コロナ禍で宅配事業の総供給高(小売業の売上高に相当)を大きく伸ばした生協。新型コロナが収束するなかでも高い利用水準を維持している。そうしたなか日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)は、子を持たない若年層を主なターゲットに新たな組合員勧誘策をスタートさせるなど、さらなる成長に向けて動き出している。
ヘビーユーザー獲得で
配達効率が向上
5 月8日、新型コロナウイルスの感染法上の位置づけが「新型インフルエンザ等感染症(2類相当)」から「5 類感染症」に移行した。街頭でも、老若男女を問わずマスクをつけない人々の姿が目立ってきている。
国内の爆発的な流行が始まって3年が経ち、コロナ感染前の日常がようやく戻りつつあるなか、とくにコロナ禍の「巣ごもり需要」によって売上を伸ばした業態は落ち込みを懸念されてきた。生協の宅配事業もその一つだ。
コロナ感染拡大直後の2020年度は全国の多くの生協の経営実績が過去最高となり、とくに宅配事業の牽引により、同年度の全国の生協の総供給高は初めて3兆円を突破した。しかし、コロナ収束の兆しが見え始めた22年度の宅配事業の供給高は2兆945億円。21年度比99.1%とやや前年度を下回った。
ただし、コロナ感染前である19年度比で見れば113.7 %と2 ケタ増を維持している。また、経営剰余金(小売業の経営利益に相当)についても、新型コロナウイルス感染拡大前と比べれば、現在も高い水準にあるという。
日本生協連代表理事事業担当専務の藤井喜継氏は、7 月4日に行われた記者会見で「コロナ禍では、それまで宅配事業のライトユーザーだった方々がヘビーユーザーやミドルユーザーとなっていただくことが増え、配達効率が大変向上した」と述べている。
課題は生活防衛による
利用点数の減少
一方、課題も存在する。組合員1 人あたりの利用単価は上がっているものの、同利用点数が減少傾向にあることだ。背景には、原材料価格の高騰やエネルギーコストの上昇を受け、22年から食品や日用品の値上げラッシュが続いていることが影響しているとみられる。
「生協の場合、たとえばスマホを使って注文を進めると、事前に合計金額が出てくる。それを見てストップをかける、いわば『生活防衛』的な意味合いで利用点数を減らす方が多いのではないか」と藤井氏は指摘する。
こうした状況を踏まえ、23年1 ~3 月にかけて全国の生協で実施したのが「くらし応援キャンペーン」。日本生協連のプライベートブランド(PB)の「コープ商品」を中心に、宅配や店舗での利用が多い1077の商品について、通常より価格を下げて販売するという販促イベントだ。
これにより、店舗では、ちくわ、牛乳、ツナ缶など、宅配ではちくわ、冷凍の讃岐うどん、牛乳などの売れ行きが好調だった。本キャンペーンの効果により、「コープ商品」の総供給高は対前年同期間比で119%の149億円にのぼった。
若年層に向けて
500円~の商品セットを販売
このように、コロナが収束しても高い利用水準を維持している生協宅配。しかし、競合他社も食品配送事業に積極投資をしており、今後、競争環境はいっそう厳しくなると想定される。
そうしたなか生協宅配はいかに成長を図っていくのか。藤井氏は「既存のユーザー層に利用を継続してもらいながらも、新しい利用者を増やしていくという両面からの対策を進めていく」と説明する。
このうち新しい利用者の獲得においては、23年度は若年層の新規入会に力を入れていく方針という。その1つのアプローチとするのが、非組合員向けに商品購入を通じて生協宅配を試してもらう「TRY CO・OP」だ。
これまで生協宅配には、子育て家庭が利用するイメージが強かった。この現状に対し、とくに現在生協に加入していない若年層のシングル世帯やDINKs(Double Income No Kidsの略称、子を持たない共働き夫婦)層にもアプローチすることをねらいとして、人気の冷凍商品を「朝食」「カフェランチ」「本格中華」といったテーマ別セットにし、500円~の手頃な価格で販売する。
そのために用いるのがツイッター、インスタグラム、TikTokなどのソーシャルメディアだ。各メディアのインフルエンサー達に商品を利用してもらい、口コミで商品の魅力を広めていく。
22年度までは東北・関東甲信越・東海エリアの一部で実験的に行っていた施策だが、23年9月以降、近畿・中国にも実施エリアを拡大する予定という。
高くなる組合員獲得のハードル
新施策は打開策となるか
これまで、生協の新規組合員の勧誘活動は、直接訪問を中心に行ってきた。しかし昨今では、とくに若年層を中心に対面での勧誘が敬遠される傾向が強くなり、ハードルが以前と比べて高くなっている。
「今までは生協本部職員が直接訪問を行い、そこから会話を始めて、新規入会の糸口を掴むことができた。ただ、本施策ではそれをあえて行わない。そのため文字どおりのお試し、つまり『美味しかった』で終わってしまい、入会につながらない可能性もある。組合員獲得という観点から見てどの程度の成果を上げられるか、模索している最中だ」と藤井氏は話す。
アマゾンやネットスーパーの存在感が高まる中で、生協は若者の支持を集めうる存在になれるか。組合員層の獲得に向けて生協が仕掛ける新たな施策に注目したい。