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流通再編の衝動その3 セブン&アイ、“オムニその後”とスーパー戦略再構築のゆくえ

セブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)のM&A(合併・買収)戦略は、「多彩」の一言に尽きる。通販のニッセンホールディングス(京都府)、生活雑貨専門店のFrancfranc(東京都)、ベビー用品の赤ちゃん本舗(大阪府)、高級衣料専門店のバーニーズジャパン(東京都)と幅広い業種業態の企業を買収。そしてその多くが、鈴木敏文前会長(現名誉顧問)が進めてきた「オムニチャネルの推進」を掛け声に、傘下に入れたり、提携したりしてきた企業だ。しかし、オムニチャネル戦略を転換した現在、鈴木名誉顧問が残したグループの輪郭は「相乗効果を生んでいない」(業界関係者)という見方もある。

写真:ロイター

コンビニ事業では“純血主義”を貫く

 「正直、無関心だ」

 2015年、ユニーグループHD(現ユニー)の傘下だったサークルK サンクスとファミリーマート(東京都)が経営統合で協議入りした際に、当時セブン&アイ会長だった鈴木名誉顧問はこう語った。コンビニ業界の再編については「商品や運営が一緒になることで過剰感が強くなる」と独特かつクールな見方を披露した。

 セブン-イレブン・ジャパン(東京都)の生みの親である鈴木氏は、コンビニ事業に関しては“純血主義”を貫いてきた。ローソン(東京都)やファミリーマートが中堅中小のコンビニを取り込むなかでも、冷静に再編を否定し続けてきたといっていい。

 しかし、そんな“クールな経営者”もオムニチャネル戦略では真逆の顔をみせた。「オムニチャネル化」がグループ成長のけん引役になるとみて、積極的にM&A(合併・買収)を進めた。おにぎりやおでんといったコンビニの定番商品の開発、ATMを中心とした銀行業の参入、公共料金の収納代行など、かねてより変化に対応してきた確かな眼力がオムニチャネル戦略を選択したのである。

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傘下のスーパーとの相乗効果は?

成果見えぬオムニチャネル戦略

 そしてセブン&アイは、赤ちゃん本舗、ニッセン、タワーレコード、Francfranc、バーニーズジャパンと錚々たる顔ぶれの企業を傘下に入れていく。ある証券アナリストは、「(ネットを軸としたオムニチャネル化は)ブランド力のある専門店を持つことが有力な集客策になるという考えだったのではないか」と分析する。

 しかし現状を見てみると、ニッセンホールディングスは営業赤字が続き、事業の再構築の真っ只中であり、赤ちゃん本舗やバーニーズジャパンなどについても、グループのネット戦略に貢献しているとは言い難い。その結果、19年2月期のグループのEC売上高は1131億円と前期よりも41億円増えてはいるものの、その成長率は3.8%増で、経済産業省が今年5月に発表した国内 BtoC-EC 市場の物販系分野の成長率8.1%を大きく下回る。もちろん、国内で1兆5000億円超(18年1~12月)の売上高があるアマゾンジャパン(東京都)の売上高には遠く及ばない。

 こうした状況下、セブン&アイは現在、「セブン-イレブンアプリ」でネット事業の巻き返し策を図っている。だが、この施策は中核の「セブン-イレブン」を軸としており、「グループ企業が有機的に結びつき、ネット事業を拡大する構図にはなっていない」(某IT企業の社長)という声もある。

傘下のスーパー各社との相乗効果は?

 さて、セブン&アイは地方の有力スーパーと相次いで提携してきたという一面も持つ。北海道のスーパーのダイイチ、中国地盤の天満屋ストア(岡山県)、大阪府地盤の万代、さらに18年には西日本小売の雄、イズミ(広島県)とも業務提携した。

 これらの提携は、イトーヨーカ堂(東京都)が傘下スーパー各社と協業して物流を共同化したり、「セブンプレミアム」の販売ボリュームをアップさせたりするほか、将来的には仕入れなどでも協業化を進めるねらいだったとみられている。

 しかし最近になって、イトーヨーカ堂が地方店の分社化を検討しているという報道もある。分社化を通じて提携先のスーパー各社といかに相乗効果を見出すのか。課題が残る。

 主力のコンビニ事業が踊り場に差し掛かっている現在、セブン&アイは広げた戦線を実のあるものにするため、どのようなグループ像を形成していくのか。正念場を迎えている。(次回に続く)