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大戸屋HD コロワイドが筆頭株主となったことで客離れから脱却なるか 

 2019年10月1日、居酒屋「甘太郎」、焼き肉店の「牛角」、回転すしの「かっぱ寿司」、ハンバーガーの「フレッシュネスバーガー」などの運営会社を傘下にもつ、外食業界売上げ第4位のコロワイド(神奈川県/野尻 公平)が、定食店「大戸屋ごはん処」を展開する大戸屋ホールディングス(HD、東京都/窪田 健一社長)の筆頭株主になったことが明らかになった。

 同社は、大戸屋HDの創業家(創業者・三森久実氏の妻・三枝子氏とその息子・智仁氏)が保有する全株式(発行済み株式の18.67%)に当たる約135万株を、約30億円で取得した。コロワイドでは「互いの企業価値向上のため」と説明しており、仕入れや物件開発での協業の可能性を探る方針だ。

大戸屋HDの筆頭株主にコロワイド。協業の可能性を探る。

 後継者争いに終止符

 大戸屋HDでは、同社を定食チェーンとして発展させた三森久実会長(当時)が20157月に死去し、その後、現社長・窪田健一氏と三森家の間で後継者を巡る壮絶な争いを繰り広げ、結果、智仁氏が役員を辞任することになった。現在、智仁氏はスリーフォレストという高齢者向けの宅配事業会社を立ち上げ、運営にあたっている。後継者争いと合わせて、なかなか金額の一致をみなかった創業者への功労金の支払いは、2017年6月の株主総会で、2億円と決定し、その後、支払われた。

 今回のコロワイドの登場により、大戸屋HDの後継者争いは終止符が打たれたことになる。

 顧客を奪われにくい定食チェーン

 大戸屋HD1958年、東京・池袋に「大戸屋食堂」として創業。1990年代の急成長を経て2001年に日本証券業協会(現・東証JASDAQ)に株式を店頭登録し、2011年には持ち株会社化している。国内全域に店舗を構えるほか、タイ、台湾、インドネシアなど、海外にも積極的にFC展開を進めている。

 コンビニエンスストアが中食を強化したことにより、外食市場が侵食され始めた2015年ごろには、『大戸屋ごはん処』(大戸屋HD)、『まいどおおきに食堂』(フジオフードシステム)、『やよい軒』(プレナス)など、炊き立てのご飯や焼き立ての魚、温かい味噌汁を出す定食チェーンは、コンビニに顧客を奪われにくいビジネスモデルと言われていた。

後継者争いの一方で業績にも影

 さて、創業家との後継者争いを火種に持ち続けていた大戸屋HDのこの間の業績はどうなっていただろうか。

 2010年3月期から2016年3月期までは増収を続け、この間に売上高は約54%増を達成していた。その後、2017年3月期は減収増益、2018年3月期は増収減益、2019年3月期にいたっては減収減益(売上高は対前期比2.0%減の2572900万円、営業利益は同34.7%減の41400万円)となった。営業利益率については、2017年3月期の2.77%から、2019年3月期には1ポイント以上も低い1.61%まで落ち込んだ。

 客離れが止まらない

 既存店の実績を見ると、この間の下降トレンドがよりはっきりする。

2016年3月期から、既存店売上高、既存店客数ともに減少している。

 2020年3月期は、とくに既存店客数の落ち込みが大きくなっているが、これは19年2月に発覚したバイトテロにより、客離れはより深刻さを増すことになった。「大戸屋ごはん処りんくうシークル店(大阪府)」のアルバイト従業員が配膳用のトレーで裸の下半身を覆う様子を映した動画がインターネット上で拡散し、多くのメディアに取り上げられた一件だ。

 表面化したのが2月中旬だったため、2月は「6.4%減」にとどまったが、翌3月は「10.8%減」と大幅なマイナスとなった。

 大戸屋HDでは、3月4日の段階で、この不適切行為に関する対応として、3月12日に全店舗を休業し「従業員の再教育」と「店舗の清掃」を実施することを公表したが、この事件により、イメージが悪化し、客足が一層、遠のいたと考えるのが自然だろう。

 また、それから間もない423日に、定食メニューのうち12品目を1070円値上げしたことも、さらなる客離れを招いた。

 

客離れの原因の1つに高価格帯メニューの存在!?

 実は、2016年の5月、後継者を巡る争いが激しさを増し始めたころ、当時の役員に、2016年3月期決算について話を聞く機会があった。

 同氏はその際に「既存店客数は定食屋としての実力の目安」と話したうえで、増収増益にはなったが「既存店客数が対前期比3.5%減」となったことを問題視しており、その原因に「原価率の維持、コストアップの吸収、粗利益額の確保」を図るために実施した高価格帯メニュー(大戸屋のボリュームプライスゾーンより高めの1,200円~1,500円で提供)があるとし、「喫緊の課題として対応する」と言明していた。

 しかしながら、具体的な対応策として出されたのは、「850円メニューの露出」であり、それまでの大戸屋の売り物だった、“手づくりの温かさ”が感じられる店内調理による「600円台の定食メニュー」の復活ではなかった。

 それ以降、同社ではたびたび、メニューの変更、女性客を意識した取り組みなどを実施してきているが、結果からすれば、少なくとも、既存店の来店客数アップに効果は現れていない。むしろ、客離れを加速させているように見える。経営側の思いは、お客の心に届いていないのだ。

低収益のコロワイドが、果たして救世主になるか?

 今回大戸屋HDの筆頭株主となったコロワイドは、客離れにあえぐ「大戸屋」の救世主となることができるのだろうか。同社は、大都市圏の飲食店舗数が未だオーバーストア状態にあり、市場規模も漸減傾向にある国内外食市場において、M&Aにより大きな成長を遂げてきた。しかしながら、外食産業の上位3社(ゼンショーHD、すかいらーく、日本マクドナルドHD)と比べ、収益率で大きく劣る。直近決算の数値によれば、営業利益率は、ゼンショーHD3.1%」、すかいらーく「6.2%」、日本マクドナルドHD9.2%」に対し、コロワイドのそれは「1.7%」に過ぎない。

「コロワイドグループの保有する事業プラットフォームをさらに強化し、当社グループに参画するメリットを訴求する」という同社がめざすM&A戦略は、そうした経営状況で功を奏するのだろうか。

 大戸屋HD2020年3月期業績予想は、売上高275億円(前期比6.9%増)、営業利益48000万円(同15.9%増)を見込んでいる。