 その最初の動きが、イオンのスーパー事業再編の一環として3月1日に実行されるイオン北海道(総合スーパー)とマックスバリュ北海道(食品スーパー)の合併です。存続会社はイオン北海道で、合併後の売上高は約3300億円と、単独ベースで約2900億円のコープさっぽろを抜いて北海道トップのスーパーになります。

 両社はすでに販売管理システムが統一され、営業面でも協力態勢を取っていますが、本社機能や帳合などの一本化によって、より強い体質に進化するのは間違いないでしょう。

 これに対するライバルたちの戦略は対照的です。アークスは同業者のM&A(買収・合併)で成長してきた企業ですが、近年、その対象を東北の企業に定めてきました。昨年は伊藤チェーン(宮城県柴田町)を傘下に収め、道外のグループ企業を含む連結売上高は5100億円にまで達しています。

 18年暮れにバローホールディングス(岐阜県恵那市)、リテールパートナーズ(山口県防府市)とともに「新日本スーパーマーケット同盟」という新たなアライアンスを組んだことも記憶に新しい。今のところ、その提携メリットは判然としないものの、北海道市場にはM&Aの対象となる同業者はほとんど残っていないだけに、外の市場に目を向けるのはごく自然な流れと言えます。

 一方、コープさっぽろは北海道内で異業種と協業し、事業の多角化を進めることでイオン北海道との「400億円差」を埋めようとしています。

 16年にコンビニのファミリーマートと提携し、食品製造子会社のコープフーズを通じて道内のファミマ店舗向けに弁当や総菜の供給を始めました。さらに昨年には、ドラッグストアのサツドラホールディングスと包括業務提携を結び、商品調達や商品開発、物流の共同化を進めていく方針を打ち出しています。

 生協とドラッグストアの取り合わせには一見違和感がありますが、コープさっぽろは近年「フード&ドラッグ」業態を主力展開しており、自社ドラッグストア部門(コープドラッグ)の売上高は道内ではツルハホールディングス、サツドラHDに次ぐ3番手。つまり「2位・3位連合」を組み、イオン系企業でもあるツルハを追撃する構図です。コープさっぽろはもちろん、このところのインバウンド消費の落ち込みに苦慮するサツドラにとってもメリットのある提携でしょう。

コープさっぽろが道内で多角化を進める本質的な理由

コープさっぽろの宅配サービス「トドック」の配送車。900億円弱の宅配事業高は北海道では断トツで、敵なしの状態だ

 消費生活協同組合法(生協法)は、北海道の生協が海を隔てた本州で事業展開することを認めておらず、コープさっぽろにはもともと道外進出の選択肢がありません。もっとも道内での多角化に活路を求めるのは、こうした制度上の制約だけが理由ではありません。

 道内では、グループ売上高3000億円台で並走する「3極」ですが、イオンやアークスがほぼ店舗のみの稼ぎであるのに対し、コープさっぽろは店舗だけだと約1900億円。これには約100台が運行中の移動販売車の売り上げも含まれています。ほかに宅配が900億円弱、残りの100億円弱を共済(保険)、夕食宅配、病院給食、再生可能エネルギー電力の供給、葬祭など多様な事業から生み出しており、もともと多角経営を基本姿勢としてきた組織なのです。

コープさっぽろが運営する葬儀場「フリエホールつきさむ」(札幌市豊平区)。組合員の生活を「ゆりかごから墓場まで」支える生協を象徴する施設だ

 生協に出資する組合員は、その生協を利用する一般消費者です。事業を多角化し、文字通り「ゆりかごから墓場まで」さまざまなシーンで暮らしを支えることが組合員の満足度を高めることになる。一般企業が同じことをやろうとすると、経営効率が悪化してしまいますが、生協は「非営利」が建前。利益は目的ではなく、組織を持続させるための手段にすぎません。むしろ営利企業が手を出せないような非効率かつ社会が必要とする事業を次々と手がけることが支持者を増やし、出資金を集め、事業体の成長につながる性格を持っている。投資家から資金を得て事業を行い、株主利益(株価、配当、株主資本利益率)の最大化を究極の目的とする上場スーパーとは立ち位置が全く異なる組織だということです。

 コープさっぽろの大見英明理事長は、協同組合組織の優位性がどこにあるかを十分に理解した上で営利企業に競争を仕掛け、生協への支持者を増やしてきた戦略家です。07年に48歳でトップに就いて以来、食品スーパーとしてイオンやアークスに引けをとらない魅力ある店舗を展開して、消費者と生協の接点をつくり、他のスーパーが手がけることのできない生協独自の事業を通じて「固定ファン」を増やす-という成長の流れをつくりだしました。その結果、コープさっぽろの組合員数は1月に180万人に達し、組合員出資金は730億円を超えました。北海道の全世帯の65%が平均4万円の出資金をわざわざ支払って利用しているという事実が、その戦略性を如実に示していると言えるでしょう。

 大見氏は北大在学中から生協運動に関わる一方、コープさっぽろでは水産売り場の担当からスタートして大型店の店長、本部の水産部長などの現場経験を積み重ね、数々の事業改革を成し遂げてきました。「運動家」と「事業家」の両面を高いレベルで兼ね備えているという点で、新時代の生協を代表するリーダーと言うべき存在です。

「運動」と「事業」のバランスが生協の生命線

 生協は、現在のコープさっぽろのように「運動」と「事業」のバランスがよいと、組織がうまく回っていきますが、過去にはこのバランスを見失って経営危機に陥る例が散見されました。

 当のコープさっぽろも創立直後の60年代後半には「事業」をすべてに優先させてチェーンストア化に邁進。一気に北海道トップの食品小売業者へと成長したものの、他人資本頼みで店舗を増やし続けた結果、資金ショートを起こして71年に経営危機に見舞われました(当連載の2回目と3回目参照)。

 その反動から70年代のコープさっぽろは組合員組織を整備し、当時まだ社会参加の機会の少なかった主婦らによる「運動」(食の安全についての学習や、大手メーカー製品の値上げ反対運動など)の砦として、高い評価を得るようになります。ところが今度は「組合員のため」という大義名分を振りかざし、放漫経営が常態化していきました。やみくもに店を大型化し、重衣料、家電、住関連製品など「専門外」の商品に手を広げた結果、生協の生命線である食品売場までが劣化し、96年に再び資金難に陥ってしまうのです。

 資金不足は100億円規模。組合員をつなぎ止めるため、負債を関連会社に押し付けて黒字決算をつくり、出資配当を出すといった決算操作まで行われていました。一般企業ならば銀行から見放され、倒産を免れない経営状態です。そんな瀕死のコープさっぽろの救済に動いたのが、生協の全国組織、日本生活協同組合連合会(日本生協連)でした。資金と人材を惜しみなく投入し、コープさっぽろが今日の姿に生まれ変わる土台をつくったのです。自滅同然で経営難に陥ったコープさっぽろに対し、日本生協連はなぜ「超法規的」とも言うべき救済に乗り出したのか。次回はその背景を探ります。