スーパーマーケットの上期決算では、各社トップが節約志向への対応が必要と口を揃えました。これは、価格競争の激化を告げる号砲でしょうか? しかし、仕入れ原価や光熱費が高騰する中での値下げ競争というのは現実的ではありません。それなら消費者の節約志向に対して、どのようなアピールが可能か? イオンの吉田昭夫社長が上期決算で挙げたキーワードは「お値打ち感」でした。これこそ、イオンに限らず、スーパーマーケット各社の営業戦略に通じるキーワードと言えそうです。それは売価を尺度とした価格競争とは、似て非なるものです。
お値打ち感を決める尺度は多様
価格だけを尺度に比較すれば、そこには「高いか・安いか」しかありません。しかし、「お値打ち感」と言うとき、価格に対する商品の評価は、消費者それぞれに委ねられます。お値打ちな「感じ」というものは、何と比較するかによっても変わるので、ひたすら低価格を追求するとも限りません。
いわば総菜も、お値打ち感で勝負しています。外食と比べてお値打ちであれば、その需要を獲得できます。コロナ禍を経て現在は、一度取り込んだ外食ニーズをいかに維持するか、改めてお値打ち感が問われる局面にあります。また、総菜のお値打ち感は外食との勝負にとどまりません。素材を揃えて作るよりもお値打ちであれば、内食からのシフトも起きます。
グロサリーや日配品の場合、お値打ち感は今まで購入していた商品との比較で判断されることでしょう。節約志向が高まる状況では、従来品より安価でも納得できる・満足できる商品が求められます。こうしたスイッチはナショナルブランド(NB)間でも起こるでしょうし、NBからプライベートブランド(PB)へというスイッチもあるでしょう。
さらにはPB内においても、スタンダードな価格帯のものから低価格PBへという流れもあります。イオンの「トップバリュ」は、22年度上期に対前年同期比5.1%増と伸長しましたが、中でも低価格ラインの「ベストプライス」は2ケタ増といいます。セブン&アイ・ホールディングスは、価格訴求型のPBとして「セブン・ザ・プライス」の展開を拡大、セブン-イレブンの一部店舗でも取り扱いを始めました。
マルエツは下期に入り、留め型を主体とする推奨品を「maruetsu365」として訴求しています。この推奨シリーズの役割はPBと似ています。マルエツでしか購入できない商品で、低価格で、粗利が残るというものです。
お値打ち感は、価格だけでは比べられない商品に宿る
外食に対しての総菜、NBに対してのPBや留め型、このように見てくると、お値打ち感とは何か、いわゆる価格競争とは何が違うのか、スーパーマーケットの目指しているところが見えてくるようです。
お値打ち感に求められる条件の1つは、購入対象をスイッチする際の選択肢であることです。2つ目は、それで粗利益を稼げること。3つ目は、購入客の満足を得られること。1~3は優先順位ではなく、全てが揃わないとお値打ち感が成立しません。これらの項目を満たすとなると、ほぼ必然的にオリジナル商品になります。NBは結局のところ、価格で判断されるからです。
言ってみれば価格競争とは、従来品からスイッチしなくても済むようにする努力です。顧客にとっては支出を抑えられて、従来通り満足できるのでしょうが、今の環境下で粗利も従来通り残せるかどうか、厳しい戦略です。価格競争の打ち手は限られますし、成果は「高いか・安いか」だけです。
ところが競争の舞台をお値打ち感に移すことで、やれることは広がります。もっとも、安いことが結局は最強かもしれません。しかし食品小売の実態をみれば、戦い方や勝ち方は、安いこと以外にあることも事実です。
お値打ち感を追求する道は多様で、高価格にスイッチする選択肢もあるほどです。例えば健康やサステナビリティといった価値に対して、お値打ち感が認められれば「スイッチ」が起きます。
イオングループのビオセボン・ジャポンが掲げる「オーガニックを日常に」は、オーガニック商品においてお値打ち感を追求する姿勢です。また、ライフコーポレーションが展開する「ビオラル」は、PBとしては高価格帯の位置付けになりますが、差別化と粗利率アップに寄与している「お値打ちPB」でもあります。
期初にスーパーマーケットの多くが打ち出した商品戦略は、総菜とPBの強化でした。この半年で環境は一段とシビアになりましたが、下期に向けても戦略そのものは変わっていない印象です。いまスーパーマーケットが取り組んでいるのは、価格を下げる競争というより、お値打ち感を高める競争です。それは売価だけで比較されることを回避しつつ、粗利を確保する工夫と言えます。