メニュー

小売DXの伝道師、LINE比企氏が語る デジタル投資で今、知っておくべき視点【後編】

2回にわたってお届けしているLINE 株式会社(東京都)Technical Evangelismチームマネージャーの比企宏之氏へのインタビュー。前編ではLINEが小売業向けに提供している「LINE API」を活用した最新のソリューションについて聞いた。後編では、小売業のDXを最前線で推進する比企氏に、各社がDXを進めるうえで重要となる視点について聞いた。聞き手=大宮弓絵(本誌)、構成=兵藤雄之

LINE導入で
会員数が2倍以上に

――数年ほど前から小売業界で自社アプリの開発に取り組む企業が増えてきました。しかし、アプリのダウンロード数が悩んでいるという声をよく聞きます。
比企 まず1つの問題点として、多くの生活者が、「スマホの中に普段使わない不要なアプリを入れたくない」と考えていることが挙げられます。また、ロイヤルカスタマーだからといって、専用のアプリを利用したいかといえば、必ずしも全員がそうではないはずです。

 たとえば、東急ストア(東京都)では、東急ストアの専用アプリの会員数が7年で9万人にとどまっていたのに対し、LINE公式アカウント導入後1年で友だち数が20万人を超えました。さらに、東急(東京都)が2022年5月から開始したLINEマイカード「TOKYU POINT CARD on LINE」との連携によって、東急ストアのLINE公式アカウントの日別「友だち」獲得件数は「TOKYU POINT CARD on LINE」開始前の3倍となり、7月末時点で34万人となっています。 

TOKYU POINT CARD on LINE

――自社アプリと、LINE経由でポイントを貯めるのでは、どこに違いがあるのでしょうか。
比企 自社アプリは別途、インストールの手間が必要になる点です。一方の「LINE」は日本国内ですでに月間9200万人(2022年3月時点)が利用しているコミュニケーションツールです。LINEのインターフェースに慣れている人も多く、ユーザーはLINE公式アカウントを「友だち」追加すればいいだけなので、利用するまでのハードルが格段に低くなります。
 もう1つ大きなポイントとして「プッシュ通知」の存在があります。多くのアプリで使われている機能ですが、最近は「アプリ通知があってもほとんど見ない」という人が増えていると思います。一方でLINEの場合はその開封率が非常に高いのです。これを活用することで、特典情報やクーポンが顧客にリーチできる可能性も広がります。

退店後、次の来店まで
顧客とつながる

LINE  Technical Evangelismチームマネージャーの比企宏之氏

――LINEを入口としたコミュニケーションの可能性について教えてください。
比企 OMO(オンラインとオフラインの融合)のデモ体験(※前編で既述)が示したように、LINEを入口にすることで、オンラインとオフラインで連携できる範囲、そして顧客体験が広がります。

 たとえば、デジタルサイネージ上に表示された懸賞応募用の二次元バーコードをスマホで読み込み、その場で、かつスマホ上ではなくサイネージ上に、「当選しました」と結果を表示するといった、店頭での双方向のデジタルコミュニケーションも可能になります。

 また、最近広がっているレジカートについても、単に導入しても、利便性はその場に限定されます。しかし、レジカートとLINEを連携することで、レジカートの利用者と、買物中から帰宅後、次回来店時までつながることができ、One to Oneの関係性を築くことも難しくありません。

 デモで体感していただいた通りのことが実現できれば、LINEを入口としたOMO施策は、アプリのインストールなしですぐ使えるという利便性だけでなく、スマホ(オンライン)と店舗の売場(オフライン)の垣根を限りなく低くすることができます。これからは、オフラインの売場に備え付けられたサイネージやデバイス等とLINEが連携することで、スマートフォンに制限されない、リアル店舗も通じた最高の顧客体験、OMOが進んでいくでしょう。

――これから小売各社はいかに顧客接点を構築していくべきでしょうか。
比企 コロナウイルス感染症の影響で、ネットスーパーやダークストアの存在感が大きくなっています。今後は、この店舗との物理的な距離が「0(ゼロ)」であるユーザーとの顧客接点を、デジタルによっていかにつくるかが、ますます重要になってくると思います。

 デジタルを中心とした顧客へのアプローチは、不特定多数を対象とした実店舗ベースのものに比べ、One to Oneの関係構築がしやすくなります。そうなれば、顧客のニーズに応じて、品揃えやサービスを絞り込むことができ、安定したサービス提供にもつながると考えます。今後、店舗のデジタルマーケティングも、One to Oneが主流になっていくでしょう。

「速度」を持ってDXを進め
先行者利益を得る

――独自アプリを育成するうえではどのようなことがポイントになりますか。
比企 アプリ導入の際、どの企業でも少なからずPoC(Proof of Concept:いわゆる実証実験)を行うと思います。その場合、機能確認だけでなく、実際にユーザーの反応を収集して検証を行うことも必要であると考えています。

 アプリの良し悪しを図る物差しは、結局は機能よりもアクティブ利用しているユーザーがどれだけいるかという数字です。担当者としては、ついつい機能を増やそうとしてしまいますがこれによって、ユーザーの利便性を損ね、結果使いづらいアプリになる可能性もあります。またユーザー数が増えると、担当者も自社の打ち手に自信が持てるようになり、さらにアプリ活用が進むという場面をこれまでに何度も目にしてきました。

 またユーザー数を増やす為には忙しい店舗運営の中でどれだけ現場で働いている方に負荷をかけないようにするかがポイントとなり、導入時に説明が多く必要なアプリは、忙しい現場からも敬遠されます。

 事業者様がLINE APIを使って自社アプリ開発でサービスを提供する場合、LINEでQRコードを読み込んだらすぐにアプリが使えるようにする事も可能なので、店舗からの新規ユーザー獲得が見込まれます。

――食品スーパーでは、その重要性を感じつつもなかなかDXが進んでいきません。なにが障壁になっていると思われますか。
比企 大きなところでいえば、食品スーパーをはじめ多くの小売業は利益率が低く、新しい投資に割り当てる原資を大胆に確保するのが難しいと考えられます。

 現在、さまざまなところでデジタル化が進んでいますが、予算の問題がネックになり、全社最適化に向けたDXの実現を推進できている小売業は少ないのが現実です。

 そこで提案したいのが、すでに一部の小売業が取り組んでいる「DXのノウハウの外販」です。こうした目標設定があれば、先行投資も進むのではないでしょうか。外販事業は先行者が有利なものであり、そのために目標達成のスピードを加速できる解決策を、LINEは提供できると考えています。