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ドン・キホーテが本気で恐れる「若者離れ」の深刻な正体

「ドン・キホーテ」を中核事業に成長を続けているパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都/吉田直樹社長:以下、PPIH)。2019年1月に総合スーパー(GMS)大手のユニー(愛知県/関口憲司社長)を傘下に収め、18年度の決算ではグループ売上高はついに1兆円の大台に乗せた。国内GMS企業が総崩れのなか、ドン・キホーテだけが勝ち組の状態が続く。多くの小売業がドン・キホーテの強さに着目する一方で、PPIHだけは、これまで同社の成長を支えてきた若者が離れているとして、大きな危機感も抱いている。

“ドンキ流”に黄信号? 若者離れへの危機感

 「(本来メーン顧客だった)若い人にとってドン・キホーテが“大人”になってしまい、離れていってしまったような感覚があると思う」

 19年8月に開催されたPPIH2019年度6月決算発表会見の1コマ。この日が表舞台に出た最後となった大原孝治CEO(当時)は、このように警戒感を露にし、報道陣を驚かせた。具体的な数値データについての言及はなく、あくまでも大原氏の私見ではあるが、その可能性を否定できない要素はいくつか考えられる。 

 1つは、「MEGAドン・キホーテ」やダブルネーム店舗の開発など、ファミリー層に向けた店舗開発が強化されている点。これは、かつてドン・キホーテを使っていた若者が歳を重ねるにつれ、PPIH側も彼らのニーズの変化に応えるかたちで店を変えていったと捉えることもできる。つまり顧客と一緒に年をとった結果、今日の若者にとってPPIHの店舗が、彼らの消費欲求を満たす存在ではなくなっているのかもしれないという仮説だ。

 しかしそれ以上に、PPIHが考える「リアル店舗の魅力」が、若年層に響きづらくなっているという可能性もある。

宝探しをリアル店舗ではなくSNSで行う若者たち

 迷路のように入り組んだ通路、天井近くまでうず高く商品が積み上げられた「圧縮陳列」、ド派手なPOPの洪水――。そうした“猥雑”な雰囲気のなかで、宝探しをするような感覚でワクワクしながら買物を楽しめる「時間消費型」の店づくりが、PPIHが考える「ドン・キホーテの価値」だった。しかし都内の大学生に話を聞くと、「買物することはあるので『ドンキ離れ』といわれるとピンと来ない。でも、事前に買うものは決まっているから、(ドンキは)時間をつぶす場所にはならない」と断言する。「買うものが決まっている」のは、彼らがツイッターやインスタグラムなどのSNSであらゆる情報を収集するためだ。 “宝探し”なら、SNS上でも十分体験できるというわけである。

「アマゾンという巨艦にはどうあがいても勝てない」(大原氏)として、PPIH18年に国内EC事業から全面撤退している。勝ち目のない競争に参加するよりも、リアル店舗の価値や魅力の最大化に集中するほうが得策、という考え方である。しかし、その価値や魅力が若年層に響いていないとすれば、PPIHは新しい店のあり方を再考しなければならない。

もっとも、PPIHも手をこまねいているわけではない。今年11月には、外部リソースの活用を前提とした新しいマーケティング戦略「マシュマロ構想」を発表。その一環として、10代の若者をインターンシップで受け入れ、「ドン・キホーテ」に対するアイデアや要望をヒアリングしたり、SNS上で影響力を持ついわゆる「インフルエンサー」を介したマーケティングを主事業とするITベンチャーと資本業務提携を結んだりするなど、具体的な行動を起こしている。

 表れた経営課題をすぐに把握し、それに対する打ち手を瞬時に繰り出す――。変化対応を是としてきたPPIHならではのスピード感も、彼らの成長の根源にあるのだろう。

米国事業を行うはずの大原氏は雲隠れ…

 さて、冒頭の決算発表の場では、大原氏がPPIHCEOおよび国内グループ会社のすべての役職から退くことを発表。後任として、代表取締役専務兼CAO(最高事務責任者)を勤めていた吉田直樹氏がCEOに就任することを明らかにした。大原氏は米国事業に専念するため、同事業の運営会社のトップに就任すると発言。しかしその後具体的な動きは見られず、“雲隠れ”の状態だ(自身のインスタグラムでは、「9月25日を持って(株)PPIHを完全卒業」と発表)。

 いずれにしても、1978年に創業者の安田隆夫氏が東京都杉並区内にドン・キホーテの前身「泥棒市場」を開業してから約40年。かつては競合とすら見られていなかったユニーも手中に収め、1兆円超の売上規模を誇る国内有数の小売企業に上りつめたPPIH。吉田新社長のもと、GMSの新たな盟主としての一挙手一投足から目が離せない。