このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後に「こうすれば解決できた」という教訓も取り上げた。今回は、増える万引きに有効な手を打つことができないディスカウトストアチェーン店を紹介したい。
第19回の舞台:ディスカウントストア
都内西部を拠点に6店舗を展開 (正社員70人、アルバイト210人)
外国人の万引きの場合、2人1組で“仕事”をこなす
2015年、人事部長をヒアリングした。テーマは新卒、中途採用だったが、話が脱線し、万引きの話になった。創業時の20数年前から、万引きの被害をある程度想定し、各店舗の予算を作成していた。一時期は万引きが発覚すると、その場で店員が捕まえ、警察に通報した。しかし、なかなかなくならない。いつしか、万引きがしつこいほどに繰り返されるようになった。
ここ5年ほどは、件数や額が増えているという。人事部長は「外国人によるものと、アルバイトを始めとした従業員によるものが増加傾向にある」と話していた。
外国人の場合、2人で現れることが多い。レジ付近で1人が、店員が聞いたこともないような母国語で話しかけて従業員の注意を引き付ける。その間に、1人がめぼしいものをつかみ、店外に持ち出し、走り去る。その後、レジ前の1人は店内をぐるっと回り、何食わぬ顔で消えていく。こうした手口で、1店舗につき、1か月で平均20万円前後の商品が万引きされるようだ。外国人たち同士のコミュニティで話題になっているのか、店に現れるコンビが増えているという。
人事部長によると、各店舗の店長には万引きの被害が事実である場合、警察に通報することを認めているようだ。しかし、警察が来た後、様々な聞き取りがあり、日々の作業に悪影響が出ることを警戒し、ほとんどの店では通報しないらしい。
5年ほど前から、けん制の意味も込めて防犯カメラを大量に設置した。それ以前から設けてあったが、店内やバックオフィスの隅々に広げた。すると、アルバイトの学生を中心に、万引きが行われていることがわかった。防犯カメラの存在を知っているはずなのだが、帰る際に堂々と持ち帰るのだという。
各店舗では、アルバイトに聞き取りをして事実を認めさせたうえで、解雇にしているようだ。アルバイトを含め、全従業員への教育でもあらためて周知徹底したという。人事部長は「うちのような店では、万引きとの闘いは永遠に続く」と漏らしていた。
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こうすればよかった!解決策
万引き体制は社員育成と表裏一体だ
小売店は、万引きの問題に常にぶつかる。そのことへの対応は実は、社員の育成と表裏一体である。私は、次のような教訓を導いた。
こうすればよかった①
万引きへの対策を継続するべきだった
創業当初から、同社では万引きを警戒していた。被害額に限らず、犯罪であるだから、その姿勢を持ち続けるのは正しい。ところが、一時期から、「このくらいの被害ならば…」と暗に受け入れるようになった。それが、万引きをする人やその予備軍、アルバイトを始めとした従業員に勘違いをさせた可能性がある。
万引きを完全になくすのは難しいとしても、例えば、店長会議や各店舗での会議、話し合いの場で注意を喚起し続けないといけない。バックオフィスの壁に万引きについて警告書を数か月ごとに貼り返すなどして、目に入るようにしたい。それでもなかなかなくならないだろう。だが、万引きに対し、厳しい姿勢で臨むボーズこそが、従業員への教育になる。少なくとも、本部の意志は伝わるだろう。それが、日々の仕事に適度な厳しさを与えることになる。
こうすればよかった②
社内と社外とは必ず、リンクしていることを心得ておきたい
「外国人が増えているから、仕方がない」と、現状を受け入れてはいけない。そこで安易な姿勢を示すと、今度は従業員に影響を与える。顧客への姿勢は従業員へのそれであり、その逆もある。従業員に無理をさせていると、それが顧客に不快な思いをさせる。社内と社外とは必ず、リンクしていることを心得ておきたい。社内の態勢を整備し、状況を改善すると、いずれはそれが顧客など社外に良好な影響を与えることになる。
神南文弥 (じんなん ぶんや)
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。
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