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島村楽器・廣瀬利明社長に聞いた「過去最高売上」連続更新の裏側

イオンやパルコなどショッピングセンターに数多く出店し、2023年10月現在で全国39都道府県に180店舗を展開する島村楽器(東京都)。店舗数、売上ともに業界ナンバーワンの総合楽器店だ。経営の舵を取るのは、今から10年前の2013年に創業者からバトンを受け取った廣瀬利明社長。社長就任後は2年連続で減益となったものの、その後は業績回復のみならず、目覚ましい成長を遂げ、10年間で売上を1.5倍、営業利益を3倍に引き上げた手腕が注目される経営者だ。楽器の販売手法、そして、これからの市場はどのように変わっていくのか。2年連続で過去最高売上を更新し、業界トップをひた走るリーディングカンパニーの経営トップに話を聞いた。

新型コロナウイルスが楽器販売に及ぼした影響 

廣瀬利明社長

 まず気になるのが楽器の売れ行きについて。人口の減少に伴い、楽器を演奏する人も減るのが自然な流れ。楽器の売れ行きにも陰りが出て市場は縮小しているのではないか。新型コロナウイルス流行下では、人の動きが制限され、楽器を演奏する機会が失われたことによるダメージもあったのではないか。廣瀬利明社長は、業界全体の動向についてどう捉えているのだろうか。

  「楽器の市場は微減ながらずっと縮小傾向だった。ところがコロナの流行によって、いわゆる巣ごもり需要の恩恵が受けられ、3年ほどは楽器の市場が少し拡大した。ただし、その効果もほぼなくなりつつあり、これから先はまたコロナ以前のように市場が縮小していく傾向に戻るのではないか」(廣瀬社長)

  巣ごもり需要の恩恵で、売れ行きの伸びがもっとも顕著だったのが電子ピアノで、アコースティックギターも販売が好調だったという。アンプにコードを接続する必要がなく、そのまま弾ける手軽さが受け、同じ理由でウクレレも売れた。緊急事態宣言で店を開けられない時期もあったものの、営業再開後はこの3種類の楽器は前年比2~3倍の売れ行きを記録した。購買層は年代を問わず、自粛期間中に楽器の演奏に挑戦してみようと考えた人が多くいたようだ。

  その一方で売上減が顕著だったのがトランペットやサックスなど飛沫が飛ぶ管楽器で、学校で吹奏楽部の活動が大幅に制限された影響も大きく、一時は売上が半減するまでに落ち込んだという。

  また楽器販売と並ぶ島村楽器の事業の柱である音楽教室でも、新型コロナ流行によるダメージを受けた。そもそも島村楽器の歴史が始まったのは音楽教室からで、日本有数の音楽教室運営会社としても知られる。

  「音楽教室は島村楽器の売上の2割ほどを占める非常に重要な事業。しかし密室で講師と生徒さんが一緒になるため、『コロナに感染するのが恐い』という理由で退会された方がいらっしゃった」と廣瀬社長。新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが2類から5類になり、人びとの暮らしが正常化して、生徒数がコロナ前の水準に回復するまでには1年半ほどの期間を要したという。

ECで楽器販売を開始して10年で20倍に成長

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 業績を振り返ってみると、未知のウイルスの脅威にさらされた2020年から2021年にかけては店舗での営業ができなかった期間がたびたびあり、売上減となった。しかし、その後は2年連続で過去最高売上を更新した。売上高を見ると、2020年2月期386億円、2021年2月期360億円、2022年2月401億円、2023年2月432億円。廣瀬社長は反転攻勢に転じた裏側を次のように分析する。

  「コロナ禍での巣ごもり需要の追い風で楽器販売が伸びたことは一つの要因としてある。しかし、それ以前に着手していた、さまざまな施策の効果が総合的に表れてきた成果だと受け止めている」(廣瀬社長)

  その一つが自社オンラインストアをはじめとするECでの楽器販売だ。しかし楽器選びにあたっては、体型、扱いやすさといった楽器との相性、音の好みなどがあるため、店に行って直接触れるほうが判断しやすいはずだ。ECでの展開は難しそうに感じられ、オンラインストアを運営するにも工夫が必要と思えるが、どのように取り組んでいったのだろうか。

  「確かに私が社長になった10年前は、島村楽器ではECに力を入れていなかった。なぜかというと、やはりしっかりと接客し、店舗スタッフが提案・アドバイスし、演奏して音を出して、その上でお買い求めいただくことこそが顧客が求める楽器店の姿だという考え方でやっていたから。しかし実は当時から楽器のEC市場は拡大しつつあり、売上を大きく伸ばしている競合店の話も複数聞いていた。確かに対面で接客してこそという考えがあり、ECから距離を置いていたが、もはやそういう時代ではないと判断し、踏み込むことにした。工夫したのは、何も特別なことではなく、商品情報を充実させること。掲載画像の充実もそうだし、音の特性を細かく解説することにも力を入れた。何よりも品ぞろえが少ないとお客さまをがっかりさせてしまうため、ラインナップの充実にも当然のこととして取り組んでいった。島村楽器の場合は、店舗の在庫が出店地域や顧客層の違いでそれぞれ異なり、特徴がある。それらを積極的にECのサイトにアップし、バラエティに富んだ商品を取りそろえることで、好調な売れ行きにつながっている」(廣瀬社長)

 数字で示せる成果では、ECでの楽器販売をスタートした当初と比べて10年で約20倍になったという。ECでの展開においても、強く意識しているのは「提案すること」で、売上好調の理由もそこにありそうだ。

 後編では、EC以外にも新たな取り組みを積極的に行う同社の戦略をまとめている。