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SCM確立でローコスト・オペレーションを実現=マックスバリュ西日本 岩本隆雄社長

イオン(千葉県/岡田元也社長)グループの一員として、関西、中・四国エリアで店舗展開するマックスバリュ西日本。この10月に本社を兵庫県から広島県へ移転し、強い店舗網の再構築に踏み出した。激変する経営環境の中、事業の今後についてどう考えているのか。5月、社長に就任した岩本隆雄氏に聞いた。

いろいろな面で標準化進めたい

──10月11日に本社を、これまでの兵庫県姫路市から広島市に移転しました。

マックスバリュ西日本代表取締役社長 岩本隆雄 いわもと・たかお 1952年生まれ。1976年、ジャスコ(現:イオン入社)。96年、プリマート取締役。99年、琉球ジャスコ取締役。2000年、ジャスコSSM商品本部兵庫商品部長。02年、マイカル商品本部食品企画部長。04年、イオン食品商品本部グロッサリー商品部長。06年、イオン食品商品本部副本部長。07年、イオングローバルSCM社長就任。11年5月、マックスバリュ西日本社長就任。

岩本 一番の理由は、旧本社建物の耐震構造に問題があったからなのです。広島市を移転先に選んだのは、今後の成長戦略を考慮した結果です。現在(2011年10月末)、167店舗のうち兵庫県は86店舗と半数以上を占めています。本社を移したことで、まだ店舗数の少ない広島県、岡山県、さらに山口県へも店を出しやすくなると考えています。

──イオンは、マルナカ(香川県)と山陽マルナカ(岡山県)を買収すると発表しています。

岩本 その2社が店舗展開しているのは中・四国、関西エリアで、当社の商勢圏と重なっています。これまでは競争相手だった企業です。

 ただ視点を変え、互いの長所を組み合わせれば強い競争力が生まれる可能性はあると考えます。

──さて、今期(2012年2月期)に入ってからの、業績をどう分析していますか?

岩本 どの企業もある程度は共通するでしょうが、第1四半期は、東日本震災の“特需”の影響もあり、前年の数字を上回るペースできました。第2四半期に入ってからも、しばらくは同じ傾向でしたが、7月前後から鈍化に転じ、8月、9月は芳しくありません。下半期の先行きにあまり明るいイメージが持てていないのが正直な感想です。

 何か特定の原因があるというより、社会全体の低調なマインドによるものではないかと見ています。株価に象徴されるような経済の低迷、また「これから税金が上がるかもしれない」「会社の手当が削減されるのではないだろうか」といった、将来に対する不安感を持っている人は少なくありません。その中での震災発生──。それが西日本にも予想以上に暗い影を落としています。

──そんな厳しい状況の中、社長に就任しました。以前は同じイオングループの企業(イオングローバルSCM〈千葉県/ジェンク・グロル社長〉)の社長でしたが、マックスバリュ西日本という企業を外側からどのように見ていましたか。

岩本 イオングループでは、マックスバリュを展開するグループとしては最も大きい企業です。上場もしていますし、着実に成長を続けてきました。その意味で仕事や店づくりなどが標準化され、システマチックな会社ではないかと想像していました。

 ところが各店を回ると、必ずしもそうではありませんでした。それぞれがそれぞれに仕事をしているところがある、と意外に思いました。チェーンストアですから、いろいろな面で標準化を進めていけば、もっと強い企業になるとのではと考えています。

ムダを省いた筋肉質な会社に

──流通業を取り巻く環境は激変しています。少子高齢化やマーケットの縮小を余儀なくされる中で、何を意識して経営しますか?

岩本 当社のドミナントエリアである関西、中・四国エリアは、一部を除く、ほとんどの地域において人口増加が見込めません。社会の老齢化の進行も大きな問題です。つまり、どの要素をとってもマーケットは縮小傾向にあり、さらに競争も激しくなるのは間違いありません。その中で生き抜くには、「ローコスト運営」や「ローコスト経営」といったキーワードは外せないと考えています。あらゆる面でムダを省き、筋肉質な会社にしていく必要があります。

──具体的にはどんな取り組みに着手していますか?

岩本 着任後は、「隗(かい)より始めよ」で、まず簡単に実行できそうな分野にメスを入れました。たとえば、これまでの売場づくりには、必要以上に人手がかかったり、属人的な能力差によって、ばらつきが散見できました。

 これに対し、店舗では誰が作業しても同じようにできるような仕組みをつくりつつあります。コーナーエンドを誰もがうまく、スムーズにつくれるよう、指示書をシンプルにしたり、什器を工夫したりしています。

 以前、私は物流畑におり、海外の有力な流通企業の物流を数多く視察する機会に恵まれました。どの企業にも共通するのは、SCM(サプライチェーン・マネジメント)の発想から、ローコスト・オペレーションへアプローチしていたということです。

 その視点から当社を見ると、店の段階でのローコスト・オペレーションしかないことに気づきます。やはり商品の調達から店舗への配送、販売といったトータルの取り組みによるローコスト・オペレーションは、まだまだ実現できていません。

 物流センターから店舗へ配送するにも、カートラックを使ったり、パレットのまま納品したりといったように、極力、作業を少なくなるような仕組みが必要です。9月にオープンした「ザ・ビッグエクストラ萩店」(山口県)では、人手がかからないような什器、施設を採用しました。

「マックスバリュ」と「ザ・ビッグ」の2本柱でドミナント深耕

──拡大戦略については、どのように考えていますか?

岩本 主力業態であるSSM(大型食品スーパー)業態の「マックスバリュ」とDS(ディスカウント)業態「ザ・ビッグ」の2本立てで出店していきます。「マックスバリュ」は売場面積2000平方メートル、「ザ・ビッグ」は同5000平方メートルを目安としていますが、同1万平方メートルまでの大きな規模の店にもチャレンジしていきます。

 本拠地である広島県、競合する企業が少ない山口県を重点エリアとして、出店を進めていきます。今後は、イオンリテール(千葉県/村井正平社長)と協力しながら、イオングループとしてシェア拡大を図っていきます。

──「マックスバリュ」はすでに133店舗を展開しており、収益源となっている業態です。

岩本 そのとおりです。当社の収益の基盤であり、バックボーンはしっかりしています。ただSMとしての強み、特徴が必ずしも明確ではなく、それが弱みになっていた可能性があるとも見ています。その意味では「マックスバリュ」は、転換期にあると言えます。今後、試行錯誤を繰り返しながら、さらに強い業態にしていきたいと考えています。

──もうひとつの「ザ・ビッグ」は、現在積極出店しており、31店舗を展開するに至っています。この業態では、さまざまなノンフードを単品量販する技術も磨きつつあります。

マックスバリュ西日本の出店の主軸業態のひとつ「ザ・ビッグ」写真は平島店(岡山県)。

岩本 「ザ・ビッグ」は当初、不振店の活性化対策として活用していた業態です。しかし現在は新店でも出すようになりました。EDLP(エブリデー・ロー・プライス)で低価格を前面に打ち出し、売場は単品を大量販売するスタイルです。「買えば買うほど安さがわかる」を掲げており、消費者にもコンセプトが伝わりやすい店だと思います。

 イオングループ内でもそこに着目し、主力業態のひとつとして出店政策の柱に置く企業が出てきました。

 現在、当社では、食品売場は基本となるプロトタイプができています。今後は、そこへどのようなノンフードの売場を組み合わせるかが課題になってきます。選択肢としてはアパレルやドラッグなどがあり、それらを付加することで、競争力のある店舗にしていきたいと考えています。

── 一方、地方都市でも「買物弱者」といわれる人々が増えています。ネットスーパー、移動販売車、訪問販売などへの対応はどうなっていますか?

岩本 これまでお客さまの近くに店を出しながら、日常生活に利便性の高い事業を意識してきました。しかし、社会が老齢化する一方、過疎化も深刻になってきています。この問題には対応しなければいけません。

 実は当社では、この11月から、兵庫県の買物が不便だといわれるエリアで「ご用聞きサービス」をテスト的に立ち上げています。電話やFAXで注文を受け付けるのではなく、パートタイマーの女性スタッフが各家庭へ足を運び、持参した携帯端末の画面を見ながら注文を入力するスタイルです。これならパソコンを持っていなくても、買物ができます。配送は専門業者にお願いして、注文を受けたら翌日、もしくは2日後には商品が届くようなイメージです。チェーンストア企業であっても、消費者の玄関にまで足を運ぶビジネスは重要になるかもしれません。

──イオングループには「まいばすけっと」という小型店があります。現在東京都と神奈川県に229店舗を展開し、高齢化の進んだ都心部でも支持され、今も着実に店舗網を広げています。あのビジネスモデルを移植できませんか。

岩本 「まいばすけっと」を成立させるには、ある程度の人口密度が必要です。その意味では、いまのところは難しいと考えます。

「強い単品」を積極開発

──さて、社会の老齢化によって、今後は店舗で販売する商品も変わっていくのでしょうか。

岩本 そうですね。移動手段を持っていない老齢者の方々は、店舗にさらなるワンストップショッピング性を求めるようになるかもしれません。その意味で、品揃えは、従来からはずいぶんと変化する可能性はあります。

 ドイツのアルディは小型のSMですが、カタログ販売でテレビや冷蔵庫も扱っています。ということは、既成概念にとらわれることなくSMも変わっていくべきでしょう。

──老齢化対策も含めて、競合各社は簡便性の高い総菜や、温めるだけで食することができる「レディ・トゥ・イート」を強化しています。

岩本 「レディ・トゥ・イート」に関しては、当社も積極的に商品を開発しています。社会が老齢化していけば、素材中心の売場だけではニーズに十分応えられません。また、少人数世帯では、素材を買ってもすぐに使い切ることは難しい。その意味では総菜などの簡便商材は重要です。量目についても配慮すべきで、少しの量の商品を、多くの中から選択できる店にしたいと考えています。

 もうひとつ。味については、最も大切な問題と認識しています。事業展開しているのは関西、中・四国エリアですが、これまでは本社を置いていた兵庫県を中心に考えていたところがあります。つまり関西の商品を各地に流すという発想です。

 今回、本社を移転したことで、それぞれのエリア特有の味を打ち出していく方針です。各地には強いローカルチェーン、地場SMが存在しています。そういった企業と戦っていくには、地場に根ざした味にこだわる必要があります。従来は、その部分が当社の弱点になっていたと分析しています。

──商品的な話題を続けると、マックスバリュ西日本は現在、「強い単品」という商品を増やしていると聞きます。これは具体的には、どういったものですか。

岩本 商品開発や原料調達の段階から製造、物流、販売にいたるまでのすべての工程でコストの見直しを図り、低価格を実現する商品です。

 いまのところ100アイテムの「強い単品」をつくることが目標です。なかなかスピードが上がらないのですが、これまでに25ほどの商品ができました。「焼酎」は、そのひとつです。商談で条件を出してもらって安くするというのではなく、あくまで仕組みで価格を打ち出しているのが「強い単品」です。それをコーナーエンドなど目立つ売場で展開していきます。

大事なのはスピード

──現在、販売促進活動の分野で新しい考えはありますか。

岩本 イオングループですから、電子マネーの「ワオン」を導入しているほか、独自の販促策として「火曜市」などを実施しています。ただ特別なものは、それほどないのが現状です。今もチラシは打っていますが、実際には新聞を購読していない人も増えており、媒体の効果測定にも着手しなければならないと思っています。つまり、この分野でも先ほどお話しした「ローコスト」をキーワードに見直していきます。

──最後に、今後の抱負を教えてください。

岩本 企業風土として、ゆったりしているところがありますから、「スピード」をテーマに改善していこうと思います。何事も早く決め、素早く実行するということを社内で徹底していきます。

 来年度は会社設立からちょうど30周年を迎えます。それに合わせて会社としての中期経営計画を発表します。従来から掲げている売上3000億円、営業利益率4%といった数値的目標のほか、さらに強い企業になるための施策を盛り込む予定です。