日本のソウルフードともいえる「おにぎり」が大ブームを巻き起こしている。国内では専門店が急増し、さらに欧米においても各地で行列ができ注目を集める。手軽でヘルシー、またコロナ禍でテイクアウトの拡大も追い風になった。新たな喫食シーンを想定した商品を工夫すれば、さらなる需要取り込みも期待できるはずだ。
本稿は連載「教えて本多利範さん!」の第7回です。
効率生産できるメリット
かつては家庭でつくられるものだった「おにぎり」。遠足になると、子どもたちはお母さんが手づくりしたおにぎりを持って行くのが日本の日常的な風景だった。
1970年代後半以降、「セブン-イレブン」をはじめコンビニエンスストア各社も扱い始めた。
ちょうど私が「セブン-イレブン」の店長を務めていた頃だったが、売場で弁当とともに並べたものの最初はまったく売れなかったことを覚えている。しかしおいしい商品を開発し、粘り強く訴求した結果、徐々に動き始め、現在では1日200個以上も売れる店も珍しくなくなっている。
その後、量販店で定番商品となるほか、専門店も登場した。こうして日本の食品マーケットで、おにぎりは「中食」商品として認知される存在になった。
そのおにぎりが今、空前のブームを巻き起こしている。全国各地で専門店が急増し、生活者にとっては選ぶ楽しさが広がっている。
人気の理由のひとつは、その手軽さだろう。いつでもどこでも、手を汚すことなく食べられる。次にバリエーションの豊富さもある。具材を変えるだけで、さまざまな味を楽しめる。コメ、海苔を使用しているため、ヘルシーなイメージもあることも見逃せない。
こうした要素に加え、追い風となったのはコロナ禍だ。外食が敬遠された一方、テイクアウト需要が拡大、買い求める人が増えたことで、おにぎりは身近な食べ物になった。
また提供する側からすれば、生産性が高く、魅力的な商品と言える。機械を使用して効率的に製造できるからだ。中食工場は、おにぎりの生産比率を上げることで利益を高められる。一方、同じ米飯であっても弁当はラインで製造しており、パートタイマーさんが具材を一つひとつトッピングする必要があるのとは対照的だ。
こうした理由から、おにぎりはビジネスを展開する側のメリットが大きい商材であると言える。
フランス、アメリカでも人気
おにぎり専門店の開業が相次いでいるのは前述の通りだが、単に数が増えているだけでなく、おにぎりそのものも進化している。
FBIホールディングス(神奈川県)は2023年4月、おにぎり専門チェーンの「おにぎり こんが羽田空港店」をオープンした。「おにぎり こんが」は、東京都豊島区大塚にある、創業60年超の老舗おにぎり店「おにぎり ぼんご」が監修、唯一出店を認められたという店だ。
古式精米法による高級な米を使用し、さらに具材にも特徴がある。鮭や梅、昆布などの定番のほか「じゃこ生七味」「明太クリームチーズ」など種類も豊富に揃える。羽田空港の国際線ターミナルがある建物の一角にあり、日本人のほか外国人も行列している。
贈答需要を取り込もうとするケースもある。2021年7月オープンの「マルムス」は、まん丸のおにぎりを専門とするショップ。原材料の米は、山形県産の「つや姫」や「雪若丸」といったブランド米を使用。具材も、あぶり焼き豚やうなぎなどを組み合わせ、約20種類のラインアップを揃える。
価格は1個300〜400円。見た目のかわいらしさもあり、知人、友人へのプレゼントとして買い求める人も多いという。
日本のソウルフードともいえるおにぎりだが、人気は海外にも波及している。
フランスではパリにおにぎり専門店の出店が集中している。駅構内に店があるほか、普通のスーパーマーケットでも「おにぎりコーナー」を特設している。1個600円程度で販売されており、すでに定番商品の地位を獲得した。注目されたきっかけは、日本のアニメや漫画を通じてというのも興味深い。
アメリカでは、ハンバーガーなどと同様にファストフードのような感覚で食べられている。人気の追い風となったのは、日本と同様、コロナ禍におけるテイクアウト需要の拡大。日本食ブームや口コミで認知が広がり、さらにファンが増えている。
国内外で注目のおにぎり。生産性の高い商材でもあり、具材を工夫するほか、新たな喫食シーンを提案できれば、さらなる需要取り込みも期待できるだろう。
本多利範さんの書籍「お客さまの喜びと働く喜びを両立する商売の基本」
定価:1650円(本体1500円+税10%)
発行年月:2022年03月
ページ数:276
ISBN:9784478090787