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店舗数、M&A、総菜、ネットスーパー。いよいよ拡大路線に=西友兼ウォルマートジャパンCEO

2011年6月20日に西友(東京都)の最高経営責任者(CEO)に就任したスティーブ・デイカス氏(ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEO)。東日本大震災後の日本の小売市場でどのような成長戦略を描くのか? これまでの西友の戦略に変更はあるのか? そしてM&A(合併・買収)は──。スティーブCEOに聞いた。

使命は「Save money. Live better.」
今まで以上にお客さまへ貢献する

西友CEO兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEO スティーブ・デイカス Steve Dacus 1960年生まれ。サンディエゴ州立大学卒業。2007年8月、ウォルマート・ストアーズ・インクへ入社、国際部門の商品本部、マーケティング本部などを統括。09年2月、ウォルマートのサムズ・クラブ(会員制ホールセールクラブ)へ異動、テクノロジー&エンターテイメント部門のGMM(ゼネラル・マーチャンダイズ・マネジャー)に就任。10年4月、西友執行役員EVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)最高執行責任者(COO)兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングス執行役員EVP・COOに就任。2011年6月20日から現職。米国公認会計士。

──6月20日に西友とウォルマート・ジャパン・ホールディングスのCEOに就任されました。 東日本大震災後の日本の小売市場をどのようにとらえていますか?

スティーブ 日本は世界で3番目の大きな市場ですが、「向かい風」の中を進んでいると感じています。震災の影響はもちろんありますが、中長期的に見て消費に大きな影響を及ぼしているのは、可処分所得が下降の一途をたどっていることです。
多くの日本人の家計は苦しい状況がずっと続いています。そして可処分所得が減り続ければ、今までと同じレベルの生活を保っていくことは難しくなってくるでしょう。

 われわれの使命はSaving people money so they can live better、つまり「お客さまの節約に貢献してよりよい生活を送っていただく」ことです。したがって使命を果たすためにわれわれは日々精進し、大震災を契機に、さらにお客さまへの貢献度を高めることができるのではないかと考えています。

 それは、大震災以降、お客さまや当社の従業員の価値観や人生観に変化が見られるようになったことと無関係ではありません。

 お客さまの中には、家族と過ごす時間を増やしたり、コミュニティとのつながりに再度重きを置くような行動が見受けられます。「コミュニティを助けたい」「隣人を助けたい」「何かとつながっていたい」というような潜在意識が顕在化してきていると言えるでしょう。当社の中にも、「何かの役に立ちたい」とボランティア活動に従事する従業員が多くいました。そのモチベーションがわれわれの使命であるSave money. Live better.を実現するためのスピードを速めることにつながるのではないかと考えています。

 今回の大震災を契機に、当社の従業員は、今まで以上にお客さまに貢献したいという気持ちを持って仕事に臨んでいます。

──これまで以上にお客へ貢献するということは、Save money、つまりEDLP(エブリデイ・ロー・プライス)に力を入れていくということですね。

スティーブ そうです。EDLPを深化してお客さまに貢献していきます。

 そのためにわれわれは常に基本的な営業哲学に基づいて行動しています。すなわちEDLC(エブリデイ・ロー・コスト)を実現することによって行うEDLPです。EDLCなくしてEDLPの実現はあり得ません。EDLCがEDLPにつながり、規模を拡大することでさらなるEDLCが可能となります。われわれはこれを「生産性のループ」と呼んでいます。

──これまでにもEDLCに注力してきました。コスト削減の余地はまだあるのですか?

スティーブ あります。2007年と2010年を比較すると、1人時当たりの売上は40%アップし、倉庫における1ケース当たりにかかる経費は36%下がっています。また、サプライチェーン全体における1人時がハンドリングできるケース数は50%以上改善しています。そういった意味では、規模を拡大し、継続して効率を改善していくことに関してはまだまだコスト削減の余地があると考えています。

EDLPに変更はない
「拡大」こそわれわれの文化

──さて、一般的に経営者が交代すると、企業の戦略そのものが変わることもあります。これまでの西友の戦略に変更はありますか?

スティーブ EDLPがわれわれのビジネスの核であるということに何ら変わりはありません。今後もEDLPに取り組みますし、そこに重きを置きます。

 今の質問に関して、ウォルマート創始者のサム・ウォルトンの言葉がふと頭の中に思い浮かびました。それは「個人が勝つのではない。チームが勝つのだ」というものです。

 当社の過去数年間を振り返ると、「当社=チーム」は勝ってきたと言えるでしょう。たとえば、売上と利益はともに増えていますし、企業イメージも改善しています。私個人としては、そのチームの新しいCEOとなって、チームのみなさんが継続してつくってきたモデルを引き継げるということを、大変うれしく思っています。というのも、われわれのチームはすでに成功できるモデルをつくっているからです。

 私は、すでにある成功モデルを引き継ぎ、事業を拡大できるタイミングでCEOに就いたわけです。

 今後は、どれだけ速く事業を拡大できるかということが重要になります。お客さまの立場から見れば、今まで取り組んできたこととまったく同じに見えるかもしれませんが、スピードを速めて事業を拡大していきます。

──本格的に成長をめざしていく。

スティーブ そうです。われわれが今いちばん重きを置いているのが「成長=拡大」です。ウォルマートはグローバルな市場の中で常に成長を考えています。私達の企業文化とは拡大なのです。これまでわれわれが成功モデルの構築に取り組んできた目的は成長するためと言って過言ではありません。

──具体的にはどのようなことを考えていますか?

スティーブ 拡大のための戦略は、4つ考えられます。①店舗数増、②M&A、③食品(=総菜)事業、④オンラインビジネス(ネットスーパー)による拡大です。

──店舗数の拡大ということでは、いよいよ新規出店に着手すると見ていいですか。

スティーブ われわれは、過去数年間にわたって新規に出店することができませんでした。非常に残念に思っていますし、われわれの課題であると認識しています。ただし、最近は成長戦略の一環として新規出店を折り込んでいます。現段階で具体的なことは言えませんが、出店の候補地もいくつかあります。

 新規出店のメーンは、スーパーマーケット(SM)業態になると思います。現在、食品の販売がわれわれのビジネスの核になっており、お客さまは「西友=SM」だと認識しています。ですからわれわれとしては、お客さまが求めているものに対して応えていく必要があります。

 とはいっても「LIVIN(リヴィン)」のような大型店をスクラップするということではありません。中・大型店の売上は伸びていますので、こちらも時期を見ながら出店を模索します。

M&Aは地方の小規模SMチェーンも対象

──さて、次のM&Aということでは、現在交渉を進めている案件はありますか?

スティーブ M&Aに関しては、われわれはとても興味を持っていますし、積極的に動いています。いくつかのパートナーさんと話を進めていますが、それについての具体的なコメントは差し控えます。

──M&Aを実施しようとする際には、財務状況や売上規模の大小など、企業のどの部分を見ていますか。

スティーブ われわれは、財務状況が健全で、しっかりとマネジメントされている企業を求めています。ただし、「箱」だけを対象にM&Aを行うわけではなく、企業で働く人材の力にも注目します。それというのも、その中に、将来的にウォルマートのグローバルなステージで活躍する人材がいる可能性があるからです。

 M&Aの対象は、さまざまですし、各企業を取り巻く状況もそれぞれ異なります。M&Aをオファーする側としては、柔軟性を持っていなければなりません。「どのような企業を求めているのか」、「どのような状況でM&Aを実現していくのか」ということについて、フレキシブルでありたいと考えています。

 たとえばM&Aの手法も、ウォルマートの場合はさまざまです。最近の例では、過半数(=マジョリティ)を握るというよりは、ジョイントベンチャー的なM&Aもあります。つい最近、南アフリカで行ったM&Aでは、ウォルマートが51%の株主になりました。つまり持ち株の割合・比率というのも状況によって変わります。ですから、M&Aの手法にも柔軟性を持っていきたいと考えています。

──日本でのM&Aの対象はSM企業になるのですか?

スティーブ そうですね。小規模なSMチェーンとなる可能性もあると思います。われわれはSM事業を拡大する非常に強いビジネスモデルを持っています。

 対象は、大都市圏の小売企業のみならず、地方のSMチェーンも含まれます。そういったSMチェーンの方々と一緒に働くことによって、そのエリアに住むお客さまの生活に今まで以上に貢献することができる可能性があると考えています。

 たとえば、私が地方にある小さなSMチェーンのオーナーだったとします。ある企業からM&Aを打診されたときに、私がいちばん懸念するのは、今まで支持してもらった地元のお客さまに、「これまで以上に貢献できるだろうか」ということです。お客さまに今まで以上の付加価値を提供できなければ、M&Aの意味はありません。

 ただ、M&Aは相手があっての話です。売上規模の大きい小売業さんとM& Aの話をする機会もあるかもしれません。ですから規模の大小を決めずに柔軟に、そしてオープンマインドでいたいと思います。

オンラインビジネスに大きな「拡大」のチャンス

──食品事業とオンラインビジネス(ネットスーパー)については、どのように考えていますか?

スティーブ 食品事業については、総菜の製造・加工・販売を手掛ける子会社の若菜(埼玉県/難波愼治社長)を中心に事業規模の拡大を図ります。同事業部門は業界平均よりもずっと速いペースでその規模を拡大しています。まずは西友店内にある若菜の店舗をより充実させ、ロードサイドにも総菜専門店を新規出店していきたいと考えています。

 そしてネットスーパーには、大きなチャンスがあると見ています。当社は競合他社に先駆けて2000年にネットスーパー事業を開始していますが、残念ながら今は後れをとっています。私としてはネットスーパーをはじめとするオンラインビジネスに非常に大きなチャンスがあると信じていますし、今後、オンラインビジネスを加速していきたいと考えています。

──現在の一定額以上の購入で配送料無料というビジネスモデルでは、ネットスーパー事業を黒字化することは難しくありませんか?

スティーブ これもウォルマートグループのノウハウを活用することで利益を出せると考えています。ウォルマートグループである英国アズダ社のネットスーパー事業は、非常に規模が大きく、かつ利益が上がっているビジネスです。

 われわれは、その成功事例をなるべく速く、かつ可能な限り活用して日本の市場で展開していきます。11年1月にネットスーパーの全国展開を発表しましたが、黒字化できる状態になったことがその背景にあります。利益が上がる前に拡大してしまったら、損失を拡大するだけになってしまいます。

 ネットスーパーを収益性のあるビジネスにするいちばんの要因は運営面にあります。この先も工夫を重ねて、ビジネスを加速していきたいと思っています。

──最後に今後の抱負を聞かせてください。

スティーブ これからは、すでにある成功モデルで事業を拡大していくことになります。私がいちばん懸念しているのは、現状の実績に満足してしまうことです。もし、これまでやってきたことに成功を感じて満足してしまったとしたら、われわれウォルマートグループの潜在的な能力を十分に発揮することができなくなります。

 「確かに今のわれわれの業績はよい。けれども潜在的な実力値にはまだまだ遠く及ばない」と私はいつも従業員に言っています。ウォルマートグループの本当の力を日本の市場で発揮できるよう日々努力していきます。