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店舗の売上もアップ!不二家の冷凍スイーツ自販機が予想の3倍売れた理由

不二家(東京都/河村宣行社長)が展開する店舗の前にあるものといえば? すぐ頭に浮かぶのは、おなじみのペコちゃん人形だが、今、ちょっとした変化が起きている。20236月30日から設置が始まった冷凍スイーツを24時間販売する自動販売機「FUJIYA CAKEs STAND」だ。関東、北海道の10店舗で稼働を開始した不二家初の試みで、予想を3倍上回る売上を記録した。どのような戦略のもと、プロジェクトを進めていったのか。洋菓子事業本部管理業務部の酒井哲也氏に話を聞いた。

東京、埼玉、千葉、神奈川、北海道で展開

浦和田島店

 実店舗、ECに続く、新たな販売チャネルとして認知されてきた冷凍自販機。1910年創業、洋菓子店として110年を超える歴史を紡いできた不二家が20236月より、運営する不二家洋菓子店と不二家レストランの一部店舗で、自販機による冷凍スイーツの販売を開始した。

 東京、埼玉、千葉、神奈川、北海道の10店舗に設置した「FUJIYA CAKEs STAND」では24時間365日、店舗の営業時間外であっても商品を購入できる。10種類のスイーツが選べて、ケーキ2個で500円、スイーツボトルはスプーン付きで600円。欲しい時にいつでも買える手軽さで、価格の手頃さも魅力的だ。

 洋菓子事業本部管理業務部の酒井哲也氏によると、この自販機による冷凍スイーツ販売につながったのが、約10年前から取り組んできたセミフレッドクリームを使用した製品の開発、そして強みとするフローズン技術の活用だという。イタリア語で「セミ=半分」「フレッド=凍った」を意味するセミフレッドクリームのスイーツは、半解凍ならアイスケーキ、冷蔵温度ではチルドケーキとして楽しめる面白さがある。

相乗効果で店舗の売上も向上した

自販機冷凍スイーツのラインナップ

 「餃子の無人販売店などが注目を集める中、私たちも新しい販売手法にチャレンジしてみたいと思った」と酒井氏。実はセミフレッドクリームを使ったケーキは一時期店舗で販売したことがあり、ひそかにレシピの改良を重ねていた。

 スーパーマーケットなどで売られている冷凍ケーキは解凍に3時間ほどを要し、その間に水分が飛んでスポンジ生地のしっとり感が失われパサつくことも多い。しかし不二家には企業秘密の独自製法があり、常温に5分ほど置けばおいしく食べられるように仕上げることができた。

 自販機は大手メーカーであるサンデン・リテールシステムの「ど冷えもん」を採用。多様な容器の形状に対応し、大きさの異なる商品を1台で販売できるマルチストック方式の自販機である。展示会に河村宣行社長と瓜生徹専務が足を運び、即決したという。

 販売する10種類は「数百種類のアイテムから、自販機でケーキが買われるシーンを想像して選定した」と酒井氏。具体的には19時以降、仕事帰りや学校帰りにふと「ケーキが食べたい!」と感じた時をイメージし、どういった食べ方をされるかを深掘りして「シェア」をキーワードにした。

 自宅に持ち帰ってパートナーと分け合う、友だちと食べる、それだけでなく一人で食べて、冷蔵庫で保管して翌日に食べるという時間軸でのシェアも意識した。顧客に「喜び」「楽しみ」を提供する新しい接点として登場したのが「FUJIYA CAKEs STAND」であり、不二家の冷凍スイーツといえそうだ。

 ケーキ1個当たりの値段で比較しても、不二家洋菓子店で取り扱う商品は1500円以上で、自販機では2500円と半値以下になり、物価上昇が続く中でありがたい話だ。

 安さの秘密は原材料のコストにある。わかりやすい例をあげれば、店舗販売用のケーキには生のいちごなど生鮮フルーツがふんだんに使われるが、冷凍スイーツではそれが冷凍フルーツやシロップ漬けになる。その結果、店舗と冷凍自販機では取扱商品が明確に異なり、カニバリゼーションを起こすこともなく「相乗効果でむしろ店舗の売上も向上している」(酒井氏)という。

試算した売上見込を300%上回る結果に

東京サンケイビル正面広場に期間限定で設置されたキッチンカー

 店頭に設置された煌々と光る自販機が前を通る人の目を引いて「ペコちゃん人形のような働きというか、視認性を高める効果も出ているようだ」と酒井氏は分析する。実際、販売データを確かめると、冷凍スイーツの購入時間帯は、設置場所によっては売上の60%が19時以降に計上されているという。「夜中の2時、朝の4時、5時にも売れている。これはさすがに想定外だった」(酒井氏)とうれしい誤算もあった。

 設置する自販機が選定されて「FUJIYA CAKEs STAND」のプロジェクトが具体的に動き出したのは2023年に入ってから。2月、東京・大手町の東京サンケイビル正面広場で平日限定のイベントとして「出張スマイルスイッチ部!FUJIYA CONFECTIONERY」を開催、スイーツボトルのパイロット版といえるカップシフォンケーキを販売した。製造部門と販売部門が一体となり、品評会を開き、さらに改良を重ねて、商品の品質を高めていき、東京と埼玉の2ヵ所で「FUJIYA CAKEs STAND」を稼働させたのが6月30日。最初の購入者は本社ビル1階にある不二家本店「OTOWA FUJIYA」に販売開始時刻の30分前から並び、250円ずつ出し合って「ホワイトチョコレートケーキ」2個セットを購入した大学生の女性2人だったという。

 「世界のすべてのお客さまに愛される企業を目指す」が不二家のビジョン。酒井氏は「広く一般のお客さまに本物のスイーツを味わっていただこうと取り組む中、カジュアルなイメージを持っていただけているように感じていたが、それでもお店に入ることに抵抗があった人はいたかもしれない。そのハードルを下げることができたのでは」と手応えをにじませる。

洋菓子事業本部管理業務部の酒井哲也氏

 設置した「FUJIYA CAKEs STAND」の反響は予測を大幅に上回り、試算した売上見込の300%を超える結果を出している。現在の商品ラインナップは10種類だが「立地に応じて、販売する商品を変えることもあり得る」と酒井氏。直営10店舗でスタートした展開も「FC店舗での展開はもちろん、自販機単独での設置も含めて、あらゆる選択肢を排除せずに考えていく」と話す。

 スイーツ購入のハードルを物理的も心理的にも下げることに成功した「FUJIYA CAKEs STAND」は、顧客との新しい接点を生み出した。稼働開始から間もないうちに予想を大きく超える反響を獲得しており、今後の展開も注目される。