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過去のヒットからAIが予測し売れる服を自動生成!?アパレル業界の課題とこれからとは

私が教鞭をとるIFIビジネススクールの研究会シーズン1が終了した。受講生の名前は明かせないが、プレミアム市場クラスの企業にいる者、みずからAIベンチャーを立ち上げ、受講生全員が腰を抜かすような技術の開発に成功した者、大手商社、アパレル、コンサルタントなどが集った。アパレル産業に従事する個々人が持つ課題について討議を繰り返し、その課題共有と解決策の考察を進めていった。厳しい指導もあり、当初12人いた生徒は、いつしか6人に減ったが、ここにその成果を公表したいと思う。
以下、6人の発表を私の方で再構成して、外部環境、課題、解決策2分、1本の論考にまとめた。文脈を理解しやすくするため一部私の意見も入れて補足しているが、すべて現役の幹部クラスの忌憚のない「声」である。私も含めて現場から遠ざかっている人間は、今一度現場の言葉に耳を傾けてもらいたいと思う。なお、一部、不快な言葉を使っている場合もあるが、あえて構成せずそのまま載せた。現場の声の裏返しと思って読んでもらいたい。ここには日本のアパレル産業の未来の姿がある。

いくつかの、ヒットした画像からヒット要因を抜き出し、AI (人工知能)が全く新しい企画を生成する技術を受講生が開発

アパレル企業で、経営刷新が求められるこれだけの理由

 まず、受講者たちがプレゼンテーションでまとめた、アパレル企業を取り巻く外部環境とその解決提案からまとめていきたい。

 多くの日本企業には、バブル期の成功体験を引きずる、仕事ができないのに、ぬくぬくと会社に居座る、「既得権益管理職」が多く居座り、その存在が販管費を膨張させている。
 結果を出せなければ降格、解雇の対象となる、コンサル会社では当たり前の人事制度も、日本ではごく稀だ。人材の流動化が促されないだけでなく、能力が低い管理職が居座るため、頑張っている人の給与も上がらないのである。

 また、工場に目を向ければ年々、その稼働率は低くなっている。「円安でMade in Japan回帰」などメディアは適当なことを報じている。だが実態は危機的だ。
 最低賃金で働いてくれる外国人(技能実習生含む)に頼っているが、昨今の円安の煽りを受け、これまで主力だったカンボジア人の働き手も来日を拒否するようになっている。中国などで働いた方が、身入りが良いからだ。

  国内の産業空洞化ではなく、産業の消滅に近いというかなり悲観的な意見も見られた。
 それゆえ、日本のデジタル企業が産官共同でPLMの開発・構築などをやらざるを得ない状況になっている。
 PLMに毎月膨大なサブスクリプションフィーを払っているが、3D CADとはそのままでは接続できないという致命的な課題も抱える。そこで、コネクターを導入しようと思えば数千万円も吹っかけられる。本体のソフトウエアが数百万円なのに、なぜコネクターが数千万円もするのか。

 経営幹部のデジタルリテラシーの低さから大量に3D CADを導入するも、あちこちで放置されているのが実態だ。

  今、「使えない、使わない、使い方がわからない」という「PLM問題」で産業界は大騒ぎだ。
 具体的にはCentricLECTRAPLMを、各アパレル、卸がバラバラに導入を推進している。各アパレルと個別に定型作業をしなければならない商社は、もはや限界だと言う。
 こうしたなかでは、商社がしっかりリードしてプラットフォーマーになるべきだし、本来こうした政策調整は経営幹部の仕事なのだが、経営にその発想もリテラシーもない。

 さらに、PLMによって電子化されるといわれる紙伝票は、間違い、二重打ちが多発し、現業のオペレーションはその修正に膨大な時間をとられている。
 産業界には零細企業も多いため、政府からの標準化ガイドラインとインセンティブが必要ではないか。商社に期待できないので、中小企業のまとめ役として、ビジネスプロトコル (業務フロー)の統一をしてもらいたい。

なお、これらの政策提言は経済産業省から課長補佐クラスを5人以上よび、直接提言をしたが、「すでに各種補助政策はしている」の一点張りで、全く本気に取り合ってもらえなかったようだった。

ESG経営はまやかし、企業の重石になるだけ

 次に流行のSDGs(持続可能な開発目標)を取り巻く課題解決だ。特に商社にとって最も頭が痛いテーマだ。

 サステナブル対応することでブランド価値をあげられるのは一部のハイブランドだけで、中価格帯の企業にとっては単なるコストになっている。 
 そうしたなかで解決策の1つが、工場のCSRの取り組み内容をスコア化、一定スコア以上の企業にはインセンティブを政府が付与する、といったものだ。
 企業に放任したところで、自然にSDGs対応が価値化することなどはない。単にコストとなり、企業業績の重石となるだけだ。

 「大量生産、大量廃棄」を批判するが、売れるかどうかがわからないものを、「初めから作らない」ことなど不可能だ。となると、売上至上主義からの脱却しかない。企業価値を計る投資家の良心も問われる問題である。

  このままでは、日本のアパレル産業は、ユニクロ(ファーストリテイリング)と外資SPAにやられてしまうだろう。日本市場は、ユニクロと大手外資系企業だけになる日も近い。
 日本人が掛け声をかけても産業界は何も変わらない。
 「昨対」(売上前年度比)を追いかけると、前年割れになればさらに追加投入して在庫が増えることが悪循環となり、市場の縮小と反比例して在庫がどんどん増えてゆく。
 そこで、価値ある商品の生産ロットを細かくすることと、アパレルが素材を備蓄することが解決の方向だ。

 アパレルは、製品在庫を持つのと半製品在庫をもつが、「どちらが低リスクなのか」を真剣に考えてもらいたい。商社の粗利率ではリスクはとれないし、工場は零細企業で在庫など持つ体力は無い。

世界に打って出ず、日本に巣ごもるアパレル産業の行末

metamorworks/istock

 次が海外戦略だ。

 日本市場が縮小する中、日本のアパレル企業は世界化に向き合わず、国内で潰し合いをしてきた。
 各社が相変わらず「昨対」商売をするものだから、総投入量の約半分が売れ残る狂気の事態が、「常態化」しているのである。
 日本の高齢化率は2229.1%だが、2040年には35%に上がる。人口が減り続けるなか、力のある人間は海外へ出てゆくことになる。

 実際、世界の人口は増え続け、特にアジアではアパレルは成長産業だ。やり方によっては成長市場の果実を得られるのに、日本にとどまり潰し合いをやる意味が見えてこない。 
 さらに、SDGsによって、供給量を増やすことが全く通用しなくなってきた。このままではビジネスが行き詰まるのは必然だ。

 オンライン消費が拡大し消費者の行動変化が起きてきたとはいえ、現実は、まだまだアナログで、経験と勘で物事を進め手書きが業界の常識となり続いている。

 

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在庫レスで受注販売! アパレルはまだ手付かずの改善余地が山ほどある

 グローバル化、消費者の行動パターンの変化など、現状の延長線上ではない新しいビジネスモデルをまったく違うやりかたで作るしかない。
 この産業は、バブル世代の古き良き世代の経営者とともに一度消えてなくなる方が良い。それほど、動かない産業だ。
 コロナによってデジタル化が進み、SDGsの推進で環境素材にシフトしてゆくなど、これまでとは作り方も売り方も全く変わってくる。従来の頭の持ち主では舵をきることはできない。

  さらに、消費はインフルエンサーとよばれる個人が力を持ち始めると同時に、良いものを長く使う、二次流通の盛り上がりなど、ビジネスモデルも大きく変わる。
 こうした明確なビジョンを、「DX」という言葉に踊らされる前に持つべきだ。バリューチェーンはいまだに手書き伝票とFAXで、この数十年何もかわっていない。

 デジタル化という点では、素材をデータ化をすることで、スワッチサンプルをなくすべきだ。モデリングしたデジタル商品でささげ写真を作成し、在庫レスの受注販売をするのも一案だ。
 3Dモデルによって、物流の効率化、CO2、水・エネルギー、紙消費の削減も可能になる。

 つまり手付かずのアパレル産業にはやれることが山のようにあるのだ。

 アパレル企業は「無駄なサンプルをつくっていない」というが、ベンダーが計測したところ、アパレル企業は量産品一枚に対し4枚もの無駄なサンプルを作っている。
 しかし、顧客であるアパレルにそのことを指摘できないのが現状。それゆえ無駄な残反、衣料が膨大に発生し、中国でシーインなどのプレーヤーが現れるのは必然となっている。

  なにはともあれ、経営者のデジタルリテラシーを高める必要がある。あやまった経営判断、あやまったデジタル戦略が多すぎる。
 また、個別企業の利益を優先するため、ビジネスプロトコル(業務フローコードなど)が統一されていない。そのため、商社の付帯業務は増える一方だ。
 本来全体最適すべきクラウド型DXが、皮肉にも「個別最適」を加速させている。

  アパレルの利益率の低さも問題だ。ユニクロやグローバルSPAに足を引っ張られ価格が低くなっている。企画販売を一気痛感するため国主導で、ビジネスプロトコルの統一化できないのか?

 ちなみに、この再三登場する国主導のビジネスプロセスプロトコルの統一政策は、15年も前から、私、河合が政府に挙げていた。しかし、私が入院している間、この政策の意味を理解しできるコンサル会社はゼロで、分科会に格下げされてしまい、縦割り組織の壁と商社による覇権争いによりフェードアウトされた。これをしかたないと見るのか、政府のリーダーシップのなさと見るのかは自由だが、私がサプライチェーン改革から身を引いた理由の一つでもある。

  もはや、個別の企業がどうにかできる状態を超えており、海外に売るための越境EC支援、 無意味なバラマキ補助金でなく、アジアへの進出に対して税制優遇を行うなど戦略的目的を理解して各種の政策を打ってもらいたい。
 日本のブランド力もアジアでは薄れてきているが、日本の国際ブランド化の最後のチャンスとしてのブランディングを高めるべきだろう。

総評

 いかがだろうか。この論考を読まれている方はアパレル産業の企業経営者の方が多いと考えるが、この絶望的な日本のアパレル産業の原因は、①あまりに強すぎたバブル時代のアパレル産業の残り香に浸っている経営層②政府のまとはずれな政策③合従連衡を組まない我田引水型企業経営③SDGsというまやかしと企業だけに押しつける愚の4つが現場からでてきた声である。

 一方、冒頭に紹介したような、複数のヒット商品を合成し、我々が過去描くことができなかったようなヒットの要因を適正配分をかけながら企画を自動で作成するAI技術まで表れたことを付け加えておきたい。今、私たちが投資すべき領域はどこなのか、そして、アパレル産業は本当に衰退産業なのか。ご自身の手で学んでもらいたい。 

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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