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ヤマダイ代表取締役社長 大久保 慶一
少量多品種のものづくりで独自の道を築く

創業70周年を迎えた2018年、基幹商品であるノンフライ麺の「凄麺」ブランドをより強化し、品質向上に注力するため、新工場増築に踏み切ったヤマダイ(茨城県)。ブランド誕生から17年、今なお成長し続ける要因は何なのか。そして今後、同社はどう歩んでいくのか。大久保慶一社長に聞いた。

コモディティ化させない!「凄麺」ブランドの強み

──2001年に誕生した「凄麺」ブランドが好調です。

 

おおくぼ・けいいち●1956年生まれ、一橋大学経済学部卒、1983年ヤマダイ入社、1985年常務取締役就任、1992年取締役副社長就任、1999年代表取締役社長就任

大久保 おかげさまで、発売以来、じわりじわりと露出が上がっていき、お客さまから高い評価をいただいています。

 

 近年、商品の「コモディティ化」がナショナルブランドメーカーの間でも問題になっていますが、そうなるには相応の理由があると思っています。絶え間なくブラッシュアップを行い、お客さまから信頼を得られるような取り組みを続けていけば、コモディティ化はある程度抑えられるのではないでしょうか。

 

 「凄麺」ブランドは、まさにそういう商品づくりを行い、売り方においても“数字ありき”ではなく地道に取り組んできました。先に数字があると、どうしても無理な販売の仕方をしてしまい、結果、メーカー自らが商品の価値を下げてしまいます。ですから、当社の商品は急速に大きく伸びないけれど、堅調に推移しているものが多いですね。

 

──昨年、シリーズ最初の商品である「凄麺これが煮玉子らーめん」の発売日にちなんで、10月29日を「凄麺の日」として、一般社団法人日本記念日協会に認定されました。話題づくりもユニークですね。

 

大久保 ブランド強化策のひとつです。オリジナルキャラクターや新ロゴをつくり、キャンペーンなどを実施しました。あわせて「凄麺の日」を記念した試食販売イベントも開催し、私も店舗を回って応援を行いました。

 

 店頭に立って感じたのは、少子化と高齢化が進み、単身世帯が増えているということ。70代の女性と話をしたのですが、私どもの商品をよくご存じでした。一人暮らしで、「凄麺」を食べるのが楽しみと言われ、この値段でこれだけのものが食べられるなんてうれしいとお褒めの言葉もいただきました。

 

 インスタントラーメンには、手頃な値段で買えるという価値がありますが、今の生活者にとってはそれだけでなく、もっと重要な役割もあるような気がしますね。

店頭でのプロモーションを第一に考える

 

──全国各地の店舗に足を運んでいるそうですが、昨今の消費者行動をどうとらえていますか。

 

大久保 商品を供給する側と消費する側との間にギャップが起きていると思います。お店には絶えず新商品が置かれていますが、お客さまはそれほど求めていないのではないでしょうか。情報も氾濫し、何を購入していいのかわからない状態に陥っているように感じます。

 

──ギャップを埋めるために、どのようなことに取り組んでいますか。

 

大久保 やはり現場、すなわちお客さまに商品を購入していただく店頭でのセールスプロモーションを第一に考えています。小売業さまの協力をいただいて大量陳列を行ったり、店頭での試食販売をしたり。どちらかというと泥臭い施策ですが、それらを継続することで、お客さまに納得して買っていただくことを大事にしています。

 

──大量販売を前提としたマーケティングはしない、ということですね。

 

大久保 大量販売を継続的に行おうとすると、商売には波がありますから、どうしても無理な販売手法を取ってしまいがちです。そうすると、メーカー側が伝えたい価値が、お客さまに違うかたちで伝わってしまうことになると思いますね。

 

 試食販売などでお客さまと話をすると、予期しない答えが返ってきて驚きます。インスタントラーメンは若い人が買うとか、生活者は新しいものを求めているとかいわれますが、そうとも言い切れないのです。かつてはインスタント食品の購入は、60歳を過ぎるとがくんと落ちたものですが、今は違います。

 

──ボリュームゾーンの若年層をターゲットにしたマーケティングを行っている競合他社は依然として多いです。

 

大久保 他社さんには他社さんの考えがあるのでそれでよいのだと思いますが、当社としては、特定の年齢層にだけ偏るのはよくないと思っています。単品で大量に売るよりも、たくさんの種類でもって量を売るというのがヤマダイの考え方。バラエティに富んでいることの価値を大事にしていきたいと考えています。

 

 実際、「凄麺」ブランドは期間限定商品を含めると30品以上を展開しています。どんなにおいしいものでも、同じものを食べ続けていれば、やがて飽きがくる。それを防ぐには、ブランドの幅を横に広げること。そうすることで、息の長いブランドになるのではないでしょうか。

 

新工場増築!ねらいは生産性向上と働き方改革

 

──昨年、本社工場の敷地内に、新工場を増築することを発表しました。今回の増築のねらいは何ですか。

 

大久保 ねらいは2つあります。1つは、「凄麺」シリーズを中核としたノンフライ製品の生産性向上と品質管理の強化を図ることです。工場は設備や規模をどんどん更新していかないと、おのずとつくれるものに制限ができてしまいます。また、市場での競争がますます厳しくなるなか、新規商品の開発を積極的に行っていくためには、新しい課題に挑戦できるようなスペースが必要です。今年5月に完成予定ですが、新工場が稼働すれば、ノンフライ製品の専用工場としては日本最大規模となり、生産数量も倍増する見込みです。

 

──今後、ノンフライ製品へ注力していくということですか。

 

大久保 そうですね。インスタントラーメンは、油で揚げたフライ麺からスタートしましたが、最近では油で揚げないノンフライ麺が主流となりつつあります。というのも、ノンフライ麺のほうが、品質の差別化や付加価値の向上において可能性が高いからです。

 

 メーカーにとって大事なのはイノベーション。従来にないものをつくっていきたい。そう考えたときに、ノンフライ麺のほうが描ける目標がはるかに大きいのです。

 

──なるほど。では、新工場増築のもう1つのねらいは何ですか。

 

大久保 昨今、働き方改革が叫ばれていますが、今回の増築は社員の負荷を減らすことにも重きを置いています。そもそも私のミッションは、いかに社員の働きがいをつくるかということ。商品づくりにはいろいろな人が携わります。研究開発、製造、販売、物流。そうした人たちに、自社の商品に対してどれだけ愛着を持たせられるか。自社の商品が好きかどうかは、ガバナンス上、最も根本にあるものです。だからこそ、商品を大事にしたい。コモディティ化させたくない理由はここにあります。

“いい原料が使える”商品づくりで差別化

 

──これから取り組んでいきたいことについて教えてください。

 

大久保 われわれの強みは、少量多品種に適応した商品づくりをしていること。これは従来のメーカーとは逆の方向といえるかもしれません。その分、原価率は高い。しかし、最終的には差別化につながると考えています。

 

 安い原料でいいものをつくるのは難しい。いいものをつくるには、いい原料を確保しなければなりません。原価が抑えられていると、たとえいい原料があっても使うことはできません。

 

 いい原料が使えるような商品づくりが、私のやりたいこと。売上第一主義ではなく、品質と価値を重視するものづくり。パワーで競争するのはわれわれには不向きです。こうした考え方が社員にも浸透し、意識を変えてきたと思います。理想とするのは、自分たちがつくりたいもの、自分たちが生活者に食べてもらいたいものをつくることですね。

 

──具体的にどんな商品が考えられますか。

 

大久保 現在、全国のご当地ラーメンをつくっていますが、その地域の人に食べていただきたい、扱っていただきたいという思いで取り組んでいます。営業もその地域ならではのやり方で行っており、おかげさまで大変好評です。生活者に支持され、評価していただける商品を今後もつくっていきたいですね。

 

 日本はもちろん、世界にはいろいろな麺文化があります。即席麺の業界で、まだ世に出ていない商品群はたくさんあると思います。そうした未開の分野にもトライしていきたいと考えています。既存のラインではできるものに限界がありますが、新たなプラントを導入すれば、実現の可能性は広がるでしょう。日本で唯一、世界で唯一という商品をめざしていきたいですね。

 

 

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