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新規出店、M&Aを積極的に進めて売上高1000億円体制をめざす=さえきHD 佐伯行彦 社長

2011年3月、さえき(東京都/長谷川徹社長)、フーズマーケットホック(島根県/南脇政文社長)、茨城さえき(茨城県/岡本弘社長)、山梨さえき(山梨県/高橋宗晴社長)の食品スーパー(SM)4社の純粋持ち株会社として設立されたさえきホールディングス(以下、さえきHD:東京都/佐伯行彦社長)。15年2月期に売上高1000億円体制をめざす。 

2012年2月期は増収増益で着地!2013年2月期は売上高450億円を計画

さえきホールディングス代表取締役社長 佐伯行彦 さえき・ゆきひこ 1954年11月27日生まれ。86年2月さえき設立、代表取締役社長就任。2004年12月たんぼ原徳(現、フーズマーケットホック)代表取締役会長就任。07年5月、協同組合セルコチェーン理事長就任。09年8月茨城さえき代表取締役会長就任。11年3月、グループの持ち株会社体制移行により、さえきHD代表取締役社長就任。

──2011年度の食品スーパー(SM)各社は、おおむね好調でした。さえきHDも増収増益だったと聞いています。

佐伯 そうです。12年2月期は売上高約400億円、経常利益約10億円で増収増益になりました。上場SMの業績を見ると当社同様、増収増益になった企業が増えています。11年3月の東日本大震災による“特需”があったからだと思います。当社も“特需”が好業績の一因と言っていいでしょう。

 震災直後は商品が飛ぶように売れました。メーカーさんの工場が被災したり、計画停電の影響から商品の供給量が少なくなったり、どのような商品がいつごろ入荷するのかわからない状況が続きましたので、チラシによる販売促進もしばらくできませんでした。そういったことから、商品は安売りしなくてもある程度は売れて、一方でチラシが打てないので経費を削減できました。どの企業もそのような状況だったと思います。

──今期の計画を教えてください。

佐伯 13年2月期は、売上高450億円、経常利益13億5000万円、経常利益率3%の達成をめざしています。

──さて、持ち株会社体制に移行してから1年4カ月が経過しました。現状をどのように分析していますか。

佐伯 この1年4カ月を振り返ると、徐々に持ち株会社体制移行の効果が表れてきていると感じています。

 11年3月にさえきの第4販売部を分離独立・分社化し、SM事業子会社の山梨さえきを設立しました。同時に持ち株会社であるさえきHDを新設して、SM事業会社のさえき、フーズマーケットホック、茨城さえき、山梨さえきを傘下に置き、新体制がスタートしました。当初はSM事業会社と持ち株会社の権限や稟議書の問題など、多少は試行錯誤がありましたが、今では各SM事業会社の営業体制がしっかりしてきていると感じています。

──営業機能と管理機能を明確にわけました。

佐伯 そうです。営業の機能は各SM事業会社に全面的に任せたほうがいいと考えたからです。

 「食」とは風土であり、その地域の食文化に合わせて営業施策を組み立てなければなりません。たとえば餅の形状を1つ取って見てもエリアによって異なります。山陰地方では丸い形状が好まれますが、関東地方では四角=切り餅が主流です。山陰地方であっても島根県出雲市と鳥取県米子市の食文化は異なります。北陸地方で隣接する石川県と富山県でも大きな違いがあります。

 歴史的な背景によっても地域の食文化は異なりますので、各エリアで商品政策(MD)を考えなくてはなりません。だからそのエリアで生活している人がMDを考え、食の提案を行うことがいちばん適当だと思います。地域の食文化にきめ細かく対応できれば、その土地のお客さまにご支持いただけるはずです。

──SM事業各社は独自にMDを組み立てているのですね。一方、SM事業会社同士は営業施策で連携していないのですか。

佐伯 SM事業会社の社長と商品部のメンバーが月に1回集まって売れ筋商品や「食」にまつわるトレンドなどの情報交換をしています。

──各SM事業会社は東京都、茨城県、山梨県、島根県を本拠にしています。「距離」は問題になりませんか。

佐伯 とくに問題にはなりません。首都圏の3社は高速道路を使えば半日もかからずに行き来することができます。島根県のフーズマーケットホックにしても、飛行機や新幹線といった交通機関がありますから、そこまで移動に苦労することはありません。

 また最近では、セルコチェーン(東京都/佐伯行彦理事長)の売場ライブ映像閲覧システム「セルコライブネット」を通して、店舗へ行かなくても売場の様子が手に取るように分かります。時間と経費を削減しながら、当グループだけでなくセルコチェーン加盟社の成功事例を迅速に共有できるようになっています。ですから「距離」はそこまで問題になっていないと感じています。

新システムを13年4月に稼働予定

──さえきHDはどのような機能を担っているのですか。

佐伯 主に管理面です。たとえば金融機関からの借入れの基準や出店の際の投資対効果や投資の回収期間といった部分は統一の基準をつくり、持ち株会社が判断します。ほかにも総務や人事など、間接部門の機能統合を進めています。

──持ち株会社体制移行のメリットはどのような部分にありますか。

佐伯 各SM事業会社に営業を任せたことが好業績につながっています。各SM事業会社は、そのエリアに合った営業施策を自分たちで考え、競合店を見て、やるべき仕事をそれぞれが決めます。私は基本的には口を出さずに、SM事業会社にほぼすべてを任せています。そうすることで「自分たちの城は自分たちで守る」という意識が芽生え、高いモチベーションにつながっていると感じています。

──現在の喫緊の課題はどのような部分にあると考えていますか。

佐伯 システムの統合です。現状では、各SM事業会社はそれぞれ異なるシステムを使い、各自がデータ処理をしています。POSデータもそれぞれが管理し、情報処理のコストがかさんでいます。そこで業務用の基幹システムを刷新すべく、昨年の秋から検討に着手しました。

 新システムでは、ネットワーク経由でアプリケーションソフトを使用でき、データをどこからでも引き出せる「クラウドコンピュータ型」に刷新します。それにより各SM事業会社の会計や販売、顧客データなどの管理を一元化できるようにします。

 だから本部や店舗にいなくても、出先からiPadのようなタブレット端末でデータを確認できるようになります。そこでは売場の情報も共有できますので、機動的な売場づくりにも効果を発揮するはずです。

 現在、ヴィンキュラム ジャパン(大阪府/瀧澤隆社長)さんにシステム構築を進めていただいています。投資額は5~6億円で、稼働開始は13年4月を予定しています。システムが本格稼働すれば、年間5000万円ほどのコスト低減につながると考えています。

合従連衡活発化は成長戦略と事業継承が背景に

──ここのところSM企業の合従連衡の動きが活発化しています。アークス(北海道/横山清社長)によるユニバース(青森県/三浦紘一社長)やジョイス(岩手県/小苅米秀樹社長)のM&A(合併・買収)をはじめ、最近ではライフコーポレーション(大阪府/岩崎高治社長)とヤオコー(埼玉県/川野清巳社長)が業務提携しています。このような動きをどのようにとらえていますか。

佐伯 合従連衡が活発化するのは2つ背景があると思います。

 1つは合従連衡によって成長戦略を描こうとしているということです。たとえばアークスさんの例を見ますと、北海道ではコープさっぽろ(北海道/大見英明理事長)さんとイオン(千葉県/岡田元也社長)グループさんの3大グループがシェアの大部分を握っています。アークスさんは、ユニバースさんやジョイスさんを傘下に入れるかたちで市場が成熟している北海道から本州に進出し、成長につなげる戦略だと思います。ライフコーポレーションさんとヤオコーさんの業務提携にしても、中長期的な成長戦略をどう描くかという視点に立って両社がご判断されたことだと思います。

 もう1つは事業継承の問題です。

 SM業界は1950~60年代にかけて創業した企業が多く、ちょうど世代交代の時期に差し掛かっています。ですから、創業者の中には、自分の子どもか生え抜きの従業員、または外部のプロに経営を任せるという選択肢以外にも、ほかの優良企業に店舗や従業員といった経営資源を譲渡したほうがいいと考える方も多いでしょう。

 わが国の小売業は、経済が右肩上がりで成長してきたのに合わせて企業規模を拡大してきました。多くの企業はこれまでは順風満帆でこられましたが、欧米と比べると企業数が多い。しかし人口減少が進み市場はダウントレンドにありますから、今後、企業の統廃合が進むのは間違いありません。

 当社は、店舗や従業員といった経営資源は創業者やオーナーのものではないと考えているので優秀で力のある人材に経営を引き継ぎたい。

志や価値観を同じにする企業と組みたい

──さえきHDは、年商200億~300億円規模の企業のM&Aを視野に事業展開することを明らかにしています。M&Aの対象となる企業の基準について具体的に教えてください。

佐伯 やはり志や価値観を同じにする企業になります。

 さえきグループの中核会社であるさえきは、「美しくありたい、健康で長生きしたい」というお客さまの願いを食生活の面から支援することを使命にしています。「美しくありたい、健康で長生きしたい」は不易、つまりいつの時代も変わらないことです。

 多くの消費者は体調が悪くなると薬を購入します。もっと悪くなれば病院に行き、診察を受けるでしょう。

 なぜ体調を悪くするのかと言えば、日々の食生活の食べ過ぎや飲み過ぎで栄養が偏ってしまうことが多いからではないでしょうか。「肉を食べたら野菜も食べる」「高カロリーな揚げ物を控える」など、食の提案とは健康の提案そのものだと考えています。超高齢社会に向かうわが国では、健康の提案をしっかりすることこそが重要だと考えています。このような志や価値観を同じにする企業とは一緒に事業を行っていきたいと考えています。

──15年2月期に売上高1000億円体制をめざしており、M&Aと新規出店の2つに力を入れることを表明しています。

佐伯 そうです。わが国は人口が減少し、マーケットが縮小する中でこれまでとは異なる新しい競争(業態を超えた競争)になり、弱肉強食の様相を呈しています。有力企業がますます強くなり、逆に経営資源に乏しい中小企業は淘汰されていくことになります。そのような環境の中で当社は売上高1000億円体制をめざしていきます。

 M&Aについては年に数件はお話がありますが、具体的な案件についてはまだお話できる段階にありません。当社はM&Aを成長戦略のベースに据えつつも、年間4~5店舗を新規出店していきたいと考えています。

さえきホールディングス
所在地 東京都国立市西1-11-6
資本金 2億円
従業員数 21人(正社員17人、パート・アルバイト4人)