メニュー

新中期経営計画に取り組むフジ「店、サービスを『くらし』に近づけたい」=フジ尾﨑英雄 社長

中国、四国エリアで事業展開するフジ(愛媛県)は、2013年2月期を初年度とする新中期経営計画をスタートさせた。商勢圏では少子高齢化が進行する中、「中四国くらし密着ドミナント」を掲げ、消費者に支持される強い店舗網の構築をめざす。尾﨑英雄社長に今後の展望について聞いた。

「フジブランド」前面に押し出す

──国内では少子高齢化、人口減少が進み、小売業にとっては難しい時代を迎えています。フジの商勢圏はどのような状況ですか。

フジ代表取締役社長 尾﨑 英雄 おざき・ひでお 1951年8月生まれ、60歳。76年フジ入社。2001年、取締役四国開発部長。03年、取締役執行役員開発担当、05年取締役常務執行役員フジグラン事業本部長。06年5月、代表取締役専務執行役員店舗運営事業本部長を経て、06年7月より現職。

尾﨑 当社は四国全県に加え、中国地方の広島県と山口県で店舗を展開していますが、まさにその傾向が顕著です。本拠の愛媛県では今後10年間で現在の約6%強の人口が減少すると見られています。県南部の南予地方では、その倍の水準になるとの予測もあり、ビジネスを展開するには厳しい状態です。

 一方、都市部では人口が集中するという現象も起こっています。当社が本拠を置く松山市はその一例で、中心部の小学校はプレハブの校舎をつくらなければならないほど生徒が増えています。つまり同じ地方でも場所によって人口偏在が起こっているのです。これは愛媛県だけでなく、当社の商勢圏全体に言える傾向です。

──マーケットが変容すれば、経営にも新しい考え方が求められます。

尾﨑 経営を取り巻く環境は確実に変わってきており、そういった状況を考慮し、策定したのが新中期経営計画です。2013年2月期から3年間にわたる計画で、「革新と挑戦~FORWARD(顧客視点での行動)~」が大きなテーマです。従来から掲げる「中四国流通ネットワーク構想」を一歩進め、「中四国くらし密着ドミナント~地域とお客様のくらしに密着した店舗・事業ドミナントを構築する~」をビジョンに事業展開していきます。

──具体的にはどのような内容ですか。

尾﨑 従来は商品を販売するための店舗規模と店舗網をいかに広げていくかを考えていればよかったのですが、もはやそれだけで通用する時代ではありません。高齢化により店に来られなくなった人は増えていますし、そういったお客さまへは、こちらから商品を配達するなどのサービスも考える必要があるでしょう。つまり、フジの店、サービスが人々の「くらし」へ近づいていく体制を整える、というのが大きな方向性です。

──フジの会社設立は1967年。今年は45周年にあたります。

尾﨑 10年2月期から、18年2月期の創業50周年までを視野に入れながら、企業の基盤を固めてきました。今年度を初年度に据えた新中期経営計画はその土台を強固なものにすべく策定しました。今後3年間は、次のような数値(単体)を目標に事業拡大していきます。13年2月期は「営業収益3150億円、売上高3000億円、経常利益45億円」、14年2月期は「営業収益3200億円、売上高3050億円、経常利益50億円」、15年2月期は「営業収益3250億円、売上高3100億円、経常利益60億円」です。

──スタートの今年度は重要な年になりそうですね。

尾﨑 これからさまざまな、新しい分野にチャレンジしていきます。そのためにはSM(食品スーパー)を事業の中心に据え、質の高い経営、強い商品力によって、高い収益性を確保したい。そのうえで衣料、住居関連分野についても、着実に利益を確保できる体質、収益構造を確立していきます。ふだんの「くらし」をしっかりと支える「フジブランド」を前面に押し出しながら、新中期経営計画を完遂します。

農業法人の設立も検討

──SM事業を強化していくため、何に取り組みますか。

尾﨑 第一に生鮮食品の強化です。生鮮でも料理の素材になるものもあれば、加工度を上げ、すぐに食べられるデリカテッセンのような商品も近年は重要になっています。こうした状況を受け、関連会社のフジデリカ・クオリティ(愛媛県/田中正二社長)は、延べ床面積3770坪で3層構造の総菜工場を松山市内に整備しており、この秋には竣工予定です。それら生鮮食品の品揃えを強化しながら、支持される店づくりをめざします。

──この春、生鮮事業部で新規事業プロジェクトを立ち上げると発表していました。

尾﨑 ひとつは農業法人の設立を検討しています。当社が拠点を置く愛媛県は農業の生産地という一面を持っています。また愛媛県だけでなく、事業展開しているのは一次産業のウエートが高い地域ですので、もっと農業へ積極的に関わる動きも必要なのではないかと考えています。

 農業従事者は減少しており、後継者が不足すれば耕作地は荒れていきます。農業そのものが衰退すれば、小売業の将来もありません。契約農場を含め農業との連携を強め、収穫された農作物を店頭で販売するまでの仕組みを構築することは必要だと考えています。

──製造小売業に近い方向性ですね。

尾﨑 これからの時代はその発想でないと生き残れないと思うのです。もうひとつ、考えているのは「フジ産直マルシェ」(仮称)という業態です。地場で生産された青果物を販売するのですが、それだけでは安定して商品を供給することは難しい。

 商品が手薄な時期には、ほかの地域、そして全国各地の産地で収穫された青果物も扱い、リージョナルチェーンを展開する企業の強みを生かした店にする計画です。産直野菜の販売は、既存店でもひとつのコーナーとして特設していますが、今のレベルは単に売場の一部を生産者に貸している状態です。さらに魅力的な売場になるよう準備を進めています。できれば今年度中には1号店をオープンさせたい。

──水産や畜産についてはどう考えていますか。

尾﨑 丸魚を調理して食べるという食習慣がなくなりつつあり、魚の売上は年々減少しています。ただ、完全になくなることはないでしょうし、直営の売場でしっかり売っていきます。同時に、可能な部分はテナントにお任せするという取り組みも強めています。今後は、信頼できるパートナーがあれば、一緒に会社を設立することもひとつの選択肢になるでしょう。畜産も対面売場についてはテナントにお願いしており、今後はその分野で競争力のある企業との連携を強めていく方向です。

──加工食品の分野では、ユニー(愛知県/前村哲路社長)、イズミヤ(大阪府/坂田俊博社長)と3社協業のPB(プライベートブランド)「Style ONE(スタイルワン)」の品揃えが充実してきました。

尾﨑 これは規模の経済を実現する取り組みで、今後も継続したい。アイテム数は現在、約1000があり、当社の強い武器になっています、また何より大きいのは他社との連携により、バイヤーの知見が広がったことです。これまでの仕事の進め方にとらわれない、積極的な姿勢が身についたように思います。

都市型小型店にもチャレンジ

──現在、広域商圏(商圏人口7~10万人)を対象にしたSC(ショッピングセンター)の「フジグラン」、SM(商圏人口2~3万人)の「フジ」、衣料品を扱う「ザ・カジュアル」の3業態を展開しています。今後の店舗政策について教えてください。

尾﨑 大型の「フジグラン」は、将来のマーケット状況を考えれば積極的に出せる業態ではありません。

 今後は、小型のSMを中心に年3店のペースで店舗網を拡大していきたい。現在、10カ所ほどの候補地があり、準備が整い次第、出店していきます。出店先は、足元商圏が豊かな都市部を想定しています。当社のプロトタイプの売場面積は520~530坪の店舗を考えていますが、都市部では300坪を基準として、400坪~250坪など複数のパターンを試しながら、適正なスタイルを確立します。

──他方、既存店舗についてはいかに考えていますか。

尾﨑 時流に合わなくなった古く、小さい店も多く、順次、建て替えを進めます。昨年の東日本大震災を考えると、われわれが展開する中四国エリアでも南海地震や東南海地震の発生に備える必要があります。建て替えを機に、店の機能も新しくしていきます。

 昨春にリプレースした「フジ内子店」(愛媛県内子町)がひとつの好例になります。もとは84年オープンと古く、敷地面積も狭いなどの条件を考慮し、200mほど離れた場所に新築移転しました。SMに加え、衣料品の「ザ・カジュアル」も併設、さらにクルマでの来店がしやすいように214台の駐車場も設置しました。このように以前の施設では地域ニーズに応えられなかった店については、移転も視野にリニューアルしていきます。

 また買物が不便なエリア、さらに買物にでかけられないような人に対しても、対策を講じていきます。すでにネットスーパーの「おまかせくん」や電話での注文が可能な「おまかせTELくん」は実施しています。

 今後、移動店舗や循環バス、御用聞きサービスの充実など、あらゆる方法を検討していきます。

 「くらし」に密着しながら店舗を整備すれば、人々の交流の場にもなる。つまり近年、失われつつある地域コミュニティを再生する場を提供したいと考えています。

お客の声へ真摯に応える

──さて、新中期経営計画では、重点施策のひとつに「ローコストの徹底」を掲げています。

尾﨑 計画を成功させるには、競争力強化のキーとなる、ローコストへの取り組みは不可欠です。社内には業務改善推進部という部署があり、ここで仕事の大きな流れや仕組みを考え、それらの成功事例を水平展開していきます。

 まして昨年は、原子力発電所の停止に伴って電力が不足、社会的な要請として節電への関心度が高まったこともあり、社内でもローコストへの志向が強くなったように思います。

 実際、経営のローコスト化は進んでいます。売上高に占める販売管理費の比率は10年2月期は26.4%でしたが、12年2月期は23.9%、さらにこの中期経営計画を通じ22%台を見込んでいます。

 ただし、ローコストでもお客さまから見える部分までコスト削減をすると、来店者の満足度は低くなります。省エネといっても、買物に支障が出るほど暗くするのは本末転倒。収益を改善するため、買物環境を悪くしてはいけません。そして、ここには留意するようにと従業員に対して口を酸っぱくして言っています。

──新中期経営計画の先には会社設立50周年が見えています。

尾﨑 そうですね。そこに向けて、フジという企業ブランドを前面に押しだし、企業グループ全体で、中四国の「くらし」に密着していく考えです。そのためには、お客さまの声にしっかりと応えることが必要だとあらためて認識しています。

 たとえば、これまで、お客さま、マーケットの声に真摯に対峙してきただろうかと自問すると、十分ではないことも多々あるように思います。自社のスタイルを正当化し、押しつけていた部分もあるのではないかとさえ感じることもあります。

 たとえば、「あいびきミンチに使われている肉の種類と比率を表示して欲しい」と言われた店長がいます。しかし一般に、表示義務がないとの理由で対応しなかったということがありました。けれどもそれがお客さまの要望であるなら、記載してもいいだろうと私は思うのです。ちょっとしたことですが、こちらの都合で進める仕事のやり方をあらため、要望に応えるべきなのです。

 激変する経営環境の中でもお客さまから支持される企業になれるよう、努力していく所存です。