メニュー

UTme!が引き金! 誰でも商品化できる時代、弱いブランドはすべて個人に駆逐される

 前回ユニクロのスマホアプリ「UTme!」といったものが誕生することで、個人の持っているセンスや才能によって、アパレルのプロを凌駕するデザインや商品が作られてしまう可能性に言及した。今回はこの続き。個人に力や影響力が集まるようになるとアパレル業界はどんな風に変わっていくのか、そしてどんな新しいビジネスが生まれるのかを論じたい。

ブランド力が低い企業は、「仕組みの提供」に徹した方がいい

 ファッションビジネスというのは、毎日、毎週、どこかで新製品が生まれるビジネスだ。だから、簡単に真似されやすいし、逆にいえば差別化が本質的には困難であるともいえる。例えば、ラルフローレンとブルックスブラザーズを比較すると、前者はヨーロッパのフレーバーを取り入れたアメリカンテイストで、後者はザ・アメリカという感じで、店、服、イメージなどは見事に棲み分けられている。これに対して、日本の「ブランド」と称するアパレル企業の「分類名」は、同じ館の中にある店舗間にほとんど違いはないし、消費者も特定のブランドにロイヤルティを持っていない。私が2年前に調査した日本の「ブランド」に対するロイヤルティは、20代で売上の20%以下(日本の特定のブランドだから買った割合)という惨憺たるものだった。これでは価格勝負となり、企業収益が悪化するのは当たり前である。

  組織は大きくなればなるほど柔軟性と自由度を奪われ、競合との差異化はほとんどなくなってくる。分業で頭のよい人達が「部分の仕事」をすればするほど、今流行っているものの真似にたどり着き、突拍子もないアイデアや斬新な発想は「リスクが高い」という理由で切り捨てられるからだ。

  したがって、今の巨大化したアパレル企業で、競合と異なる差別性をしっかり持ちつづけることは本質的に難しい。ソフトの部分(企画、デザイン)で卓越した企業のほとんどは、残念ながら属人性に頼っているのが日本のアパレルの現状だろう。このあたりは、組織を小さい単位で維持し、無理に内製化せずにM&A(合併・買収などで異なる企業をグループに組み込む欧州のブランド企業のやりかたは、ブランドづくりが大いに苦手な日本企業にとって参考になる。

  やや打算的に聞こえるかもしれないが、硬直化した企業は、ユニクロがやっているUTme!のように、マーケットプレイスなど、「仕組みの提供」だけを行い、コンテンツはクラウドファウンディング(集合知)を結集する仕組みをつくることに徹する方がよいと思う。

次のページは
希望か絶望か!?卓越した個人の力が、日本のアパレルブランドを打ち負かすようになる

卓越した個人の力が、日本ブランドを打ち負かすようになる

 消費者自身がテレビスターになり、作家になり、あるいは、デザイナーになる仕組みを提供する。冒頭に上げたように、ニュースや映像はすでにそうなっているし、アルバム、年賀状は言わずもがな、その他、音楽だって音符も読めない私でも作曲できる時代である。もはや、アプリで自作のものを作るのはもはや常識だし、大量生産、大量消費の時代はすでに終わっている。集団の力以上にデジタル武装した「卓越した個人の力」が、ブランド化を確立していない企業を打ち負かす時代が来くるのはそう遠くない未来だ。

  まだまだ足りない部分もあるが、私はこのUTme!にその将来を感じている。少なくとも、「来年はこのトレンドが来る」など、何十年も占い師のようなことを繰り返し、在庫の山となって業績を悪化させてきたアパレルの歴史を見てきた私からいえば、もっと抜本的にやり方そのものを変える必要があると思うのだ。今はまだTシャツやパーカーにプリントするだけの簡単なもので、文字やデザインも単純なものしかできないが、スーツ、スニーカー、ニット製品など、世の中はカスタム・オーダーのオンパレードで、こうした技術を開放し、消費者に優しいUI (ユーザー・インターフェイス。アプリの操作性)を工夫すれば、今の技術の組み合わせで、相当難しいデザインの服のアプリ化などなんら問題ないだろう。私は、確立されたスーパーブランドに勝つ方法は、これしかないと思っている。

 そうしたなかユニクロは二子玉川の店舗で3D計測器を使いユニクロ3D計測キャンペーン」と題したサービスを密かにはじめた(2月20日の日経新聞の報道より)。このサービスは、いずれUT me!と融合し、消費者が自由に服をつくる仕組みへと変化してゆくものと私は考える。それは遠い未来で無く数年、いや、数ヶ月後かもしれない

  私には、昨今のデジタル偏重主義には、「その先」が見えないことがフラストレーションだった。単なる生産性の向上によって、残業が2時間減る程度だと思ったら大間違いだ。デジタル化の本当の影響力は、企業から半数以上の、いや、下手をしたら、ほとんどの人間を組織から追い出すほどの破壊力をもっている。逆に言えば、こうした明確なヴィジョン。すなわち、デジタル化を推進することで何を成し遂げたいのかという議論こそ、今こそ煮詰めるべきであり、UTme!は、極めてパーソナルで恐縮だが、私の一つのヴィジョンであるということである。

  間違って欲しくないことは、この私のヴィジョンがビジネスとして成立するかどうかよりも、ヴィジョンそのものを持っているのかということが経営に問われているということだ。

 

(編集部より 本連載では、次回から3回連続で、「アパレル業界のフィクサー、商社」をお届けします。その1回目は週明け火曜日に公開、乞うご期待下さい)

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)