2019年8月21日から23日の3日間、東京ビッグサイトにて、国内最大のシーフードショー「第21回ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」(主催:一般社団法人大日本水産会)が開催された。日本国内をはじめ世界各国の水産商材と水産関連技術を紹介し、商談や情報交換の場を提供するイベントの場で、今回の出展者数840社、期間中の来場者は延べ3万3572名だった。同ショーのなかから、スーパーマーケットが知っておくと鮮魚売場活性化につながるテーマ、「プライドフィッシュプロジェクト」と「SH“U”Nプロジェクト」について解説したい。
漁師が選ぶ、いま最も食べてほしい魚を選出!
プライドフィッシュ(PRIDE FISH)プロジェクトは、「おいしい魚の底力を、感動を、もっと知ってほしい。」という思いから、全国漁業協同組合連合会(JF)が中心になって進めている取り組みだ。2014年に、全漁連、漁師が季節ごとのおいしい魚を紹介するためにスタートした。
春夏秋冬ごとに、それぞれの季節に旬を迎える魚の中から、各県JFグループが1種を選定。1年で4種のピックアップを続け、最大で各県域12種のプライドフィッシュを決定する。
具体的な魚の選定は、(1)本当においしい漁師自慢の魚であること、(2)地元で水揚げされたものであること、(3)旬を明確にした魚であること、(4)各会員(漁連)が独自に設けている基準(サイズ、水揚げ海域等)をクリアしていることだが、海藻や貝類を含む魚介類全般が対象で、全国的には注目されていない地元ならではの魚や、養殖魚も含まれる。
地域ごと、春夏秋冬ごとに、魚を知り尽くした漁師が選ぶ“今一番食べてほしい魚“ということだ。たとえば茨城県の場合、春:茨城のこうなご、夏:茨城のあわび、秋:茨城のしらす、冬:茨城常磐のまさば、などが選ばれている。
「いまはどこの食品スーパーでも、鮮魚の売り方に苦労をしている。冷凍されたものの流通が増え、売場で、季節や旬を表現するのも難しくなっている。だから、お客さんも、いま、どの魚を食べたら本当においしいのかがわからない。そのきっかけにプライドフィッシュを使ってほしい」(JF全漁連担当者)
一部の量販店では、プライドフィッシュを活用して、フェアを行ったりしているが、お客さんに周知するまでには至っていないという。
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環境の観点から、今日の夕食の魚を選ぶ方法!
環境の観点から、今日の夕食の魚を選ぶ!
SH“U”Nプロジェクトは、2016年に「研究機関の立場から国内の漁業者を支援し、国内の消費者が自身の判断によって資源の持続可能性を維持していく活動を支えることを目的に、科学的な情報を分かりやすく提供するアウトリーチ活動の一環」として、国立研究開発法人 水産研究・教育機構(水研機構)が立ち上げたもの。ひらたく言えば、「環境への配慮をしながら、賢く、おいしい魚を食べましょう」ということだ。
SH“U”Nは「Sustainable, Healthy and “Umai” Nippon seafood」の略で、直訳すると「サスティナブルでヘルシーなうまい日本の魚」となる。
「水研機構はわが国唯一の水産に関する総合研究機関。これまで学術データ、研究データは日本の漁獲量を決めるために活用してきたが、いくら国や行政がわかっていても、一般の消費者が理解できなければ、水産物を持続的に利用することはできない」(国立研究開発法人 水産研究・教育機構SH“U”Nプロジェクト事務局)
「水産物の持続的な利用」をキーワードに、スーパーや魚屋さんで、今晩のおかずをえらぶとき、どの魚を選んだらいいのか、仕組みをつくる」ということからスタートしたこのSH“U”Nプロジェクト。「資源の状態」、「生態系・環境への配慮」、「漁業の管理」、「地域の持続性」という4つの基準で判定し、「健康と安全・安心」という情報を加えて、消費者に提供していく。「その魚が海にたくさんいて獲っても問題ないか」「その魚を獲る漁業に問題はないか」が基準になるということだ。
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魚のトリビアや食べ合わせを紹介するアプリを役立てる!
魚種ごとの食べ合わせがわかるアプリも開発
実はこのプロジェクトには手本となっている活動がある。アメリカのモントレー水族館が、水産資源の持続可能性を「赤」、「黄」、「緑」の3色に分けて、格付けしている「シーフードウォッチ(Seafood Watch)」(https://www.seafoodwatch.org/)だ。
「赤」は「回避(avoid)」。乱獲で資源量が問題となっている魚介類で、漁獲法は他の海洋生物にも悪影響を及ぼしていることを示す。「黄」は「グッドチョイス(good alternative)」。持続可能性は改善されつつも一部に懸案されるべき資源量や漁獲法が残っていることを意味している。「緑」は「ベストチョイス(best choice)」。資源量が豊富で、環境に配慮した漁獲法で獲られているもの。
ただこの「シーフードウォッチ」はアメリカのモントレー水族館という一水族館が格付けを行っているもので、あくまでも米国規格に基づくものだ。
「すべてを鵜呑みにしてしまうと、2000年以上脈々と受け継がれている、環境にやさしい日本の伝統的な漁業、漁法が成り立たなくなる。SH“U”Nプロジェクトは、水産業の持続的可能性を示す日本からの提案でもある」(同)
SH“U”Nプロジェクトでは、こうした取り組みを身近に感じてもらうために、子どもから楽しめるスマホアプリ(タブレットでも可)をリリースしている(iOS 9.0以降、Android4.1以上)。現在のところ、「住んでいる場所に合せた、いまおすすめの魚」「魚種ごとの食べごろ予報」「資源状態について」「魚ごとの特徴、トリビア」などがわかる内容になっているが、さらに充実させていく予定だという。
プライドフィッシュにしても、SH“U”Nプロジェクトにしても、スマホやWebで楽しんでいるだけでは、なかなかその取り組みの意義は広がらない。鮮魚を扱う売場と一体となった情報発信こそが、環境にやさしい漁業の持続と、おいしい魚を食べることにつながると思うのだが、いかがだろう。