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好調の伊勢丹新宿本店 固定客拡大で見えてきた過去最高売上更新、3000億円突破のスゴイ戦略

伊勢丹新宿本店の業績が急回復しているのは、個人客への注力が背景にある。そのため、2021年度には大幅な組織改編を断行。MD部門の販売機能と店舗の機能を統合する営業部門を新設し、顧客への対応力を強化した。さらに、豊富なインセンティブでカード会員を増やすなど、顧客の囲い込みを図る。カード会員の売上構成比は、2022年度に70%に達する見込みで、固定客の拡大で「過去最高水準の年間売上高3000億円をクリアしたい」と、栗原憲二・新宿本店長は意気軒高だ。

百貨店ならではのコンシェルジュサービスを実現

伊勢丹新宿本店外観

――メーンターゲットをマスから個人客へシフトするため、MDを思い切って見直されたということですが、商品のカテゴリーの枠を取り払う(前編参照)ほかに、どのような取り組みをされたのですか。

栗原 カスタマーインでMDを再構築するには、お客さまと接している店舗の営業体制を強化することも必要だと考えました。そこで、2022年度には、大掛かりな組織改編も実施しました。従来は、MD部門が商品仕入れ、販売管理の機能を担い、店舗は顧客サービスなどを担うという具合に役割分担をしていましたが、MD部門の販売機能と店舗の機能を統合した「営業部門」を新設しました。それによって、CRM(顧客関係管理)が一元化され、有効なMDを打ちやすくなります。一方で、三越日本橋本店と伊勢丹新宿本店の外商機能は、首都圏の外商部門として統合しました。

――営業部門がCRMを担うと、どのような効果が期待できるのですか。

栗原 お客さまに寄り添った営業ができるので、最適な商品・サービスを提供でき、顧客満足度と来店頻度のアップに寄与すると考えています。ショップの顧客情報は各ブランドが管理していますが、ゾーンやフロア、店舗全体の顧客情報は店舗の営業部門が管理して、CRMを担います。そうすれば、例えば、普段はカジュアルな婦人服をよくお買い上げになるお客さまが、フォーマルウェアをお探しになる場合、レディスでも別のショップで、お好みの服をご案内できます。また、プレゼント用の食料品やインテリアをお求めの場合も、別フロアのお好みに合ったショップをご紹介できます。

――顧客のことがよくわかっていれば、言わばコンシェルジュのような“百貨店ならでは”のサービスも、実現できるわけですね。

栗原 全社のCRMを担い、百貨店の究極のサービスを提供するのが外商部門です。外商の担当者は、例えば、お客さまがお探しの商品・サービスが、伊勢丹新宿本店になければ、三越日本橋本店にご案内することもありますし、三越伊勢丹で取り扱っていなければ、グループ外の会社をご紹介することさえあります。お客さまに喜んでいただくことが、百貨店のミッション。それが、「カスタマーファースト」のあるべき姿だと考えています。

カード会員を「一生のお得意さま」にする仕組み

MIカード会員向けの内覧会イベント

――顧客の来店頻度のアップの次には、顧客化(流動客の固定客化)、LTVの最大化(前編参照)という狙いがあると思いますが、それをどのように実現するのか、道筋を教えてください。

栗原 伊勢丹に来てくださったお客さまには、今度は、伊勢丹の固定ファンになっていただきたいわけですね。そこで、識別顧客、すなわち、当社発行の「MIカード」の会員になっていただくのが、次のステップです。MIカード会員獲得のため、お客さまに対してポイント付与だけでなく、希少アイテムの限定・先行販売、行列に並ばなくてもいい「会員専用レジ」といった、さまざまなインセンティブをご用意しています。例えば、世界最高級のチョコレートを集めた「サロン・デュ・ショコラ」という人気の催事があるのですが、MIカード会員のお客さまは、先行して「内覧会」にお招きしました。お客さまからも「ゆっくり商品を見比べられる」などと好評で、通常の催事よりも客単価がアップしました。

――顧客をカード会員にして囲い込み、その次は会員のランクを上げて、LTVも引き上げる営業戦略ですね。

栗原 年間購入額が100万円以上の「ゴールド会員」のお客さまには、「カテゴリースペシャリスト」をつけてお買い物をサポートし、店内買い回りを促したり、会員限定の特別な招待催事を開催したり、関係性を深める施策を中心にランクアップにつなげます。年間購入金額が300万円以上の「プラチナ会員」のお得意さまには、専用ラウンジや無料駐車場、会員限定イベントといった特典をご用意し、最終的には「外商顧客」になっていただき、当店から外商部門に引き継ぎます。

――一方で、従業員に対しても、インセンティブはあるのでしょうか。

栗原 例えば、MIカード会員を増やした従業員は、人事評価でプラスします。部長級以上の管理職については、プロモーションなどの成果も対象になりますが毎月、4050人を成績優秀者として表彰しています。

外国人顧客のCRMで、インバウンド増加に備える

伊勢丹新宿本店長の栗原憲二氏

――MD改革の結果、どのような成果が現れているのでしょうか。

栗原 2022年度上期のMIカード新規会員数は、前期比で約2.6倍に増えました。当店における識別会員の売上構成比は、2018年では約50%でしたが、22年度上期では約68%まで上昇しました。またゴールド会員・プラチナ会員のお客さまを中心に高額商品がよく売れ、中でも年間1000万円以上お買い上げのお客さまでは、売上が前期比で約50%も増加しました。実は、中期経営計画では、識別会員の売上構成比について「70%達成」を目標にしていたのですが、22年度中にクリアできそうなので、目標を上方修正しようと考えています。

――今後の見通しや抱負についても、お聞かせください。

栗原 円安や株価低迷といった逆風はあるものの、新型コロナウイルスの感染が沈静化してくれば、国内の富裕層は、再び海外旅行に頻繁に出かけるようになるでしょうから、今までのような高額商品の「巣ごもり需要」は期待できないでしょう。しかし一方で、海外からの旅行客受け入れの制限緩和も進み、インバウンドのお客さまが再び増えることも大いに期待できます。実際に、2211月は、1811月よりもインバウンドの売上が多かった。そこで、免税カウンターを増設するなど、インバウンド向けのサービス機能を拡充し、「外国人顧客のCRM」も強化する方針です。伊勢丹新宿本店としては、旧伊勢丹時代の過去最高水準に並ぶ年間売上高3000億円を早期に突破することを、今後の目標に掲げています。