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カリモクとの仏壇コラボに「推し壇」まで!はせがわ「手を合わせる機会」の創造

団塊の世代が後期高齢者となり、これから本格的な多死社会を迎える中、読者の中には「仏壇」について購入を検討している、あるいは購入した経験のある人もいるだろう。

「仏壇」と聞くと、多くの人は「和室にある大きな観音扉の仏壇」を連想するかもしれない。ところが、住環境などライフスタイルや人びとの価値観の変化にともない、仏壇もまた多様化している。

仏壇の最新トレンドはどうなっているのか。「お手々のしわとしわをあわせて しあわせ な~む~」のCMでおなじみの仏壇業界最大手 はせがわ(東京都・福岡県/新貝三四郎代表取締役社長)経営企画部 広報担当の福田惇弥氏に聞いた。

価値観・ライフスタイルの変化で「仏壇離れ」が進行?

北海道・旭川の家具メーカー クリエイトファニチャーとのコラボ商品「cobaco(コバコ)」

 はせがわの2023年3月期決算における売上高は対前期比9.6%増の216億800万円、営業利益も同33.2%増の17億6800万円と大きく伸長し、好調をうかがわせる数字が並んだ。

 背景にあるのは、死亡者数の増加だ。厚生労働省の人口動態統計(確定)によると、2022年の国内の死亡数は約157万人と対前年比で9.0%増加。2003年に 100 万人を超えてから実に約1.5倍に増加している。

 さらに2040年には死亡者数は167万人にまで達するとの推計もあり(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」/出生中位・死亡中位推計値)、今後も堅調な需要が見込まれるように思われる。

 ところが、経営企画部の福田惇弥氏は「市場環境としては難しい状況が続いている」と硬い表情を見せる。福田氏が指摘するのは、人びとのライフスタイルの変化だ。

 「宗教離れが進むとともに、住環境も核家族化や集合住宅が中心となっており、これまでの『伝統型』といわれる大きな仏壇が売れなくなっている。購買単価も以前は35万円~40万円あったのが、現在では30万円を切っており、販売基数(注・仏壇の数え方は、1基、2基)は増えているもののそこまで売上増にはつながっていない」

 同時に、「供養」に対する価値観の変化もある。福田氏自身、店頭に立って来店者と接する中でそれを感じたという。

 「戒名や仏像、位牌などを置きたくないというお客さまが年々増えてきている。仏教のしきたりや様式にこだわらず、純粋に亡くなったご家族、大切な方に対して手を合わせたいという思いから、新しいスタイルの供養を求める声が高まっている」

家具と調和する「リビング仏壇」

カリモク家具とのコラボ商品「HK GALLERIA」

 こうしたライフスタイルや価値観の変化に合わせた新しい仏壇としてはせがわが打ち出しているのが、家具メーカーとコラボした「リビング仏壇」だ。

 その代表が、愛知県刈谷市の人気家具メーカー「カリモク家具」とコラボしたリビング仏壇だ。看板商品「HK GALLERIA」は、天然のウォールナットのぬくもりとガラス戸のデザインがヨーロッパの高級家具を思わせる。価格は50万円超と決して安くないが、高い人気を誇る。

 同じくカリモクと共同開発した「SBジャスト」は、高さ49センチの小型タイプ。こちらは30万円台で、場所を取らずリビングの棚の上にも置けるシンプルさが人気となっている。

 カリモクとの共同開発は2014年からスタート。リビングにも違和感なく溶け込めるデザインが「リビングには仏壇を置きたくない」というニーズをつかむとともに、「いつでも故人のことを思い、手を合わせられる」という新たな体験価値を生んだ。

 このカリモクとのコラボの成功から、徐々にコラボ先の家具メーカーを増やし、2017年からはリビング仏壇ブランド「LIVE – ing コレクション」として展開。今では仏壇の売上の25%を占める主力ブランドへと成長している。

 「中には、カリモクの仏壇をお買い上げいただいた後に、お部屋の家具をすべてカリモクに変えたお客さまもいる。空間づくりの一環として仏壇を見てくれているのを感じる」(福田氏)

大バズり中! 「推し」を祀れる「推し壇」

ノリタケの仏具セット

 「仏壇に明確な定義はあえて設けていない。例えば、仏壇本体が燃えづらいよう外側にお線香を立てる引き出しを付けるなど、祈りに対しての配慮がなされている設計なら仏壇として成立すると考えている」

 こう福田氏が語るように、はせがわではライフスタイルの変化や嗜好の多様性に対して柔軟なスタンスを見せる。仏壇も屋根のないステージ型のものや、位牌などを置かずに写真だけを飾るシンプルなタイプなど、多様なラインナップを揃えている。

 また、仏壇だけでなく、仏具も高級食器メーカー「ノリタケ」とコラボした仏壇用のコーヒーカップなど、異業種ブランドとのコラボも積極的に行っている。キャプション:ノリタケの仏具セット

 そこには「伝統的な仏壇仏具の枠にとらわれず、生活者の視点で『手を合わせる機会』を身近なものにしたい」(福田氏)との思いがある。

飾るアイテムの大きさに応じて屋根の高さを4段階まで調節可能にした「推し壇」

 「『手を合わせる機会』を身近に」というはせがわの思いを体現する強力な新商品が、今年10月9日に登場した。アイドルやアニメキャラクターなどの「推し」を祀る、その名も「推し壇」だ。

 フィギュアやアクリルスタンドを飾れて、20色のLEDテープライト機能も搭載。公式X(旧Twitter)の投稿には1万件を超えるリポストが付き、さまざまな「推し」を祀った写真が続々と投稿されるなど、早くも話題をさらっている。

「死」にまつわる悩みをワンストップでサポート

 一方で、はせがわでは経営課題の一つとして「売り切り型からの脱却」を掲げ、仏壇仏具の販売にとどまらない、LTV(顧客生涯価値)を高める事業も打ち出している。それが、遺品整理、相続手続き、不動産売却など死後にまつわるさまざまな悩みごとをワンストップで相談できる窓口「はせがわピースフルライフサポート」だ。

 「さまざまな手続きに時間をとられていると、故人に手を合わせる大切な時間が奪われてしまう。はせがわの店舗に来れば、供養のことだけでなくその周辺の困りごとも解決できるとの認識を広めていきたい」(福田氏)

 もともとは東京・福岡を拠点とした直営店を主流としていたが、2017年頃からショッピングセンターにもテナント出店を増やしており、店舗数も2014年の113店舗から現在は132店舗へと増加している。これらの各店舗に「はせがわピースフルライフサポート」の窓口を設けるほか、カスタマーサポートセンターも開設し、相談体制を強化した。

 伝統やしきたりにしばられず、新たなスタイルの仏壇仏具やサービスを展開し、「手を合わせる機会」を身近なものにしようと努めているはせがわ。これから本格的な「多死社会」を迎える中、はせがわの次の一手が、私たちが「死」に向き合ううえでの道標を示してくれるだろう。