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百貨店、存在の証明その6 エイチ・ツー・オーが抱える“流通コングロマリット”の憂鬱

エイチ・ツー・オー リテイリング(大阪府:以下、H2O)は、かねてより「関西ドミナント戦略」を掲げている。中核の阪急阪神百貨店(同)を始め、傘下の食品スーパーのイズミヤ(同)、さらに資本提携した関西スーパー(同)らの店舗網によって、関西地区で店舗密度を高め、投網をかけるかのように顧客の需要を吸い上げる戦略だ。ただ、かつてのダイエー、現在のセブン&アイ・ホールディングス(東京都)のように、百貨店を抱える流通コングロマリット企業の成功例はほとんど見られていない。

百貨店の足を引っ張る食品スーパー事業

 「お公家(の阪急百貨店)さんには、スーパーの経営はハードルが高いのではないか」

 2014年にH2Oがイズミヤと経営統合した際、ある大手小売業の幹部はこのような自説を披露した。

 両社の経営統合から約5年。確かに相乗効果が出ているとは言い難い状況だ。H2Oが公表した19年4~9月期決算では、好調なインバウンド需要を取り込み、百貨店事業が大きく伸長したものの、イズミヤ、阪急オアシスは赤字に沈んだ。イズミヤの営業損益は15億9000万円、阪急オアシスは約2億4000万円。相乗効果どころか、スーパー事業が百貨店の足を引っ張っている状態だ。

 関西ドミナント戦略のねらいは、阪急阪神百貨店の16店舗で「ハレの日」の需要を、イズミヤの85店舗、阪急オアシスの77店舗、さらに資本提携している関西スーパーの64店舗で日常づかいの需要を獲得するというもの。そして関西ドミナントの構築が完了でき次第、H2Oは海外戦略を推進するとしている。関西ドミナント戦略は、同社にとってこの30年間の長期的な経営方針の基盤を成す戦略といっていい。

 しかし、本オンラインでも取り上げてきたとおり、セブン&アイ・ホールディングスは祖業の総合スーパー(GMS)であるイトーヨーカ堂(東京都)のほか、百貨店のそごう・西武(東京都)を抱える流通コングロマリットではあるものの、それら2つの業態は長引く低迷から抜け出せていないのが現状だ。


「公家」と「武士」

 さらにいえば、いわゆる“百貨店系”の食品スーパーは軒並み低調だ。たとえば三越伊勢丹ホールディングス(東京都)は高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」をかれこれ30年以上も展開してきたが、「順調だったとはいえない」(ある百貨店幹部)し、17年に株式の過半数をファンドに売却。またJ.フロントリテイリング(東京都)も、かつて保有していた食品スーパーの「大丸ピーコック」をイオン(千葉県)に売却している。

 つまり、百貨店と食品スーパーは同じ小売業でありながら、カルチャーは決定的に違う。
「公家」と「武士」のように、一つ屋根の下にいてもなかなか相乗効果を生まず、融合もしにくいのである。

 だが、H2Oもそんなことは言っていられない状況だ。最大の課題は、関西ドミナントの一翼を担うイズミヤをいかに立て直すかであることに違いない。

 イズミヤの売上高は2182億円(19年2月期実績)。多聞に漏れず、課題は不振が続くGMS業態のテコ入れだ。食品スーパー業態の「デイリーカナート」の既存店売上高が対前年同期比1.8%減少だったのに対し、GMS業態は同3.4%の落ち込みとなっている(20年4~9月期実績)。

 こうした状況下、H2Oは20年度(21年3月期)以降、イズミヤの“解体的出直し”のプランを実行するとしている。具体的には、20年4月にイズミヤを事業セグメント別に3社に分割し、業務提携したココカラファインと合弁会社を立ち上げ、医薬品、化粧品、日用品部門を切り出す。衣料品や住居部門は、グループ会社のエイチ・ツー・オー商業開発に任せ、イズミヤはSMの運営とGMSの食品テナントを担う事業会社となる計画だ。

 イトーヨーカ堂の構造改革と同様に、イズミヤもGMSの直営面積を減らしてテナント化するなど、旧来のGMSの枠組みを変えることで活性化を図るとみられる。これが止血策になるかどうかは未知数だ。H2Oのイズミヤ改革は、苦戦相次ぐ“流通コングロマリット”の光明となるか――。