メニュー

百貨店、存在証明その5 J.フロントが挑む「百貨店モデルの再構築」

J.フロント リテイリング(東京都:以下、Jフロント)のショッピングセンター(SC)化戦略は正解だったのか。これまでの百貨店モデルと決別し、自営面積を減らしテナントの導入で収益を稼ぐ構造に転換を図ろうとしているJフロント。だが、鳴り物入りでオープンした東京・銀座の都市型SC「GINZASIX(ギンザシックス)」は来店客こそ多いものの、「買物をしている客が増えているように思えない」(業界関係者)という指摘も少なくない。Jフロントは次世代に通用する百貨店に脱皮できるか――。

正念場を迎える2年めのギンザシックス

 「ギンザシックスは狙っている顧客と実際のニーズとの間にギャップがある。お客は思った以上にお金を落としていないのではないか」

 そう話すのは、銀座地区で百貨店を運営する同業者だ。実際に、ギンザシックスで買物をした経験のある50代の主婦は、「高級ブランドや高額品が多過ぎて買うモノがない」とこぼす。

 ギンザシックスの店頭に並ぶのは、消費者が羨望のまなざしを向ける商品、あるいは少し背伸びすれば手が届くような商品だ。ECでは世界観を表現するのが難しいラグジュアリーブランドを集めることで、集客につなげている。

 「所得が二極化しており、既存事業を支えてきた中間層の縮小は避けられない。当社が得意とする富裕層のポテンシャルを再定義すれば、新しい成長の機会が拡大する」(Jフロント)。品揃えにある程度の自由が効くSC化を推進することで、顧客・商品・サービスを再定義、新たな百貨店像を描こうとしている。

 ギンザザシックスの初年度は“開店景気”により、目標としていた売上高600億円、来場者数2000万人を達成したという。

 だが、2年めはどうだろうか。オープン2年めは“開店景気”が減速してくのが常だ。また、ギンザシックスはインバウンドによる免税売上高の比率が約30%と高いことも裏目に出そうだ。現在、中のEC法の施行や元安などにより、免税売上高は減少傾向にあり、売上減が懸念される。2年めのギンザシックスは正念場を迎えている。

旧来の百貨店モデルを壊せるか

 「旧来の百貨店モデルを壊す」――。Jフロント前会長の奥田務氏の言葉だ。アパレルメーカーと二人三脚の「消化仕入れ」を前提とした“ぬるま湯”状態からの脱却が、同社の至上命題となっている。

 そのJフロントが今年9月にリニューアルオープンした「大丸心斎橋店本館」(大阪府大阪市)である。リニューアル後の同店は、従来型の百貨店の売場は全体の35%しかなく、残る65%はテナント売場となっている。旧来型の百貨店を、都市型SCに近いモデルの次世代型百貨店に再構築した格好だ。

 ただ、SCのデベロッパーは、導入したテナントが潤ってこそ儲かるビジネスモデルである。館全体の売上が好調でなければ、人気テナントは入らず、誘致できたとしても退店していくばかりだ。Jフロントとしては、テナントリーシング力を高め、館全体の売上を引き上げ、運営を効果化していかなければならない。これができないようであれば、収益性はいつまでも上向かず、勢いよく舵を切ったSC化路線の雲行きも怪しくなる。

 かつてイオンと“取得合戦”を演じた末にグループに加えたパルコ(東京都)の先行きも不透明だ。競合百貨店の関係者は「(百貨店のSC化戦略は)パルコとの相乗効果が出ないのではないか」と話す。「パルコが持つ商業施設の運営ノウハウを活用すべきではないか」という声もある。

 Jフロントが選択した「従来型の百貨店モデルを壊す」という戦略は、伴うリスクも少なくない。Jフロントは新しい百貨店モデルを創造し、百貨店業態の存在意義を示すことができるか。ギンザシックスに大丸心斎橋店本館、SC化戦略のもとオープンした巨艦店の成否が問われる。(次回に続く)