「ユニクロ」を筆頭とした大手製造小売(SPA)による価格破壊、コロナ禍に伴う需要減、昨今はD2C(消費者直接取引)という新プレイヤーも台頭するなど混戦模様のアパレル市場。それは、インナーウエアも例外ではなく、市場はユニクロに席巻され、ナショナルブランドのメーカーは迷走気味だ。こうした苦境の中で、一定の成果を見せているのがEC専業の白鳩(京都府/服部理基社長)だ。本稿では、インナーウエア市場の現状を見ながら、同社の経営戦略に迫ってみたい。
インナーウエア市場の現状
ユニクロが大ヒット商品「ブラトップ」を世に出したのが2008年……それから14年が経過し、ユニクロのインナーウエアは消費者にすっかり浸透した。「エアリズム」「ヒートテック」といった機能性下着もすっかり定着。ブラジャーについてはノンワイヤータイプなども投入され、発売当初は中高年中心だった客層も若年層まで拡がっている。
高級ブランドのブラジャーの特徴はなんといっても、着用したときのフィット感だ。ところが最近の消費者は、ゆったりしたサイズ感に慣れてきており、結果として「ユニクロで十分」と考えるお客が増えているのだという。人口減少や所得水準の伸び悩みもあって、市場全体が弱含む中で、ユニクロだけ好調を続けているのが、昨今のインナーウエアの現状だ。
一方、ワコール(京都府/伊東知康社長)をはじめとしたユニクロを迎え撃つメーカー側は、有効な対抗策を打てないでいる。かつてのワコールは、1992年発売の大ヒット商品「グッドアップブラ」に代表されるように、高い商品力を誇示してきた。ただ、近年は低価格化や販売チャネルの直営化を推進しており、価格面で優位なユニクロに市場侵食を許してしまっている。
EC専業、白鳩の打ち手
市場全体が盛り上がらないインナーウエアだが、ECに関してはここ10年ほど上昇基調が続いてきた。白鳩も例外ではなく、19年度と20年度は最終赤字に陥り、踊り場に差し掛かったと思われたが、21年度は赤字幅を圧縮、業績回復の兆しを見せている。
業績回復のポイントとなっているのが物流体制の改善だ。白鳩ではここ数年、物流の強化に注力しており、「出荷能力倍増」をめざして、20年8月に新物流拠点を開設している。京都市伏見区に開設した同拠点では、自動出荷システム「オートストア」を導入。「立ち上げ時はトラブルなどに見舞われたものの、現在は安定的に稼働している」(白鳩 IR広報室長の池上正氏)とのことだ。
打ち手を無闇に拡げない経営も奏功している。企業の経営戦略は往々にして“全方向”になりがちだが、白鳩の経営戦略は潔い。SPAは志向せず、今後もナショナルブランドのメーカー商品を主力に据える方針を明確にしている。
また、昨今は、自社EC化を進めるアパレル企業は増えているが、白鳩は同じ路線をとらないとしている。白鳩でも自社のオンラインショップを運営しているものの、現状はそこに顧客を積極的に誘導するような施策をとるつもりもないとのことで、「楽天市場」「ZOZOTOWN」「paypayモール」といったモールへの出店・販売に軸足を置くとしている。
代わりに注力するのが、SNSと連携した販促だ。とくにLINEとの連携に力を入れており、公式アカウントを通じてクーポンや情報発信を積極的に行っている。
飛躍に向けた最後のピースは
前述のとおりSPA化はめざさないとしているものの、プライベートブランドの展開は推進していく。白鳩では現在、「HIMICO(ヒミコ)」「LA VIE A DEUX(ラヴィアドゥ)」といったプライベートブランド(PB)を展開する。
これらPBがターゲットに据えるのは、「ワコール」「カルバンクライン」といった高級ブランドには手を出さないものの、一定のデザイン性や機能を求めるミドル&ローの層だ。こうした中間層の需要に応えるべく、白鳩ではあくまでファブレスでPBを拡充していくとしている。
在庫リスクには注意する必要があるが、周知のとおり、PBは利益面の貢献度が高い。というものの、白鳩にとってPB強化は本意ではない。ナショナルブランドのメーカーが良い商品を投入するのであればそれを売っていく、というのが白鳩の基本方針だからだ。それを踏まえた上で、“選ばれる通販”となるべく、生き残りを掛けて物流に投資してきたのがここ数年の同社の姿と言える。
新物流拠点も安定稼働し、業績回復の道筋はすでに整ったと言っていい。白鳩が飛躍するための最後のピースは、メーカーによる「モノづくり」の復興になりそうだ。