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小売DXの伝道師、LINE比企氏が語る アプリ開発・活用の最前線【前編】

コロナ禍で小売業界では、販促事業のみならず顧客とのコミュニケーションのあり方が大きく変化している。そうしたなか、LINE(東京都)が、自社のAPI(※)提供による、小売業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を加速させている。今や生活に欠かせないコミュニケーションツールとなった「LINE」を活用すると、小売業にはどのような可能性が広がるのか。同社のTechnical Evangelismチームマネージャーで、小売業のDXをLINE API観点から支援している比企宏之氏へのインタビューを全2回にわたってお届けする。 聞き手=大宮弓絵(本誌)、構成=兵藤雄之

※API=アプリケーションプログラミングインターフェース。組織や個人で持っている「データ」「アルゴリズム」「サービス」を、外部の他のプログラムから呼び出して利用できるように、手順やデータ形式などを定めた規約。これを活用することで利用者は、ソフトウェアサービスの提供において、すべての機能をゼロからすべて自社で開発する必要がなくなる

カスミ「BLANDE」に見た
国内小売DXの進化

――LINEといえば、日常生活で欠かせないコミュニケーションツールになっています。比企さんが率いているTechnical Evangelismチームとは、どのような組織なのでしょうか。
比企 LINEでは、LINE公式アカウントやLINEミニアプリなどで提供している数々の機能を、各社でも活用していただけるように「LINE API」を公開しています。Technical Evangelismチームは、アプリ開発者の方々にその利用を働きかけていく部門になります。
 LINEの月間アクティブユーザー数は9200万人まで拡大しています(2022年3月末時点)。すでに多くの人が使っているLINEを、サービス利用のきっかけに活用することで、今までのアプリ開発よりもより手軽に、利用ユーザーの拡大に貢献できます。

――食品スーパーをはじめとした食品小売各社の消費者とのコミュニケーションについて、ここ最近ではどのように変わってきていると感じていますか。
比企 ウォルマート(Walmart)やクローガー(Kroger)では、すでに自分たちの店舗をメディアとして活用する取り組んでおり、日本企業でもトライアルカンパニー(福岡県)やツルハ(北海道)などさまざまな企業さまが店舗のメディア化を進められています。
 小売企業各社が「リテールメディア化」を図る場合、2つの方向性があると思っています。1つは不特定多数から取得した購買データをメーカーなどに販売するケース。もう1つは、顧客とのタッチポイントを増やし、One to Oneで向き合い、顧客情報の解像度を上げ、商品・サービスをブラッシュアップするというケースです。

 最近までは、国内の店舗のデジタル化は、店内にセンサーをつけたり、サイネージで情報を流したりという、不特定多数の来店客に向けた施策にとどまっていると考えていました。しかし、カスミ(茨城県)が茨城県つくば市に開業した新業態「BLANDE」の2号店には驚きました。いち利用者としての目線ですが、ぱっと見た限り店内に設置されたセンサーは少なく、もし多くのセンサーがあったのだとしても、利用者に意識されないような形で設置されていました。

 またセンサーに頼るのではなく、自社アプリからの能動的な顧客への働きかけによりデータを取得し、アプリをコアにした顧客とのOne to Oneの関係構築を体現されていました。

 その他にもアプリ決済後、セルフレジと共通ゲートでの処理を可能にしていたり、「BLANDE Prime会員」専用の施設利用・サービスとの連携もできたりと、店舗とアプリが融合した店づくりとなっており、今後のOMO(オンラインとオフラインの融合)型店舗の見本となる存在だと思いました (視察は2022年4月に実施)。

 

カスミの新業態「BLANDE」2号店である、「BLANDE研究学園店」では、OMO型店舗の見本となるようなさまざまな施策が見られる

マイクロソフトと共同で
国内OMOを推進する!

――LINEは21年11月、日本マイクロソフト(東京都)と共同で、小売業界のDX支援を目的としたプロジェクトを開始しました。
比企 昨年11月からは、これまでの活動に加えて、LINEを活用した小売業のOMO実現を目的とし、その好事例をつくるべく、一歩踏み込んだプロジェクトも始めています。
 このプロジェクトは、LINEのAPIと、マイクロソフトのクラウドサービス「Microsoft Azure」を掛け合わせた小売業界向けソリューションの開発および導入をワンストップで推進するものです。これにより国内のOMOを推進し、小売における“フリクションレス・プライスレス・ボーダレス”な顧客体験の実現をめざしています。

――どのようなOMOの実現をめざすのでしょうか。
比企 OMOによる顧客体験を言葉だけで説明するのは難しいものがあります。そこで実際の体験をイメージできるように、当社のAPI情報サイト「LINE API UseCase」において、顧客の「来店前⇒来店告知⇒購買⇒来店後」の一連の流れをデモ体験できる仕組みを用意しました。

 パソコンとスマホを連動させてOMO体験ができるデモで、LINEアカウントをお持ちの方でしたら、パソコン画面から「LINE API UseCase」サイトに表示されている二次元バーコードを読み込んでいただければすぐに体験していただくことができます。

LINE上でスマホレジ
自社ECでの買物も可能

――提供するデモ体験について具体的に教えてください。
比企 まずパソコン画面に表示された二次元バーコードをLINEから読み込むと、パソコン画面がデモに切り替わります。
そこで、まず買い物する場所を、「店舗」または「EC」から選びます。「店舗」を選ぶと、店舗に到着した想定で、スマホ上で自動的にチェックイン登録が行われます。

 次に、スマホ上に表示された「店内行動連携を許可する」という案内に許可すると、スマホレジ(スマートフォンを店舗のレジ代わりとして利用する仕組み)が連携されます。商品棚のシーンでは、購入可能な商品がパソコン画面に登場するので、買いたい商品の画像をスマホレジで読み込むと、買物カゴに入ります。最後に、購入商品の決済をしてデモ体験は終了です。

 他にもデモにはシナリオがあり、もし商品が品切れだった場合には、LINE上で「EC購入」という選択肢が提示されます。希望すればその場で注文することができ、別途自宅に届けてもらえるサービスを擬似的に体験できます。また、予約システムと連携してあらかじめ店内の休憩スペースの席を確保するといった機能もデモで体験できるようになっています。

「LINE API UseCase」サイトのデモ画面

――私も体験させてもらいましたが、とても実際の利用に近い感覚で体験できますね。
比企 このデモでは、OMOをよりリアルに体験をしていただけるよう、LINE上だけのデモではなく、スマホレジをはじめ、裏側では実際のプログラムを走らせるといった工夫をしています。この体験をきっかけに事業に関係するみなさまが目線を合わせて、建設的な議論に進むことができるのもこのデモの強みの1つです。

――そうなんですね。このデモを体験された方たちの反応はいかがでしょうか。
比企 非常に好評で、LINEと自社の店舗・ECサービスを連携させてここまでのサービスが提供できることに驚かれます。小売事業者の上位役職者の方たちのなかにも、「もはや時間とコストをかけて自社アプリを開発しなくてもいいかもしれない」という声もいただきました。
このデモ体験で公開している技術はすでに2020年には実現できていたのですが、より多くの方に体型的に幅広く体験していただくことを目的に、「LINE API UseCase」に公開してよかったと感じています。

 ご存知ない方がまだ多いかもしれませんが、 LINE公式アカウントやLINEミニアプリを利用することで、今まで以上にさまざまなサービスをユーザーへ手軽に提供できるようになっているのです。
たとえば、キャンペーン案内やクーポンの配布といった、リアルタイム性の高い通知の配信や、セルフレジを自前で導入しなくとも、LINEのAPI経由でスマホレジによる決済が実現できるのだということを実感していただければと思っています。いずれはスマホレジやレジカート連携だけでなく、レジなしの無人店舗との連携も増えてくるでしょう。