今年発売35周年を迎える「カントリーマアム」をはじめ、ロングセラーブランドを多数保有する不二家(東京都)。洋菓子事業と製菓事業の二本柱でビジネスを展開する、同社ならではの強みを生かして新たな時代を築こうとしている。今年3月に新社長に就任した河村宣行氏に、今後の展望について聞いた。
聞き手=阿部幸治 構成=室作幸江
洋菓子と製菓の二本柱、経営体質の強化を図る
──まずは、直近の業績について聞かせてください。
河村 当社は大きく分けて洋菓子事業と製菓事業の二本柱でビジネスを展開していますが、第1四半期(平成31年1月1日~3月31日)においては、洋菓子事業は残念ながら前年同期の売上を下回りました。とはいえ、これは不採算店の閉鎖による売上減少の結果でもあり、当初から承知していたことです。赤字が続いていた洋菓子事業ですが、経営改善によりその額は減少しており、体質的にはよくなってきています。
製菓事業については、業界自体が失速傾向にある中、チョコレートは苦戦したものの、ほかでカバーしたことで前年同期の売上を確保しました。しかしながら、昨年行った大型設備投資の減価償却費の負担もあって、利益面では下回りました。
──目下、既存事業の経営体質をより強靱なものに変えている最中というわけですね。では、菓子業界の現状に対してどのようにとらえていますか。
河村 カカオポリフェノールの健康価値によって、近年チョコレートが拡大伸長してきましたが、次のステージにさしかかってきたと感じています。中高年の健康ニーズはあるので、急激に落ちることはないと思いますが、これまでのような成長を維持するのは簡単なことではないでしょう。
ただ、「チョコレートが体にいい」ということは浸透しているので、チョコレートにプラスアルファの付加価値を付ける、たとえばチョコレートとビスケットを複合させるなどしていけば、伸ばせる余地はあると思います。
また、既存商品でも「おいしくて体によいこと」をあらためてアピールすることも大事です。現に、当社のファミリーチョコレートがそうです。ナッツチョコレートのパッケージに「毎日イキイキ! おいしく食物繊維 たっぷりビタミンE」と印刷したところ、売上を伸ばしています。新商品開発は大切ですが、既存商品のよさをあらためて伝えていくことにも注力していきたいと考えています。
輸送コストの上昇にも値上げ回避で迅速対応
──貴社にはファミリーチョコレートをはじめ大袋商品が多数ありますが、市場状況はいかがでしょうか。
河村 おかげさまで伸びています。われわれは「ファミリー」という言葉を使っていますが、実際には家族用に限らず、使われ方はいろいろ。小分けにして持ち歩いたり、シェアしたりなど、使い勝手のよさで支持されているようですね。
大袋商品は安くてお買得ということもあり、小売業にとってもお客さまにとっても重宝いただいています。そのために昨年、大型設備投資して「カントリーマアム」の供給力を増やし、生産性を高めました。
一方で、コンビニエンスストアなどでは小袋商品が主流です。同じ商品でもチャネルによって求められるものが異なるので、サイズや包装形態を変える設備を導入しています。
包装材といえば、この3月にファミリーチョコレートのパッケージをサイズダウンしました。内容量は変わらないものの、パッケージが小さくなるとお客さまへの訴求力が低下するのではないかと危惧してなかなか踏み切れなかったのですが、世のトレンドは省資源です。実施した結果、コストダウンはもちろん、売場効率もよくなりました。
さらに、昨年より輸送用ダンボールに入れる商品の個数も増やして、輸送コストの上昇に対応しています。生産性を上げ、包装材を切り詰め、物流コストも下げる。さまざまな手を使いながら、値上げを極力しないで済むようにしています。
──二の足を踏むメーカーさんも多いなか、いち早く省資源化や輸送コスト問題に対応されたのですね。
河村 現実的に値上げは厳しいからです。もちろん、より高単価でもお買い上げいただける新商品の開発にも取り組んでいます。そのひとつが、3月に新発売した「カントリーマアム」のプレミアムライン、「カントリーマアムロイヤル(塩バター、餡ショコラ)」です。おかげさまで、お客さまからの評価も高く、リピート買いも進み、好調に推移しています。
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発売35周年を迎える「カントリーマアム」に注力
──プロモーションという点では、今年はどんな取り組みを考えていますか。
河村 昨年は発売50周年の「ホームパイ」をメーンに取り組んでいましたが、今年は「カントリーマアム」が誕生して35周年を迎えるので、とにかく「カントリーマアム」に集中していきたいと考えています。カントリーマアムを初めて発売した7月に誕生祭を行い、盛り上げていきます。35年の歴史の中で選りすぐりの35種類から「大切な人と食べたい味」を1つ選んで投票する「国民ファン投票」キャンペーンも5月21日からスタートさせました。今春実施した「みんなで出演!」ムービーキャンペーンの動画をつなげたCMは今秋公開予定です。
9月以降は「ホームパイ」や「LOOK」ブランドにも注力します。今秋は特定の新商品というよりは、既存商品をしっかり訴求していきたいと考えています。
──来年以降はいかがでしょうか。
河村 2020年は創業110周年の節目の年であり、「ペコちゃん」が誕生して70周年の記念すべき年。そしてオリンピックもあります。さらに2021年は「ミルキー」誕生70周年です。ロングセラーブランドが多いので、こうした「周年」を核にして、売上をつくっていきたいと考えています。
少子高齢化と人口減少が進む今、新しいブランドを出すのはなかなか難しいものです。当社に限らず他社においても、安心のブランドの傘下で展開する傾向が強まっています。そうした中で、いかに新たな驚きをお客さまに提供できるか? フレーバーを変えたり、素材を変えたり、ブランドの拡大解釈が進んでいます。
──ブランド自体を太くしていくということですね。
河村 そうです。その成功事例が「カントリーマアム」です。夏専用商品として5月に「甘夏チーズケーキ」を発売しましたが、昔は柑橘系の「カントリーマアム」なんて許されませんでした。「カントリーマアム」=「チョコチップ」のイメージにこだわり、すごく保守的だったのです(笑)。
現在は、既存商品に加えて、季節に合わせたフレーバーの新商品をつくっているので、ぜひ売場づくりにご活用していただけたらと思います。毎月、季節商品を出していることは、不二家の大きな売りとなっています。
海外にも目を向けオール不二家で挑む
──今後の成長戦略について教えてください。
河村 国内の経営環境が厳しいこともあり、注目しているのが海外です。中国に進出して15年になりますが、扱う商品の9割はポップキャンディ。今年からオーブンを導入してビスケットを新発売しました。いよいよ中国事業は次のステップに入ったと感じています。今後は東南アジアでの製造拠点をつくることも検討しています。
──最後に、新社長としてのミッションを聞かせてください。
河村 今から12年前、当社は不祥事によって会社存亡の危機に陥りました。そこから山崎製パンさんに資本を入れてもらい生まれ変わりましたが、当社前任の櫻井康文前社長が歩んだのはまさに苦難の道だったといえるでしょう。経営が落ち着いた中で引き継いだ私の使命は、不二家を新しい発展の時代へ導いていくことです。
不二家の強みは、洋菓子事業と製菓事業の2つの柱です。しかしながら、かつては両事業がそれぞれ別会社のようでした。今でこそコミュニケーションも活発になってきましたが、もっと融合させたいと考えています。商品はもとより、売り込みの仕方も共有できれば、より幅の広い商談や取り組みもできるのではないかと思います。オール不二家の力を駆使して、新時代を築いていきたいですね。