「アース ミュージック&エコロジー」をはじめとした有力ブランドを展開する一方で、ファッションサブスクリプションサービスやホテル、飲食事業を手がけ、アパレル企業の枠を超えた「ファッションIT企業」として成長を続けるストライプインターナショナル(東京都)。世界的アパレル企業が相次いで経営破綻し、国内でも大手チェーンが大規模な店舗閉鎖計画を発表するなど業界全体に逆風が吹く中、石川康晴社長はアパレル業界の近未来を見通して、着々と布石を打っている。インタビュー前半である本稿では、業界の近未来の姿を予見してもらうとともに、アパレル企業が生き残るために必要なキーワード、「AI」「EC」、そして「東南アジア」についてその理由と戦略を解説してもらった。
聞き手=阿部幸治 構成=小野貴之
国内アパレルはジャイアントとDtoCの二極化へ
──現在の国内アパレル市場をどのように見ていますか。
石川 ユニクロ(ファーストリテイリング)のようなジャイアント企業以外は非常に厳しいフェーズに入ると見ています。今後は、このジャイアントの下に売上高数千億円規模の「準ジャイアント」が10社ほど続き、国内アパレル市場のほとんどを占めることになるでしょう。ですから、この10社の中に入らないといけません。
──上位集中が進むということですね。アパレル業界はほかの業態と比べて寡占化が進んでいない業界ですが、今後はどのような構造になっていくのでしょうか。
石川 ジャイアント、準ジャイアント10社以下は、DtoC(Direct to Consumer)市場になっていくと見ています。ファッションモデルやインフルエンサーと呼ばれるような人たちが、売上高数億円規模のブランドを1人で立ち上げるような時代がくると思います。
Instagramで10万人のフォロワーがいる女の子がいるとします。服飾の専門学校で学んだといったバッググラウンドのない、“半分素人”のような子です。その彼女が束ねているフォロワーだけで、3億円ほどの売上がつくれてしまう時代になりつつあります。こうしたDtoCマーケットにおいては、ベンチャーのアパレル企業のような存在はもはや必要ないでしょう。インフルエンサーをプラットフォーマーとして束ねるIT企業が、100億円規模の売上高を稼ぐ時代になっていくと思います。
「AIバブル」は3年で終わる!
──アパレル各社は生き残るために変革をしていかなければなりません。
石川 3つのキーワードがあると思っています。「AI」「EC」、そして「東南アジア」です。最近は百貨店のアパレルにおいてもAIが導入されはじめています。ですが、在庫を持たない百貨店アパレルは需要予測をしようがないので、AIを入れても大きな効果は出せないでしょう。
一方、当社のようにショッピングセンター(SC)内などに店舗を展開し、多くの在庫を抱えているアパレル企業は効果が期待できます。SKUと在庫が多いモデルほどAIの効果が出ると思います。この先3~4年間はAIによって粗利益を伸ばすアパレル企業が出てくるでしょう。
──アパレル業界に「AIバブル」が到来するということですか。
石川 AIバブルは線香花火のようなものだと思っています。苦戦続きのアパレル企業がAIによって一瞬だけ浮上する、最後のもがきです。
というのも、AIは3年くらい経つと(対象を)最適化します。「最適化した先の最適化」においては、差はほとんど生まれません。ですので、AI バブルは3年で終わると考えているわけです。
国内アパレルの生き残り策はAIしかないと思います。出店ができない、競争力のあるブランドもつくれないという中では、既存の事業にAIを無理やりねじこんでいく状況が続くでしょう。
AIで得た利益はECと東南アジアに投資!
──アパレル企業はAIで何を最適化していくのでしょうか。
石川 代表的な例を挙げるとすれば、「値引き」です。これは(AI活用による)ダイナミックプライシングによって大きく最適化できます。あとは発注量や、各店舗への納品などもAIによって最適化できることがわかってきました。
当たり前のことではありますが、最適在庫、最適値引き、最大粗利を実現しようと社内ではよく言っています。当社ではSDGs(持続可能な開発目標)の推進にも力を入れていますので、つくる量の最適化と廃棄の最小化は今後も徹底していきます。
──そうした最適化によって売上高はどうなっていくのでしょうか。
石川 売上自体は多少落ちます。ただ、それは“利益に貢献してなかった売上”です。在庫量が落ちると、値引きの頻度も減ります。今までは在庫が多かったため、何段階かに分けて値引きを実施していました。そしてその中には、売上高として計上されているものの損益計算書上では赤字になっている商品がありました。
全体から見れば、売上高の4~5%ほどでしょうか。言い換えれば、5%の売上高をとるために、赤字商品をつくっていたわけです。この部分がAIの在庫最適化によって削除されるので、売上高自体は落ちることになります。
ただ、同時に粗利益率が3~4%ほど改善されます。当社のような売上高1000億円規模の企業の粗利益率が3~4%上昇したとなれば、(業績に反映される)インパクトは大きいですよね。
──確保した利益はどのような分野に投資していきますか。
石川 先ほどキーワードに挙げた「EC」と「東南アジア」です。最近は自社ECを始めるアパレル企業が増えています。ですが、プラットフォーマーになろうというアパレル企業はまだいません。現在のECの年成長率は10~20%と言われており、一時期ほどの勢いはありませんが、今後も緩やかに伸び続けていくでしょう。ですので、この分野は当然やっていきます。
一方で、ダイナミックな伸びが期待できるのが「東南アジア」です。現状、日本のアパレル企業のほとんどが東南アジアに出ていません。当社は17年にベトナムのアパレル大手ネム(NEM)をグループ会社化し、ベトナム市場に進出しています。さらに19年には、ベトナムシューズメーカー大手のVASCARAもグループ会社化しました。両社合計の店舗数は200店舗超の規模にまで拡大しており、ベトナムのアパレル業界でシェア1位となっています。
この成功モデルがありますので、今後はフィリピンでもファッションブランドの買収を計画しており、事業を拡大していきたいと思っています。現在、売上高全体に占める海外比率は10%ほどですが、将来的には国内と海外の比率を逆転させるイメージでいます。
ストライプインターナショナル企業概要
本社 | 岡山県岡山市北区幸町2-8 |
本部 | 東京都中央区銀座4-12-15歌舞伎座タワー18F |
設立 | 1995年2月 |
売上高 | 1364億円(2018年度、グループ連結) |