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商社の脱OEM戦略がことごとく失敗する理由と商社3.0の新たなビジネスモデルはこれだ!

さて、新産業論もこれで三回目となった。繊維産業は戦前戦後、日本の基幹産業であり、「日本株式会社」として企業が産業編成され、商社は資源国から資源を輸入、日本で加工品をつくって商社が輸出をしながら世界から外貨を稼ぎまくってきた歴史を解説した。そして、その最大の競争力の源泉は、「円安」にあったのだ。それから40年ほどだったいま再び円安で国内は大騒ぎとなっている。だが、円が安いのは外貨を稼ぐ最大のチャンスである。なぜなら、ものづくりが産業の10%以下になった米国とは別に、まだまだ日本は製造業が多いからだ。確かに輸入品の値段は上がる。しかし、そこに付加価値を加えて再輸出すれば、円安が相殺してくれる。円安は日本が外貨を稼ぐ、もっとも有利なレートなのである。今回はそのことを踏まえたうえで、商社がこれから成功するための戦略を提示したい。

ウォーレン・バフェットも注目する“Sogo Shosha

ablokhin/istock

 1980-90年、円安の時代。勤勉な日本人のものづくり技術も相まって、日本製品は世界で売れまくった。「安ものの低品質」というレッテルはいつの間にか消え、TQCTQM (いずれも日本で編み出された、現場の改善手法) など、日本の製造業が採用したKAIZENは英語となり世界に広まった。また、その手法はより洗練された形で、シックスシグマ(エラーが100万回の中で4-5回という、信じられないような品質)を実現した。
 こうした世界に誇る高品質な製品を世界に売ったのが商社だった。総合商社という業態は、あらゆる産業を取り扱い、「日本の産業ポートフォリオそのもの」だった。しかし、こうした国家戦略は世界の投資家から「コングロマリットディスカウント」といって、絞り込みができていないと評価され、PBR (株価純資産倍率)1倍を超えたことがない(余談ながら、1以下ということは、営業をやめて解散した方が株主にとってよいという意味になる)。

 日本のこうした産業政策をマクロから俯瞰すると同時に、商社の立ち位置の意味合いをみなければ、その存在意義は理解できないだろう。
 なお、パークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェットCEOがコロナ禍に商社株を保有していることを公表し、21年度に2000億円もの含み益をだしたことは意外に知られていない。

商社マンの高年収が商社自身の存在を脅かす理由

MinnaRossi/istock

 「昔軍隊、今商社マン」「人工衛星からカップラーメンまで」「買う前に売れ、売る前に買うから企業は倒産する」「在庫は悪だ。企業は在庫で倒産する」

 このように当時の商社を表す言葉、商社用語は山のようにあり、その神秘的響きと当時のサラリーマンの中では別格の高い年収から、優秀な学生の就職先トップランキングに常に名を連ねていた。今でも、私のビジネスの原点は、この商社イズムが根底にある。

 しかし、その商社マンの高年収こそ、商社自身の存在を脅かすものだった。なぜなら、中間流通として、製造業と小売業の間に入り、海外から製品を輸入し日本の小売企業に売る、あるいは、日本の製造業の製品を世界の小売業に売って、人件費に見合った利益を上げるには一定の物量が必要だからだ。例えば、一時は8000億円まで売上があった、イトマン (私が新卒で入社した会社) では、一人あたり営業マンの利益は6000万円がブレークイーブンといわれてきた。

  衣料品の単価は、1990年の約6800円をピークに、現在では約3200円にまで下がっている(出典:環境省サステイナブルファッションホームページ)。そうなると、仮に売上の20%を商社がマージンとして抜いたとしても、1枚あたり600円に過ぎないから、商社の事業を成立させるためには、年間10万枚の商品をさばかねばならない。大手であれば、さらに損益分岐点は上がるだろう。

  考えてもらいたい、アパレルはQR(クイックレスポンス)一神教で、計画値が3000枚でも、1000枚を3回にわけて小刻みに投入する。この旧来からあるリテールテクノロジーは、アパレルSPA(製造小売)にはそぐわないにも関わらず、こうした産業別の特性を理解せず、牛乳や加工食品の仕入と服のSPAの仕入を同じテーブルで考えるから、“消費が荒れ”て損失の山になるのだ。

 いまではワールドやアダストリアが元商社マンを生産部に採用している。それによって、商社の隠し口銭のカラクリがすべて明らかされたため、商社はマージンとして20%も抜けなくなってしまい、とうとう、国内は3%、海外は10%で優等生という具合になった。

 余談ながら、あの大手アパレルの通し口銭は1.5%といわれている。つまり、一人で20万枚。3人でチームを組めば60万枚〜100万枚の物量を扱わなければ、商社の高額な人件費をまかなうことができなくなったのだ。

 そこで商社は、アパレル企業のOEMを担う、「オペ専」(オペレーション専門)と呼ばれる、人件費の安いパートやバイトなどを採用した固定費の低い子会社を山のようにつくった。「オペ専」に業務をやらせて、成果報酬型を採用することでインセンティブを保つ一方で、商社マンは生産性を上げるためにM&A(合併・買収)やリテール強化、デジタル戦略などに資源を振り切っていったのである。

 こうしたサブコン(下請け)化は、流通だけでなく、工場にもおきていた。商社もマーケットからの強いコストプレッシャーにより、工場に強烈なコスト削減を押しつけ、ついには工場もサブコン化を進めたのである。こうしたサプライチェーンの「コンプレキシティ」(複雑化)は、ユニクロをはじめとする、ZARAH&Mなど大手企業の「規模の経済」による低下価格化の影響である。

 まさに、先日行われた有識者会議に出席したとき、この世界のアパレルによる「規模の経済」のコストの圧倒的な低下が引き起こす競争力強化という名のコストプレッシャーが、途上国の縫製工場をいじめている(ラナプラザ倒壊事件)のだという議論があった。
 日本のせいぜい100億円規模の中間価格帯アパレルが、ブレークイーブンを下回る値引きをせざるを得ない状況などを、多くの識者が理解していないことに驚いた。今、経済と競争を無視して環境問題は語れないのに、彼らは、経済と環境破壊に全く無知でありながら、理想論を議論している。

 環境問題だけにフォーカスしても、それは絵に描いた餅だ。こうしたエコノミクスと離れて、空想の世界で理想論を語ってもダメだと言うことを理解してもらいたい。私たちはキャピタリズムの世界で生きているのだ。

OEMの次をさぐる商社

 一方で、いわゆる専門商社は、高額な年収を下げながらも、自ら「オペ専」業務をハンズオンでやり切り、高い専門性は本社に残るものの、現実として全く儲からないビジネスとなっていった。

 この時点で、商社は、「OEMの次の柱」を見つけようと必死になった。大阪のヤギや伊藤忠商事、三井物産はブランド・ビジネスに活路を見いだし、瀧定は素材ビジネスに、そして財閥系商社は、他のポートフォリオと比べて不釣り合いということで、繊維事業のカーヴアウト(本体から切り離すこと)を進めていった。豊島、日鉄物産などは、アパレルとの垂直統合を進め、唯一残った財閥系三菱商事の子会社は、THE ME など、川上の強みをいかした工場との連携をいかした完全バイオーダーリテールを神宮前にオープンし再起をかけている。

 いずれにせよ、すべての商社は、PLM (商社機能を自動化する海外パッケージ)が日本中に広がり、多くのアパレルがPLMを導入して商社外しが猛烈な勢いで進みむなかで、【輸出】から【輸入】へと貿易実務をひっくり返しただけで、その次がみえず、戦略がフリーズしてしまっているわけだ。

 商社2.0は投資業務

metamorworks/istock

 そんな折、私は10年前に拙著「ブランドで競争する技術」で、「商社は投資業務に軸足を移せ」「トレードに入っても産業は復活しない」と提言した。当時、この発想を受け入れてくれたのは財閥系某商社だけで、その他は「実感がもてない」と完全無視を決め込んだ。

 しかし、今、コロナのせいもあるが、アパレルが商社外しを行ったせいで、アパレルの資金繰りが極めて変則的な動きをしはじめている。つまり、利益がでても資金が回らないという企業が増えているのだ。
 さらに、あやまったQR (素材も含めた生産リードタイムを短くすること)が蔓延しているなかで、素材を備蓄し「縫製リードタイムを短くする」という世界基準のMDを採用したアパレルにとっては、さらに資金調達は複雑になった。多くのアパレルが、「およそ商品回転率は2.6回だから、、、」とどんぶり勘定で資金調達を行い、パンデミックが起きてと即死するということが起きている。

 

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 さらに、極めつけはデジタル化だ。サプライチェーン・マネジメントの目指すべき姿は、「全体最適」であり、ものづくりから生産、調達から店頭までの一連の流れを最適にデザインすることなのだ。したがって、極論をいえばPLMは日本で一つあればよい。実際、自動車のフォルクスワーゲンは、PLMをクラウドに上げ、数万という部品メーカが一つのPLMを動かしている。アパレル産業では、スマイルカーブといって、川上か川下が利益を持ち、中間流通の利益が少なくなる言葉があるが、これではいけないのだ。チェーン全体が等しくリスクとプロフィットを共有し、コストも工程管理も透明性を担保せねばならない。ファーストリテイリングは、このあたりを徹底しており、自社がつないだ為替を商社に買わせるなど、商社が抜けないように徹底しているのだ。

 商社3.0は、デジタル化によるインキュベーションと海外進出支援

 会議室で、唸りながら議論するから先が見えない。自分達の顧客であるアパレルに何を求めているのか、聞けばよい。マーケットインなどと人に求め自分達がプロダクトアウトになっていることに気づいて頂きたい。

 今、アパレルが最も求めているのは、恐竜の卵である「リトルモンスターアパレル」の孵化と経営支援、人、金、ノウハウの注入であり、固定費の高い商社のノウハウをアパレルに結合し、巨大な商社を流通から外すことである。同時に、中小アパレルに代わりデジタル投資を行い、世界の多くの素材メーカーや供給業者を統合してバリューチェーンの垂直統合を行うことだ。私が提唱すりデジタルSPAなのだ。

 大手アパレルが喉から手が出るほどやりたいのは、成長著しい東南アジア、中国富裕層へのアクセスだ。このように、自分が何ができるのか、ではなく、アパレルは何を求めているのか、何をすれば日本の産業界は盛り上がるのか、とデマンド型に考えを180度転換し、商社3.0を考えるべきなのだ。

  若手、商社マンに告ぐ。君たちはまだ若い。私のような一介の繊維商社の営業マンが、30代半ばでコンサルタントに転身し、50社のアパレル企業の立て直しに成功したのは、本気で仕事と向き合い、やりきってきたからだ。変わりたくない人には何をいっても変わらない。変わらない人を、陰であれこれいっても何も変わらない。私はもう年齢的に次のアパレル産業復活の世界をみることはできないだろうが、君たちが産業を守らねば、日本からアパレル産業は消えてゆき、全て外資になるだろう。

 それも、また悪いことではないが、君たちは勝ち馬に乗るような小賢しい人間なのか。商社マンは今の日本をつくり、今の日本をダメにした。今、君たちに必要なことは他責を捨て、商社マンとしてのでかい視野をもち、産業をアジアに、そして世界に広げることだ。まずは、自分自身が、何ができるのかを考えてもらいたい。最後に、私が学生時代、就職活動中に財閥系商社の先輩から言われた言葉をもって、3回にわたった新産業論の〆としたい。

 商社とは、電話と人しかない会社だ。つまり、電話と人で、できることは何をやっても良いといえる。できないのは、本人にやる気が無いからだ。商社不要論など○○食らえだ。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。 現在は、プライベート・エクイティファンド The Longreach groupのマネジメント・アドバイザ、IFIビジネススクールの講師を務める。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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