「衛生」「環境」「健康」という3つのテーマを事業の柱とするサラヤは、日本企業の中でいち早くSDGsに取り組んだ企業だ。その原点は1952年の創業時にまで遡る。社会問題の解決とビジネスをつなげていきながら、より豊かで健やかな生活のために、人にも地球にもやさしい商品づくりに努めている。
SDGsに取り組む原点は1952年の創業にあり
「SDGs」という言葉が生まれる以前から、サラヤでは持続可能な社会を実現するための企業活動を行っている。最初に取り組んだのがボルネオの環境保全活動であり、かれこれ15年になる。だが、遡れば1952年の創業がその原点といえるだろう。当時の日本は衛生状態が悪く、伝染病が蔓延。これをなんとかしたいと考えた創業者・更家章太氏は、ヤシ油を原料に手洗いと同時に殺菌・消毒のできる石けん液と、それを衛生的に供給する容器を開発した。感染症を「治す」ことよりも「防ぐ」ことに着目し、予防の基本である「手洗い」を事業にしたのである。
同時に、手を洗うことの習慣化を広めるべく、標語を用いた啓蒙活動も実施。ハードとソフトの両方で取り組みながら、社会問題の解決とビジネスをつなげていったのである。
そんな同社が次に提案したのが「ヤシノミ洗剤」だ。高度経済成長期の真っただ中、石油系合成洗剤によって河川の汚染が進み、大きな社会問題に。そこで、ヤシの実由来の植物性洗浄成分を使った、環境への負荷が少ない食器用洗剤を開発。71年に業務用を、79年には一般家庭用を発売した。以来、人と地球にやさしい洗剤として40年以上にわたってロングセラーとなり、同社の看板商品となっている。
さらに、82年には台所用洗剤として日本初の詰替パックを開発。従来の使い捨てボトルに対して、石油資源の節約とゴミの少量化をめざしたのである。
時代に先駆けてエコロジーを追求した「ヤシノミ洗剤」だったが、2004年、思わぬかたちで環境問題を突きつけられる。きっかけはテレビ番組だ。ボルネオでアブラヤシのプランテーション(農園)が急速に拡大し、熱帯雨林が減少。そこに生きる野生動物が絶滅の危機に。原因は、アブラヤシからとれるパーム油であり、その植物油の利用企業としてバッシングを受けたのがサラヤだった。
原料の生産地・ボルネオの環境保全活動を05年より
正確に言えば、サラヤが「ヤシノミ洗剤」などの原料として使うパーム油はごくわずかだ。世界中で使われているパーム油の約85%はお菓子やインスタント食品などの食用に使われており、残りの約15%が化粧品や印刷用インクなどの非食用。そのうち洗剤に使われているのは数パーセント程度であり、大半は大手メーカー。しかしヤシの油の象徴としてヤシノミ洗剤が取り上げられたのである。とはいえ、サラヤがパーム油を使っている事実は変わらない。
そこでサラヤは環境問題の現実から目を背け「パーム油を使わない」と宣言する安易な解決法を放棄。仮にサラヤが使わなくなったとしても、世界中がパーム油を使い続ける限り、熱帯雨林の伐採も野生動物の絶滅危機も防げない。また、パーム油産業はマレーシアにとって外貨獲得の重要な手段であり、パーム油を否定することはできないことから、現実的に解決するために、この問題にきちんと向き合うことを選んだ。これが、サラヤがSDGsに取り組むようになったきっかけだ。
そもそも問題の根底にあるのは、違法労働と違法伐採を繰り返して、安価なパーム油がつくられていることだ。ルールを守ってパーム油がつくられるのであれば、環境は破壊されず、現地の産業も継続でき、今後も世界中の人たちがパーム油を使うことができる。
そこでサラヤは、2005年1月、ボルネオの環境保全活動を行うことを表明し、日本企業として初めてRSPOに加盟した。RSPOとは「持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on SustainablePalm Oil)」の略称であり、人権や環境に配慮したパーム油産業のルールづくりについて話し合う国際会議のことである。サラヤは10年にRSPO認証油をいち早く商品に採用。以来、使う原料の100%認証に取り組んでいる。
一方で、06年にはマレーシア・サバ州政府公認の国際NPO「ボルネオ保全トラスト(BCT:Borneo Conservation Trust)」設立に尽力。BCTではアブラヤシ農園によって失われた熱帯雨林の土地を買い戻し、野生動物が行き来できる森の再生をめざしている。このプロジェクトは「緑の回廊計画」と呼ばれ、サラヤはこの計画に「ヤシノミ洗剤」シリーズの売上*の1%を還元。日本に暮らす消費者もボルネオの環境保全活動に参加できるシステムを確立した。
*メーカー出荷額
ウガンダの衛生向上に貢献する活動を10年
サラヤのSDGsに対応した取り組みは、ボルネオの環境保全活動だけにとどまらない。創立60周年記念事業として始まったアフリカ・ウガンダの「100万人の手洗いプロジェクト」や「病院で手の消毒100%プロジェクト」、日本初のカロリーゼロ甘味料「ラカントS」を通じた「日本IDDMネットワーク」への協賛なども挙げられる。
前者は、09年より日本ユニセフ協会とタッグを組んで始めたもので、命を守るための手洗い・手の消毒普及事業だが、戦後の日本で衛生習慣を広げてきたサラヤだからこそできる活動といえる。しかも、「病院で手の消毒100%プロジェクト」においては持続可能な取り組みにするために、現地で手指消毒剤を製造・販売する会社を14年に設立。感染対策の重要性を啓発して広げながら、雇用も生まれる。これが普及すれば、院内感染が減り、死亡率も低くなる。ビジネスにつなげることで、予防可能な感染症からアフリカの人々を永続的に守ることができるというわけだ。
後者は、1型糖尿病に苦しむ人々を救うための取り組みであり、日本IDDMネットワークと連携。糖尿病予防・治療の研究助成をはじめ、患者と家族をサポートする活動に協賛している。
こうした持続可能な社会の実現に向けた企業活動は、商品のコストアップを伴うため、継続していくには消費者や小売業の理解・協力が不可欠だ。しかしながら、「SDGs」や「エシカル消費」という言葉が知れ渡るにつれ、自分たちが使うものや購入するものの背景を知って選択したいと考える消費者も現れ始めている。
そうしたニーズに応えていくためにも、サラヤでは今後もSDGsにコミットしていく考えだ。
本特集は以上です。第1回から第5回まではコチラをご覧ください。