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生鮮強化で“大化け”したトライアルカンパニーが日本の小売を席巻するワケ

トライアル大

これまでのイメージを一変させる売場の光景

 売場のトップの青果は彩り豊かな旬の野菜と果物が整然と、かつ量感をもたせて陳列されており、さながら有力SMのモデル店舗のような風景。その奥の精肉、鮮魚の鮮度も高く、ブランド肉や近海魚が豊富に並んでいる。総菜は、おにぎり、弁当、揚げ物、インストアベーカリーの焼き立てパンやピザなど、いずれも品揃え豊富で出来栄えもよい──。

 食品スーパー(SM)の繁盛店のような活気あるこの光景が、トライアルのスーパーセンター(SuC)の店舗で見られるようになっている……と言えば、驚く人もいるのではないだろうか。

 トライアルといえば、圧倒的な安さと、SuCならではの一般食品や酒類、日用雑貨から家電まで揃う非食品の品揃えの豊富さにスポットが当たることが、今までは多かった。加えて昨今はAI活用をはじめとするデジタル領域の取り組みから「IT小売」としてのイメージも強いだろう。

 その半面、生鮮食品や総菜の商品力にフォーカスが当てられることは少なかった。「価格は安いが鮮度や品揃えには課題が多い」という印象を持つ業界関係者も少なくないのではないか。しかし、そうした固定観念を大きく覆すような店舗が徐々に増えているのである。

売上高は6000億円目前!知られざる事業規模の大きさ

 現在トライアルは、北は北海道から南は鹿児島県まで、全国に約270店舗を展開する。売場面積1500坪前後を標準とするSuCのほか、2000坪超の大型フォーマットである「メガセンター」、小型フォーマットの「smart(スマート)」など複数のフォーマットを使い分けながら、ドミナント戦略を推進している。これによって各エリアでのマーケットシェアを高める、というのがトライアルのKPI (重要業績評価指標)の1つとなっているようだ。

 こうした経営戦略が奏功し、ここ数年、売上は右肩上がりで伸長を続けている。“コロナ特需”の恩恵も受け、2022年6月期の売上高は5975億円(トライアルカンパニーの流通小売事業の売上高:速報値)に上る。非上場企業のためその経営規模の大きさが取り沙汰されることは少ないが、6000億円に迫る売上を上げているのである。しかも、毎年数百億円規模で売上を積み増しているという事実も、あまり知られていないかもしれない。

「生鮮改革」はどのように進められたか

これまでも強みとしてきた「安さ」はそのままに、トライアルの生鮮や総菜の鮮度・品質・品揃えが大きく進化している

 一方で、トライアルが長年課題としていたのが、総菜を含む生鮮の商品力であった。価格競争力を高めることを最優先にした結果、調達や加工技術、鮮度管理など専門性が求められる生鮮のテコ入れまでは手が回っていなかったのだ。

 しかしそうした課題は社内で重く認識されており、水面下で虎視眈々と“改革”に向けた準備が進んでいった。まずは、外部からノウハウや知見を持つ人材を積極的に登用。商品開発や、川上までさかのぼっての調達網拡大などのほか、店舗従業員の技術力の維持・向上を図るためのEラーニングの導入、実践形式の講習なども行っていった。その結果、売場に並ぶ生鮮3品の品質と品揃えが徐々に改良されていったのだ。

 また、総菜についてはトライアルグループ傘下の明治屋(福岡県/大塚長務社長)が主体となって「総菜強化戦略」を展開している。有名料理店で修業経験を持つプロの料理人がメニューを考案し、それをセントラルキッチンや店舗で効率的・安定的に製造できるよう専門部隊がレシピを“再設計”するという独自手法で品質向上を推進。「三元豚のロースかつ重」(税込299円)の大ヒットを端緒に、価格と品質の両方を追求した商品がお客に徐々に受け入れられ、今ではそれ単体が来店目的になるほどの人気商品が続々生まれている。

 このように、トライアルの生鮮にまつわる変化は突如起こったわけではなく、これまでの地道な取り組みが結実したものである。売場の“見た目”を変えることを急ぐのではなく、それを実現するための組織づくりや仕組みづくりから、試行錯誤しながら手を入れていったのだ。その過程では、失敗を恐れることなくPDCAサイクルを回し、ときには「合宿」も行いながらビジョンの具現化を進めるという、トライアルならではの“社風”が支えたところも大きい。

日本の小売を変える「リテールDX」戦略

 トライアルの変化を促した背景にはもう1つ、多くの人が知る、AI 活用をはじめとしたデジタル領域での取り組みが挙げられる。

 お客が商品を自らスキャンし、専用レーンを通過するだけで決済が完了する「スマートショッピングカート」、売場天井部に備え付けたカメラでお客や商品の動きを把握しAIを用いて分析する「リテールAIカメラ」、メーカーと協働で効果的な商品提案を行う「デジタルサイネージ」、そしてそれらのデバイスをフル導入し新たなリアル店舗のかたちを描いた「スマートストア」──。これらはマスメディアでも頻繁に取り上げられ、トライアル=デジタル先進小売企業というイメージを多くの人に植え付けた。

 しかしトライアルがこうしたデバイスや仕組みでねらうのは、単に自社の店舗をデジタル化・効率化するということではない。「リテールDX(デジタル・トランスフォーメーション)」の名のもと、ITの力で日本の小売を変える、という壮大なビジョンを持って動いているのだ。

 その一環として、福岡市と北九州市のちょうど中間にあたる福岡県宮若市で、産官学連携型プロジェクト「リモートワークタウン ムスブ宮若」を推進。同市内の廃校や閉館した商業施設をそのまま活用し、AI、IoT関連の研究開発施設、その実証実験の場としてのリアル店舗を展開している。

 この地にはトライアルの関係者のみならず、取引先のメーカー、卸の社員なども定期的に滞在し、トライアルとともにAIを活用した最適なプロモーションや棚割りなどについて日夜議論を行っている。

 トライアルはムスブ宮若について「日本のシリコンバレー」を標榜するが、まさにかの地のごとく、目立った産業や観光名所に乏しく過疎化が進む宮若で、さまざまな企業からさまざまな職種、専門性を持つ人材が集結し、新たな流通革命を起こそうというわけだ。

 ここで得られた知見はそのまま売場に反映される。深い顧客理解をベースとした棚割りや品揃えが実現され、それもトライアルの“変化”に寄与しているのである。

誰にもマネできない“トライアルという業態”の威力

 今後トライアルは新規出店と既存店の大型改装により、最新MDを導入したスマートストアを加速度的に増やしていく計画だ。ディスカウンターとしての安さと、SuCとしての非食品をはじめとした圧倒的な品揃えはそのままに、生鮮・総菜はSMレベルの鮮度、品揃えで展開、そしてスマートストアならではの斬新かつ利便性の高い買物体験を提供する──。

 つまり従来のSuCとしての強みに、「生鮮強化」「リテールDX」という2つの軸が加わったことで、トライアルにしか表現できない店舗、あるいは業態が確立されたといってもいいだろう。

 “トライアルという業態”が今後市場を席巻していくとなれば、SM、GMS、ドラッグストア、ホームセンター、家電量販店など、あらゆる業態が影響を受けることになる。

 にもかかわらず、業界関係者のトライアルに対する警戒レベルはいまだ高いとはいえない。旧来のトライアルのイメージのまま、売場も商品も見ることなく、彼らの“変化”に気づかないままでは、遠くない将来、予期せぬ影響を受ける可能性もある。

 本特集では、トライアルの変化を商品、店舗、リテールDXという大きく3つの軸で深く考察した。これを契機に、ぜひトライアルの“爆発力”を体感していただき、早期の対策につなげてほしい。

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