本日は、アパレル業界のチャネル戦略の変遷についてまとめたうえで、最新の戦略的なOMO(オンラインとオフラインの融合)について解説したい。
ECで服が売れる理由はリアル店舗の存在にある
アパレル業界のチャネル戦略の変遷をおさらいしよう。
2000年、ECが大きく拡大すると、「ECでは服は売れない。さわれないからだ」という議論と「いや、ECでも十分服は売れる」という2の陣営がでてきた。今この答えはすでに出ている。「ECでも服は十分売れる」、だ。
生地の手触りや肌触り、材質感を表す「風合い」という言葉がある。これをアパレル業界人は重要視しているのだが、服を指でつまんで揉むように「風合い」を確認するのは服作りのプロか繊維産業に勤めている人だけ。実は、一般消費者は「風合い」をそれほど気にしない。
また、町に出れば服を売っている店は山のようにあり、そこで色々なデザインの服を試着しているため、自分に合う服、合わない服などすでに分かっているということもある。
だから、世の中が完全にECだけだと服は売れない可能性は高いが、日本のアパレル消費の80%はリアル店舗なので、消費者は似よりの服や実際の服を近所や繁華街の店舗などで試着することができる。
マルチチャネルとO2O
こうして、衣料品のEC販売は売れ、成長していった。当時は、「毎年ZOZO(と同様の会社)が一社ずつできる」と言われたほどECビジネスは色めきだっていた。企業側もこの成長を取り込むためECを立ち上げるのだが、当時のECはパソコンが中心だったため、「リアル店舗は外出先でオンタイムに」「ECは自宅で夜間や通勤時間に」という具合に使い分けることが一般的だと考えられていた。
こうして、できあがったのが「マルチ・チャネル」(オンラインとオフラインのミックス)である。
こうして、否が応でもECについて学ぶ必要がでてきた日本のアパレルは、EC独特の経営管理手法に四苦八苦しながらもECを立ち上げていった。しかし、この時点からすでに「先が見えている企業」と「昔の手法から脱却できない企業」にわかれていったのである。「昔の手法しか見えない企業」は、ECを一つの店舗と位置づけ、館(やかた)を持つかのごとく、サーバーを借りて初期投資を少なくし費用を変動費化したのである。
当時私は、世界のリテール業界のトップファームであるカートサーモンに在籍しており、米国にアマゾンの戦略、EC全般にわたる戦略を聞いたものだった。
当時カタログ通販の社外役員をしていたこともあり、CPA(顧客獲得コスト)、CPO(コンバージョン獲得コスト)、LTV(顧客生涯価値)という考え方を熟知しており、盛んに産業界に「モールにはでるな、客をとられるぞ」と発破をかけたのだが、その叫びは完全に無視された。
話をチャネル戦略にもどすと、このように初期投資に後れを取ったアパレル企業は、ネットガリバーと呼ばれるアマゾン、楽天、ZOZOに対抗するため、彼らが資産としてもっていないリアル店舗を利用し、リアル店舗に来た個客をECへ誘導しCPAを極小化しようと考えたのである。これが、O2Oだ(オンライン・トゥー・オフライン:オンラインからオフラインへ個客を送迎する)。
O2Oがうまくいかない理由とオムニチャネルの誕生
しかし、戦略を立てたがうまくまわらない。その大きな要因は、各店舗のKPIが売上のままだという点にある。これでは、自社の顧客を同じブランドとはいえ他の店舗(EC)にとられることを嫌がるのは当然だ。だから、送客は思った通りに動かなかったのである。
そこでアパレルはKPIを、店舗の売上に加えてオンラインへの送迎も評価に加算できるよう工夫したのである。
そのころだった。Appleが社運をかけて投資を行ったスマートフォン、iPhoneが世界を席巻しはじめた。
最初は、スマホなどまた出ては消えてゆく運命だと考えていた人が多かった気がする。確かに、日本製で云えばシャープ製のZaurus(ザウルス)という小型携帯端末が出ては消えていったし、Windowsを持ち運べるサイズにしたポケットPCも数多くの会社から生まれ、そして、消えていった。
かくいう私自身も、発売開始当初はiPhoneに懐疑的だった。なにより、「あんなに小さなスクリーンで数万円もする服を買い物するようになるはずがない」ということだ。
しかし、2020年の調査では、ECによる購買の60%がスマホになっており、年代が若いほどその傾向が強くなっていたのを見て驚いた。
また、ECは、そもそもチャネルなのか、という素朴な疑問がうまれ、その位置付けも変わった。例えば在庫の有無を店舗に行く前に確認出来る、ほしい服を近い店舗に送り、そこで試着ができるなどなど、EC (電子商取引)ではなく、「顧客体験」を向上させるツールとして活躍することになったのだ。
ここからでてきたのが、「オムニチャネル」である。オムニチャネルは、一方向でのデリバリーしかない「クロスチャネル」と異なり、いつでも、どこでも、どうやってでも、お買い物ができるようにする概念だ。私が、アマゾンの重役を退任してカートサーモンの米国に入社した人物にアマゾンの戦略とともに、オムニチャネルの本質について聞いたとき、得た言葉がそれであった。
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オムニチャネルとOMOの違いとは
こうしてできた「オムニチャネル」と「OMO」の違いを語るのは難しい。だが、瑣末な分類学を持ち出したり、誤った概念を語る人々がいるので、両者の明確な違いを明らかにしておきたい。
それは、オムニチャネルは「企業側から見たチャネル全体の構造がECとリアル店舗の得意なところをそれぞれが補う点にある」のに対し、OMOは、提供者側以上に「顧客体験」に重きを置くということだ。
例えば、在庫を検索して欠品を防ぐ場合、①在庫の一元化、②在庫の引き当てルール、③個別配送の仕組みの構築という3ステップに加え、上記のように店舗の店長の評価指標まで全てを変えなければならない。これは、企業側の体制の問題である。しかし、同時に顧客がある程度のことを自分でできるようになると、「顧客満足度」という、新たな指標が入ってくる。
OMOには本質的に、顧客にとってフリクションフリー(邪魔をするコトを削減する)という骨太な思想がある。これをデジタル技術を使い、リアル店舗に組み込む。Online merge with Offline (OMOの意味、日本語ではオンライン機能を取り込んだリアル店舗という意味)が、完成することになる。
こうした企業のEC改革のロードマップに沿ってものごとを考えれば、日本企業も「顧客起点」を中心軸に置いたOMOに行きつくのは必然である。
告知:私はまだ日本にないOMOパッケージをグローバルで探したところ、欧州、米国を中心に拡大を続けるNEW STOREというパッケージを見つけた。このNEW STOREは、今あるECに組み込むだけで比較的単純にOMOが完成する。6月18日 午後13:00よりウェビナー講演を行い、戦略的OMOの構築について私が語り、NEW STOREのデモをお見せしたい。(問い合わせ https://takukawai.com/contact/index.htmlまで)
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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