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競争市場でなぜ成長できたのか? 19年に新規上場した中華料理専門店・浜木綿の独自性

ここ数年、IPO(新規上場)市場が活発だ。2015年以降、現在に至るまで、毎年90社前後の企業が上場を果たしていて、19年もその傾向に変わりはない。だが、ここ最近はクラウド、AI(人工知能)、ビッグデータ、プラットフォームなどをはじめ、最近広く知られるようになったキーワードを含むIT系(ITを利活用したサービス含む)企業が圧倒的に多くなっている。そのなかで、決して新しい業態とはいえない外食業界からは2019年2社が新規上場を果たした。その1社が今回紹介する、「浜木綿」を主要ブランドとする中国料理専門店運営の浜木綿(愛知県/林永芳社長)だ。

「ハレの日」と「ちょっとハレの日」がマーケット

 愛知、岐阜、三重の東海地区を中心に、主力ブランド「浜木綿」(30店舗)、全室個室タイプ「四季亭」(3店舗)、少人数顧客向け「桃李蹊(とうりみち)」(8店舗)を展開する「浜木綿」が、JASDAQスタンダード市場に上場したのは、191018日のこと。上場初値は公募価格を4割近く上回る(騰落率39.15%)2950円をつけた。

 19682月に設立。自前で新卒者をフカヒレや北京ダックなど本格中華をつくれる調理師として育成する。約30年前から独自のオーダーシステムを使い料理の提供スピードを上げ、セントラルキッチンを導入することで、現在の調理オペレーションを確立した。

 自らのポジションを、「1人単価4000円~」の宴会ニーズに対応する「ハレの日」と、「せいぜい11500円まで」の日常食との中間の“ちょっとハレの日マーケット”と設定。住宅地の郊外への出店により、「1人単価2000円前後、休日に家族や友人と出かける専門的な中華料理」の店と位置付けた。

 「四世同堂(しせいどうどう。四世代が集える場。幸福な家庭の象徴とされる)レストランをめざしている」(林社長)

 197月期の業績は、売上高が前年同期比7.7%増の52億円、営業利益は同27.1%増の3億円だった。207月期については、売上高同5.1%増の54億円、営業利益同0.6%増の3億円を見込んでいる。

 

  働きやすい職場をつくる、取り組みあれこれ

 今後の成長戦略としては、まず店舗の拡大だ。現状は東海地区(愛知、岐阜、三重)で全体の9割を占めるが、他の地域の15万人商圏への出店をめざしている。新規上場により得た資金で、セントラルキッチンを整備し、駅前、繁華街といった新たな立地に対応する新業態の開発にも着手する。

 ただ同社の場合、自前で調理師の育成を行っているため、人材の育成が進まない限り、新規出店は難しい。そこで飲食業界の先駆けとなる取り組みを多数展開している。

 男女共に働きやすい職場を目指す『ひなげしプロジェクト』は、その一例。制服の改良や軽い調理器具への変更を進めている。

 ある女性社員からは「中華鍋を振ることに憧れていたが、重たそうな鍋を振る自信がなかった。でも浜木綿では、軽いチタン製の鍋を導入しており、女性の私でも無理なく鍋を振って調理ができる」という声も上がっている。現在同社では1020代の女性コックを積極採用し、各店舗で活躍している。

 外食業界に対する共通のイメージとして「長期休暇や土日休みが取りにくい」ということがある。しかし浜木綿では「入社2年目からは年110連休の取得が可能」。“社員とその家族を大切にする”パイオニア企業として、本物の働きやすさを追求している。

 

 17年、外食業界からの上場は1社(東証マザーズ「一家ダイニングプロジェクト」(千葉県/武長太郎社長)、18年も同じく1社(東証マザーズ「ギフト」(東京都/田川翔社長))だった(再上場、市場変更を除く)。19年は2社に増えた。

 厚生労働省の人口動態統計によると、19年の出生数は、1899年の統計開始以来初の90万人割れ(864000人)となり、人口の自然減は過去最大の512000人となる見通しだ。国立社会保障・人口問題研究所が17年に出した推計では、21年の出生数を869000人になると見込んでおり、予想より2年早いペースで減少が進んでいる。人口減は、ダイレクトに胃袋マーケットの縮小につながる。外食業界にとっての冬の時代は深刻さを増すばかりだ。2020年、そうした厳しい外食環境から、果たして、IPO企業としてはばたくところは出てくるのか、新たなビジネスモデルの誕生を期待したい。

 

企業概要
社名 浜木綿
本社 愛知県名古屋市昭和区山手通三丁目13番地の1

代表者 林永芳社長
設立 1968年

資本金 6億5400万円
売上高 52億2985万円(2019年7月期)