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百貨店ビジネスを再生できるか、髙島屋が人員2割削減へ

髙島屋(大阪府/村田善郎社長)が4月11日に公表した2022年2月期連結決算は、売上高が対前期比11.8%増/前期から312億円増の7611億円、営業利益が41億円(前期は134億円の営業赤字)、当期純利益が53億円(前期は339億円の当期純損失)だった。

コスト構造改革で黒字を確保

 新型コロナウイルス感染症は、前年度に引き続き消費行動やマインドにネガティブな影響を与え続けた。緊急事態宣言やまん延防止措置発令に伴う営業活動自粛要請も、百貨店の販売動向にはネガティブファクターだ。ただし、最悪期はようやく抜け出しつつある。マンボウが解除された年末年始時期などは、久しぶりに百貨店にもにぎわいが戻った。

 なかなか客足が戻らない中、2022年3月期の髙島屋は、アフターコロナの顧客ニーズ変化を見据え、品揃え強化や営業体制強化を推進した。ただ、販売活動が制約された影響で、店舗面積拡張・売り場開発や顧客の囲い込みといった派手な施策はとれない。シンガポール・ホーチミンといった海外店舗も、休業などに追い込まれ身動きが取れない状況だった。

 売上が伸びない以上、赤字を解消するには販管費を切り詰めるしかない。高島屋も組織体制の見直し、外部委託業務の取り込みといったコスト構造改革を進め、収益の確保に努め、なんとか黒字を確保した格好だ。

今期は売上回復もコロナ前の水準は遠く

 23年3月期の連結業績予想では、売上高が4315億円、営業利益が同325.7%/前期から133億円増の175億円、当期純利益が同86.6%増/同46億円増の100億円を計画する。

 なお23年2月期は、「収益認識に関する会計基準」を適用する影響で、売上高は大きく目減りし、かつ前期との単純比較ができない。変更影響を除いた場合の売上高は同9.2%増の8315億円となる見通しだ。かなりの売上回復が見込まれるが、コロナ禍前の19年2月期売上高(9128億円)の9割相当にとどまる。

 売上高以上に収益性の回復は遅れる見通しで、営業利益は19年2月期実績(266億円)に対し、4割を切る。つまり髙島屋は、成長面および収益性の両面において、今期もまだまだ回復途上といっていい。

 同社は23年3月期の経営目標として、百貨店の収益構造の変革とグループ利益の最大化を掲げる。具体的な柱は以下の3つだ。

① 国内百貨店の経費及び営業体制改革
 原油・資源・物流費などの高騰によるコストアップ分を、大型店を中心とした販管費大幅見直しにより、吸収する。

② 百貨店以外の事業基盤構築(商業施設開発・金融・海外展開)と収益への寄与
 とくに海外各店舗に関しては、コロナ影響の緩和や観光客の回復などにより大幅増収が期待できる。海外事業の営業利益は約50億円の見通し。

③ ESGの推進(社会課題解決と成長性の双方を確保)
 脱炭素化(LED・再エネ転換)を持続的に推進できるビジネス体制の構築、ダイバーシティ(女性・外国人活躍)と事業成長の連動を実現する。

2023年度営業利益300億円の道筋は

 髙島屋は21年度を初年度とする3カ年計画において、売上高8500億円、営業利益300億円を目標に掲げている。売上高は別として、営業利益はコロナ禍前を上回る計画だ。インバウンドがいつ戻るかもはっきりせず、売上の完全な回復が見込めない中で、百貨店を高収益体質のビジネスモデルに転換しようというわけだ。

 もともと百貨店ビジネスは、高品質の商品・サービスを提供するという特性もあって、人件費や店舗運営の固定費負担が重くのしかかる。固定費が高いため、売上減への耐性も当然弱くなる。

 収益構造が脆弱な百貨店が今日までなんとかやってこれたのは、インバウンドの上乗せがあったからだ。観光客需要が消滅した今、百貨店はビジネスモデル・コスト構造・組織など経営体制全般を見直さなければ、もはや生き残れない。

縮小均衡に陥らないためには

 当然、髙島屋も組織や経費にも手をつける。3カ年計画では、現在約8500人いる要員は8割相当の6900名まで絞り込む。550人の自然減が見込めるが、そのほかにも1100人前後をねん出する。ねん出した要員については当面、送料改訂・清掃・警備といった委託業務の取り込みに充て、経費を削減する。24年度以降は、在籍そのものが減ってくるので、その分は業務再委託で対応する計画だ。あわせて少ない人数で店舗を運営できるよう、大型店舗を皮切りに業務革新をすすめる。

 そうしたコスト構造改革は、ある程度予定通り実行できるだろう。問題は成長性の回復だ。

 髙島屋に限った話ではないが、コロナ禍前多くの百貨店は“インバウンド一本槍”で、既存顧客の掘り起こしやマーチャンダイジングを怠ってきた。百貨店が抱える豊富な販売データを掘り起こすことができれば、既存顧客との関係性を深めたり、新規顧客獲得につなげたりできたはずだ。当然、髙島屋もそうした課題を認識しており、3カ年計画でもお客の声を反映した衣料品の品揃え強化を掲げている。

 果たして百貨店ビジネスを再生し、魅力ある売場づくりや品揃えにつなげられるのか。もしできなければ、コストだけを切り詰める縮小均衡に陥るだろう。