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成城石井原昭彦社長が教える 原料調達×商品開発で独自性を磨く方法

輸入専門会社を子会社に持ち、世界中の貿易ネットワークを生かした強い商品力で、消費者から高い支持を獲得している成城石井(神奈川県)。近年は物販と飲食を融合した「グローサラント」に挑戦するなど、新しい店づくりにも乗り出し、注目を集めている。独自の存在感を放つ同社の成長戦略を原昭彦社長に聞いた。

聞き手=阿部幸治 構成=大宮弓絵

EPAやTPPを戦略的に活用

──今年2月、日本と欧州連合(EU)とのEPA(経済連携協定)の発効により、関税が段階的に撤廃されることになりました。海外からの輸入商品を多く扱う成城石井にはどのような影響がありましたか。

はら・あきひこ●1967年生まれ。東京都出身。90年4月成城石井入社。2006年営業本部商品部部長、07年執行役員営業本部本部長兼商品部部長、08年執行役員営業本部本部長兼店舗運営部部長を経て、10年5月取締役執行役員営業本部本部長に就任。10年9月から現職

 ワインだけでなく、生ハムやチーズなど、EPA発効を機に本格的なEU産の商品にあらためて注目が集まっており、売れ行きは好調です。関税が下がったメリットを生かし、お買い求めになりやすい価格を実現することで、新規や既存のお客さまに当社の魅力を伝えていきたいと考えています。

 実は日欧のEPA発効については2年ほど前から準備を進めてきました。とくにワインは、関税引き下げ直前には、これまでのEU産商品の在庫を消化できるようにフランスやイタリアなどからの仕入れを抑えて、代わりに米国・カリフォルニア産やチリ産を販売しました。そしてEPA発効後に、関税が撤廃されたEU産の商品のフェアを開催して売り込んだのです。

──輸入をかなり戦略的に行っていますね。

 EPAやFTA(自由貿易協定)を戦略的に活用するようになったのは、近年の当社の大きな変化の1つです。

 たとえば2018年12月に発効された、TPP(環太平洋経済連携協定)参加11カ国との協定「TPP11」では、ペルーやチリなど「健康ブーム」で注目されるスーパーフードの原料の原産国が参加しているので、それらを低価格で販売することができます。

 当社は輸入専門会社の東京ヨーロッパ貿易(神奈川県/濱田智之社長)を子会社に持ち、在庫を保存する倉庫も自前で所有しています。これらの機能を生かしながら、商品や原料を調達して国内の消費トレンドに合わせた商品を、お客さまがお買い求めになりやすい価格で提供できることは当社の強みになっています。

──輸入専門会社の機能も拡大しています。

子会社の輸入専門会社を活用し、年間を通じて旬のぶどうを店頭に並べるほか、商品開発にもいかす

 東京ヨーロッパ貿易には現在20人ほどの従業員が所属しており、人数をさらに増やしていく予定です。最近では、グロサリーや酒類、チーズなどにとどまらず、マンゴーやメロンなどの果実や、エビをはじめとした魚介類など、直輸入する商品カテゴリーを広げています。たとえば日本ではぶどうが採れない季節であっても、カリフォルニア、オーストラリア、チリなど、世界各地から仕入れることで年中、旬のぶどうを提供できるのです。17年9月には羽田国際空港から10㎞以内という近距離に「川崎青果チルド物流センター」(神奈川県川崎市)を稼働し、空輸された素材を迅速に店頭まで配送してフレッシュな状態で販売できる体制も構築しました。

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既存店を伸ばすために重要な、商品なキーワードとは!?

トレンドの半歩先を行きヒット商品を育成する

──現在の消費環境をどのように見ていますか。

 低価格がいっそう求められる一方で、価格以外の価値やこだわりを追求する人も増えており消費の二極化が進んでいます。後者のお客さまに多く利用いただいている当社では「安全・安心」「美容」「健康」「簡単・便利」をキーワードとした商品のニーズが年々高まっています。

 そうしたなか18年度も既存店売上高を伸ばすことができたのは、これらのキーワードの商品をしっかり提案できたからでしょう。とくに総菜や、スイーツ、パン、ベーカリーなどは売上が大きく伸びています。

──消費者の嗜好の多様化が進んでいます。

成城石井のオリジナル商品「成城石井desica」。成城石井ならではの素材を使い独自性の高いメニューを開発している

 そうですね。4~5年ほど前に「スーパーフード」が話題になった辺りから顕著に多様化が進んだように感じています。現在では「グルテンフリー」「ビーガン」「ベジタリアン」などのさまざまな人に対応できる品揃えを意識しています。

 最近クローズアップされるようになった商品でも、成城石井ではずっと前から取り扱ってきたものが多いです。たとえばカフェインを含まない「デカフェ」の商品は20年以上前から販売しています。当社では、価格と販売量で判断するABC分析の上位商品だけを売るのではなく、消費トレンドの半歩先を行きながら、新しいものを品揃えのなかに取り入れているのが特徴です。そして現段階では売れていなくても将来的に花開くように丁寧に育成していきます。

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小売業が製造小売化しなければ生き残れない理由!

グローサラントの導入で来店頻度、客層に変化

──新規出店も積極的に行っています。

 1997年の駅ビルへの出店を機に、それまでと異なる店舗開発をスタートしました。路面店だけでなくデパ地下やオフィス内などさまざまな立地への出店を可能にしたことにより、年間10~15店のペースで店舗数を増やせています。近年はワインバー「Le Bar à Vin52」や売場面積が20坪未満の小型店「成城石井 SELECT」などの新たなフォーマット開発も進めています。

 毎年、新しい都道府県に進出しており、17年には群馬県に、18年には滋賀県に初出店しました。初進出の店舗は地元の方々に支持してもらい揃って好調です。

──店舗の改装についてはいかがですか。

 18年から積極的に改装を進めています。単なる老朽化のためではなく、消費者のトレンドに対応するための戦略的な改装です。とくに売上が伸長している総菜やデザートを拡充するべく冷ケースを増設したり、店によってはレイアウトから大きく変更したりします。また、売場面積に余裕があれば店内厨房を増設しています。

 19年2月に改装した「名古屋駅広小路口店」では、専用出口を新たに設けて導線をワンウェイにしたほか、総菜を強化しました。これにより売上高が改装前比で2ケタ伸長しています。19年度も大型店も含めて改装を積極的に行う予定です。

──「トリエ京王調布店」(東京都調布市:17年9月開店)と「アトレ新浦安店」(千葉県浦安市:18年10月増床オープン)の2店舗で、飲食スペースを設けてバイオーダー商品を提供するグローサラント型の店づくりを始めています。

 お客さまの来店頻度が向上するとともに、客層が拡大する効果が出ています。加えて店舗フォーマットに広がりができ、新たな出店のお声がけもいただいています。メニューの品質向上や、食品スーパーへの相互送客に磨きをかけ、物件の条件を見極めながら今後もグローサラント型の店づくりに挑戦していきたいと考えています。

グローサラントを導入した「アトレ新浦安店」。セントラルキッチンをフル活用し、対面カウンターでサラダやデリ、ピザなどを販売する。一部の素材には成城石井で販売する商品を使用している

シェフの技を効かせた柔軟な商品開発体制

──独自商品を開発するうえで、セントラルキッチンが強みを発揮しています。

 広い厨房が確保できない店舗でも、セントラルキッチンで材料をキット化して納品するといった工夫により、小型店での総菜の販売や、バイオ―ダー商品の提供を可能にしています。

 当社のセントラルキッチンでは、調理に関する専門的な知識・技術を持つシェフたちが活躍しているのが大きな特徴です。キッチンはオートマチック化をあまり進めておらず、レストランの調理場を大きくしたような場所をイメージしてもらうとよいでしょう。手作業だからこそ、売れ筋にあわせた柔軟な対応が可能になるのです。

──“食のSPA(製造小売)”企業ともいわれるようになっています。

 人件費が高騰するなか、小売業はあらゆる部分を自社でマネジメントしていかなければ利益が確保できず、生き残っていけなくなるでしょう。

 加えて、自分たちの価値を創造していかなければならないと思います。自社の得意なものにフォーカスをあて、さらに組み合わせることで他社との違いを出していくのです。たとえば、当社では原料の調達力を生かしてイタリア産の24カ月熟成パルミジャーノ・レッジャーノを直輸入する。そしてセントラルキッチンのシェフの技とメーカーさんの技術をかけ合わせて、オリジナル商品のハヤシライスソースをつくるといった具合です。自社で商品を開発することで、バイヤーもメーカーに任せきりにならず、原料調達から製造ラインの稼働計画、在庫管理まで自身で責任を持って行うようになります。

 当社は1980年代という早期から輸入会社を設立し、駅ビルへの出店を見越して96年にセントラルキッチンを立ち上げました。道のりは容易ではありませんでしたがこれらが今の武器になっています。今後はSPAよりももっと深くまで入り込み、独自化に磨きをかけていきます。

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