メニュー

「バスチー」大ヒットに導いた! 群を抜く、ローソンのデザートマーケティング

コンビニエンスストアのローソン(東京都/竹増貞信社長)が3月から販売するスイーツ商品「バスチー」の売上が好調だ。その勢いはすさまじく、同社の看板商品の1つである「プレミアムロールケーキ」をも凌駕するという。なぜ「バスチー」は消費者の支持を得られたのか。近年ヒットが続くローソンのスイーツ開発の裏側を明らかにする。

ローソンのヒット商品「バスチー」。30~40代の女性を中心に支持を集めている

「GODIVA」とのコラボも!本格スイーツの開発に注力

 ローソンのスイーツ開発の歴史を振り返ると、2009年9月にオリジナルスイーツシリーズ「Uchi Café SWEETS」の展開をスタートした。なかでも同年発売で今ではローソンの看板商品の1つとも言える「プレミアムロールケーキ」は、10年にコンビニエンスストアのオリジナルチルドデザートとして初めて「モンドセレクション」製菓部門で金賞を受賞。累計販売数は3億7000万個を超えるヒット商品となり、“コンビニスイーツブーム”をけん引してきた。

看板商品の1つとも言える「プレミアムロールケーキ」。コンビニエンスストアの本格チルドデザートの先駆けとも言える商品だ

 17年6月からは、世界的に有名なチョコレートブランド「GODIVA」との共同開発商品をシリーズで展開するほか、18年9月には“第4のチョコレート”と注目を集める「ルビーチョコレート」を使用した商品シリーズも発売するなど、話題の商品を続々と投入している。デイリー部シニアマネジャーの坂本眞規子氏は「スイーツ市場(※)全体でみるとコンビニエンスストアでの売上高の割合はまだ全体の2割ほど。これをさらに高めていきたい」と意気込みを述べている。※富士経済「スイーツ市場のメニュー×チャネル別需要分析調査2018」。注目4チャネル(量販店、コンビニエンスストア、チェーン洋菓子店、個人洋菓子店)を合計した市場

売れ行きは「プレミアムロールケーキ」超え

 そして20年2月期の大型新作スイーツとして発売したのが「バスチー」(215円:以下、税込)だ。スペインとフランスの両国にまたがる「バスク地方」で古くから親しまれている、バスク風チーズケーキを商品化したものである。

 同商品は、発売からわずか3日間で販売数100万個を達成。「プレミアムロールケーキ」(150円)は5日間での達成だったことからも、「バスチー」の人気の高さが窺える。

 また、長年ローソンのスイーツ商品の販売数1位はシュークリームの「大きなツインシュー」(113円)だったが「バスチー」は発売後7週連続でこれを上回った。「大きなツインシュー」は男性のリピート購入が多いのに対し、「バスチー」は30~40代女性の購入が中心で、若い世代の女性客の獲得につながっている。19年8月4日現在で「バスチー」の累計販売数は約1900万個を突破している。

次のページは
SNSでの発信を考慮したネーミングとパッケージ

「バスチー」は、表面の生地はこんがり焼かれているのに対し、中身はとろりとなめらかな食感が特徴。「レアチーズケーキ」や「ベイクドチーズケーキ」とは異なる「新感覚スイーツ」として売り込んだ

「新感覚」の提案に成功

 なぜ「バスチー」はヒットしたのか――。

 大きな要因としてまず、消費者に「新感覚」を訴求した点が挙げられる。バスク風チーズケーキは、表面の生地はこんがり焼かれているのに対し、中身はとろりとなめらかな食感であるのが特徴だ。

 昨年の夏ごろから専門店を中心にじわりと人気を集めていたことにローソンのスイーツの開発担当者が着目。日本ですでに浸透している「レアチーズケーキ」や「ベイクドチーズケーキ」とは異なる「新感覚スイーツ」として打ち出し商品化した。このように、今まで味わったことのないタイプのスイーツが、身近なコンビニエンスストアで、手頃な価格で購入できるという点が支持獲得につながった。

SNSでの発信を考慮したネーミングとパッケージ

 次にヒットの要因として、商品部とプロモーション部が連携を図り、効果的なプロモーション活動を実現できるように商品設計段階から工夫をした点も挙げられる。

 とくにこだわったのは商品名とパッケージだ。SNSで多くの人に発信してもらいやすいように「バスチー」という短い名前にしたほか、パッケージは“SNS映え”を考慮して鮮やかな黄色をベースに、商品名を中央に大きく載せた。その結果、「Twitterでのリツイート数はこれまでのスイーツ商品の中でもトップクラスで多い」(プロモーション部の鈴木啓子氏)という。

SNSでの効果的な発信を前提に商品を設計。発売後はSNSを活用したキャンペーンも実施した

竹増社長の方針のもと積極的に行っていること

 最後に、近年ヒット商品を連続で生み出しているローソンのスイーツ商品の開発体制にも触れておきたい。17年に「GODIVA」との共同開発商品シリーズが大きくヒットして以降、デイリー部のスイーツ開発担当者の人員体制を1人増やし、現在は3人の女性による女性目線での商品開発を行っている。

 加えて最近、竹増貞信社長の考えのもと積極的に行っているのが海外視察だ。たとえば「バスチー」も実際にマーチャンダイザーの1人がバスク地方に赴き、本場の味を商品化できるようにした。7月に韓国を視察したという前出の坂本氏は「大きな角切りバターを挟んだトーストが大流行しているなど、日本にいるだけでは得られない新鮮な発見が多くあった」と語る。このように新しい切り口の商品を開発するための情報収集をこれまで以上に強化している。

右からデイリー部所属でスイーツ開発を担当する、坂本眞規子シニアマネジャー、吉田祐子チーフマーチャンダイザー、東條仁美シニアマーチャンダイザー。左はプロモーション部の鈴木啓子氏

 現在、ローソン全体に占めるスイーツの売上高構成比は5%弱だという。その割合は大きくないものの、スイーツの購入者は一般的な顧客と比較して客単価が1.2倍ほど高くなるほか「スイーツは嗜好性が高く、来店動機の創出につながる」(坂本氏)という。

 20年2月期のローソンの既存店売上高の前年同月比を見ると、3月こそ99.7%と前年割れしているものの、4月は101.5%、5月は102.1%、6 月は101.0%と、いずれも客単価が向上したことにより前年を上回っている。

 業態の垣根を越えた出店競争が激化し客数減に歯止めがかからないなか、客単価の向上や来店動機を創造する有効な施策としても、コンビニエンスストアのスイーツ競争は今後さらに熱を帯びてきそうだ。