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アパレル業界に迫るサステナブル対応 競合関係のワールドとTSIがコラボをする理由

全世界でSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みが急速に進む中、アパレル業界で大きな課題となっているのが、余剰在庫とサステナブルファッションへの対応である。そんな中、大手アパレルメーカーのワールド(兵庫県/鈴木信輝社長)とTSI(東京都/下地毅社長)がタッグを組み、サステナブルファッションを打ち出した大規模コラボキャンペーンを実施した。競合関係にある2社が、なぜいま、手を取り合うことを決めたのか。コラボキャンペーンを通して消費者に何を伝えようとしたのか。キャンペーンを担当した、ワールドのグループ会社 フィールズインターナショナル 店舗営業部の荒川正敏部長と TSIの店舗開発部 3店舗開発課の青木拓也課長に話を聞いた。

環境に配慮したサステナブル素材のファッションを知ってもらう

フィールズインターナショナル 店舗営業部の荒川正敏部長

 「Together with Earth ~地球と一緒にいきていく」をテーマに、この春、全国の大丸松坂屋百貨店9館で初のコラボキャンペーンを開催したワールドとTSI

 キャンペーンの目的は、百貨店に足を運ぶ消費者にSDGsに対する両社の取り組みを知ってもらうことだ。各ブランドではすでに環境に配慮したサステナブル素材を使ったラインナップを取り揃えてはいるが、まだまだメーカー側の想いや取り組みを十分に消費者に伝えきれていないのが現状だ。

 ワールドのグループ会社 フィールズインターナショナル 店舗営業部の荒川正敏部長は「我々アパレルはもちろん、百貨店さまにとっても『SDGs』は最も関心が高いテーマ。このテーマに向けて2社で取り組むことで、お客さまにアプローチをしたかった」と話す。両社ともに、他社とのこのような取り組みは初だったという。

 今回のキャンペーンでは、各ブランドですでに販売しているサステナブル素材を使用した商品に焦点を当て、「Together with Earth」の共通オリジナルタグを付けてクローズアップし、サステナブルなファッションであることをPRした。

 サステナブルな素材とは、ペットボトルから作られた糸でできた素材や土に還る天然素材の生地など。そのほか生地に抗菌加工をすることで水洗いの回数を削減するなど、さまざまな工夫が施されている。

 ワールド側からは「アンタイトル」「インディヴィ」「リフレクト」など10ブランド、TSI側からは「ヒューマンウーマン」「ボッシュ」「アドーア」など11ブランドが参加し、サステナブル素材を使った2022年春夏シーズンの商品を打ち出した。

 消費者からの反響を尋ねると、「購入いただいたお客さまからは、SDGsに対応した商品を買ったことで自分もSDGsに参加できたという実感がある、という声を多くいただいた」と、TSI店舗開発部 3店舗開発課の青木拓也課長。ノベルティとして配った天然竹のカトラリーセットもテーマと合致していることから大変好評だったという。

 一方で、「漠然としていてよくわからない」という声や、「SDGs対応商品だから購入したわけでなく、買ったものがたまたま対象商品だっただけ」という声もあったのはたしかだ。「キャンペーンの意味をお客さまにもっともっと伝えることができるよう、今後はさらに伝え方を工夫していく必要があると考えている」(TSI 青木課長)

 日頃は競合関係にある2社が、今回初となるサステナブルキャンペーンで手を取り合った。その最大の成果について、青木課長は「TSI内でも、ワールド内でも、環境に配慮したサステナブル商品の展開をもっと強力に推し進めなければならないという考え方が格段に強くなったこと」だと言う。

「サステナブル素材」「リメイク品」「衣料品回収キャンペーン」で集客に成功

大丸京都店1Fのキャンペーンスペース

 競合関係にある2社で行うことで、百貨店の中の良いスペースをもらえたことも1つの成果だったという。大丸京都店では、正面入り口前のイベントコーナーを提供してもらった。これを生かさない手はないと、余剰在庫を蘇らせる両社のリメイク商品を展示、販売することを決めた。

TSIヒューマンウーマンのアップサイクル商品

 このリメイク商品は(TSIの商品名はアップサイクル商品)、売れ残った商品を複数ドッキングさせることで、元の1着とは異なるこの世に1つしか存在しない商品へと生まれ変わらせたもの。とくに高価格帯ブランドの商品を組み合わせて新たな商品にする場合は、その高級感から非常に希少な商品としての価値が生まれる。もの珍しさもあってか、客からの反響は上々だった。

 「まだ知名度が低いものの、売場に入ってきたお客さまのほとんどが手に取って見てくださった。リメイク商品の価値観は間違いなく受け入れられるのだという手応えを感じることができた」(フィールズインターナショナル 荒川部長)

 もう一つ、従来から百貨店にとっての集客の柱となっているのが「衣料品回収キャンペーン」だ。ワールド、TSI両社も独自に期間を定めて行っているが、各社とも実施回数を重ねるごとに認知され、持ち込まれる洋服の量も確実に増えているという。

 「ワールドでは衣料品引き取りキャンペーンを2009年から行っているが、ここ45年でお客さまの声は大きく変化し、『大切な服を捨てないで良かった』とサステナブルな意識が高まっている。『廃棄ゼロ』に関しても同様に企業姿勢が問われている」(フィールズインターナショナル 荒川部長)

 「サステナブル素材」、京都店での「リメイク商品」に加えて、百貨店の人気イベントである「衣料品リサイクル」の3つを今回のキャンペーンに組み込み、アパレルメーカー2社と百貨店が企業の枠を超えてサステナブルな取組みを提案することになった。

 予算を検討する際には、「SDGsを打ち出す初の取り組みなので」という前提で控えめに設定していた。ところが、キャンペーン期間に京都と梅田の2店舗で「自分に合う服を買う、無駄なものは買わない」をテーマに骨格診断を絡めて実施したことも功を奏し、前年比200%で着地し、目標としていた前年比130%を大幅に上回る結果を残した。

百貨店の売場を盛り上げるために、1社ではなく2社の力でできることを

大丸東京店のキャンペーンスペース

 そもそも今回の企画の発端は、202111月に「今後の百貨店における商売の在り方」について両社で協議したことがきっかけである。過去から情報交換の場をもつ関係にあり、ワールドの縫製工場をTSIが引き継いだり、関東エリアでは配送業務を共同で行っていたという経緯もあり、「百貨店の売場を両社で盛り上げるために、1社では不可能だが2社合同でならできることはないか」と模索していた。

 両社には「百貨店に足を運ぶ消費者にSDGsに対する両社の取り組みを知ってもらいたい」との共通認識があったことから、今回のコラボキャンペーンの話がまとまった。

 頭を悩ませたのが、どの百貨店グループと組むかという問題だ。SDGsやサステナブル商品について広くPRしていくために、複数の百貨店で開催すべきか、それとも地場に強い百貨店にするかなどさまざま検討した。結局、両社のブランドが数多く入る百貨店の中で経営目標の最上位にSDGs対応を掲げている大丸松坂屋百貨店がキャンペーン内容に合致するという結論に至った。

 そこで大丸松坂屋百貨店にアプローチしたところ、課題認識の方向性が一緒であること、ファッションブランドの競合2社が手を組むインパクトの大きさを評価されすぐに実施が決まった。

 2社共同での企画、運営体制となったが、キャンペーン担当者から広報までもともと交流が深かったことから、「非常にスムーズで、同じ会社かのように進んだ」(TSI 青木課長)という。

 秋に再び、今回の内容より進化させた形でキャンペーンの実施を予定している。「今後はアップサイクルに加えてドネーション企画、また対象商品もファッションから広げ、アパレル以外で打ち出せるものがないかも議論し、売場での楽しさも演出していければと考えている。今回の取組みをご覧になられた他のディベロッパーさまにも興味を持っていただいており、可能性は広がっている」(フィールズインターナショナル 荒川部長)

若い世代の心をつかみ、サステナブルなファッションメーカーを目指す

TSI店舗開発部 第3店舗開発課の青木拓也課長

 アパレル業界において、SDGsにいかに対応するか、その取り組みを消費者にどう訴えていくかは大きな経営課題である。

 「経営におけるSDGs対応の緊急度は、昨年度より確実に高まっている。世の中の流れに乗り遅れないよう、スピード感のある取り組みがこれまで以上に必要になってくると考えている」(TSI 青木課長)

 「ワールドもSDGs対応に強い危機感を感じている。アパレル業界はサプライチェーンが見えにくく一筋縄にはいかないが、協力会社さん含めチェック機能を高めて対応していかなくてはならない。今やらなければ、百貨店からの信頼だけでなく、若い世代からファッションそのものがださいものだと認識されてしまう可能性すらあると思っている」(フィールズインターナショナル 荒川部長)

 実際、百貨店業界では現在、SDGsに対応できない企業とは取引しないという流れになっているという。アパレル企業としても、先送りが許されない状況にあるのだ。

 さらに今回のコラボキャンペーンを通して、若い世代ほどSDGsへの関心が高いことも浮き彫りとなった。若者にいかにファッションに対する良いイメージをもってもらうか、信頼されるメーカー、ブランドになれるかが、アパレル業界の未来を左右する重要な鍵を握るともいえる。

 「今後は若い世代がターゲットのブランドを集めるなど、若者に向けてSDGsへのこだわりを伝える取り組みを強化していきたい」(TSI 青木課長)