「セブン-イレブンは1万店あろうが、2万店あろうが、決して同じ顔であってはならない」――。コンビニの父こと、鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問は、セブン-イレブンが1万店を突破した際にそのように述べた。今の流通業界でも通用する普遍性のある金言である。だが、現在のセブン-イレブンは果たしてこの言葉を具現化できているのだろうか。
16年前の新聞広告に書かれた言葉
今から遡ること16年前の2003年。セブン-イレブン・ジャパン(東京都)は「1万店突破、創業30周年」と題した記念広告を新聞紙上に掲載した。その広告にはこう書かかれている。
「人が欲しいものは地域によっても、季節によっても、時間によっても違います。そのすべてのニーズに応えるため、私たちはお店ごとにサービスや品ぞろえを変え、新商品開発に取り組んでいます」
広告にはイラストで複数のセブン-イレブン店舗が描かれ、それぞれの店舗に注釈がついている。
「明日は寒くなりそうだから使い捨てカイロを多く仕入れておかなくては」
「うちの店の近くはお年寄りが多いから〇〇しないと」
イラスト内、観光地にある店舗やスタジアムの近くにある店舗にも、同じようにニーズに対応した商品やサービスを展開するコメントがついている。地域性や季節性に配慮した品揃えを行う必要性がさりげなく書かれているのだ。
鈴木名誉顧問は事あるごとに、「飽和とは同質化の結果。変化に対応し、差別化、差異化できていれば同質化はしない」という持論を述べてきた。30周年の広告は、まさに鈴木氏の持論をそのまま文章にした内容だったといえよう。
日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニエンスストアの国内店舗数は現在約5万8000店。18年の売上高(既存店ベース)は対前年比0.6%増と微増にとどまり、低成長期に突入した指摘されている。消費者からすれば、「どこのコンビニに行っても品揃えは変わらない」というのが大方の見方であろう。
コンビニの父が伝える変化対応の重要性
セブン-イレブンは圧倒的な差別化を掲げ、愚直に商品の質的向上をめざしてきた。
もちろん、それは着実に実を結んでおり、大手食品スーパーの幹部にして「セブンの商品開発力にはかなわない」と言わしめ、セブン-イレブンの商品力の強さは自他認めるところであろう。セブン-イレブン内部にも「(商品で)圧倒的な差別化を進めれば、飽和だって乗り切れるはず」と、商品力という強力な武器で突破口を開きたいと考えるのが多数派であるという。
しかし一方で、鈴木敏文名誉顧問の持論だった変化対応について「その対応力が低下しているのではないか」という指摘もある。24時間営業の是非を問われた先般の加盟店対応もその一つの現れだろう。
その“24時間営業問題”に続き、次は7pay計画が頓挫するなど、最近のセブン&アイでは問題が相次いでいる。これまた、鈴木名誉顧問の口癖だった「情報の共有化」という、変化対応の根幹をなす要素を失ってしまっているのではないかと指摘されている。
24時間営業問題の際、井阪隆一セブン&アイ社長は「現場の情報が上がりにくくなった」と本音を吐露した。加盟店の声が届きにくくなっているこの現状は、変化対応力が低下していることに他ならない。
30周年の広告の内容ではないが、加盟店1店、1店の声に耳を傾けることができなければ、加盟店が顧客に対する変化対応もできない。商品力を磨き上げるのも大事だが、加盟店あってのコンビニ本部であるならば、意思疎通を円滑にするために組織や機能を見直していく必要性が増している。
鈴木名誉顧問の発言を振り返ると、共存共栄の精神に立ち返ることの重要性を伝えているのがわかる。“コンビニ飽和論”が取り沙汰される今こそ、コンビニの父の言葉に耳を傾けてはどうだろうか。