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コロナを機にキッチンカーが急増の理由とは
移動型ダークストアも登場間近か?

ここ数年でキッチンカーを目にする機会が増えた。移動性、機動力を活かし、必要な場所へ必要なサービスを届ける特性がコロナ禍から売上の柱を店外に求める飲食事業者に注目され、増加している。背景にあるのは、キッチンカーと出店場所をマッチングするプラットフォームを構築したMellow(東京都/森口拓也、石澤正芳共同代表取締役)の存在。現在キッチンカーの開業支援・サポートから、車両のリースまで行い、勢力を拡大中。飲食以外の店舗型モビリティ(移動販売)も増加中だ。モビリティビジネスの今と未来、さらに小売業界とモビリティの可能性を探った。

仕組みは移動販売事業者が売り上げの15%をメロウに支払い、同社がうち数%を空き地の持ち主に支払う。固定費がかからないため、持続可能なシステムとなっている

 減少する飲食店、増加するキッチンカー

 キッチンカーは、必要なサービスを必要な場所へ飲食事業者が自ら出向き、その場で作りたての温かいメニューを提供できることが最大の特徴だ。度重なる緊急事態宣言や時短営業などでお客の動きが読めない中、人がいる場所へ出向ける特性が時代に合っているといえる。

 実際に東京都だけで見ても、2020年の飲食店総数は2019年と比べて1.3%減の19643軒。一方で、2020年のキッチンカー総数対前年比12%増の3794台(東京都福祉保健局「食品衛生関係事業」より)と増えている。

 飲食事業者からするとキッチンカーの魅力として、①固定店舗開業よりも初期投資額が安く、約3分の1程度、②家賃がかからないため、開業後のランニングコストが低い、③移動性を利用した広い商圏、④1〜2人を基本とする最小限の人数で運営可能、という点が挙げられる。

 一方で、これまでハードルを上げていたのが、出店場所の確保だ。そこをITで解決し、業界をリードしたのがMellow(以下メロウ)だ。

事業者の情報をデータベースで管理 

 メロウの創業は2016年。キッチンカーの営業活動支援などを行ってきた石澤正芳氏が、移動販売ビジネスのDX(デジタル・トランスフォーメーション)化に着目し、今までの事業にIT領域の専門家である森口拓也氏が参画してスタートした。

 当時すでにキッチンカーと出店場所をマッチングさせるサービスはあったが、ITは使われていなかった。場所の貸主からすると出店希望者が、優良な事業者か判断がつかないため、積極的に場所を貸せなかったという。

 そこで、同社が営業許可証の有無や施設賠償保険加入の有無、その保険の有効期限など事業者の情報を総合管理するデータベースを作り、土地の持ち主に営業して出店場所を増やした。そして空きスペースとキッチンカーをマッチングするプラットフォームを構築し、お客が店や料理を探せるアプリを2017年にリリース。当時は都心オフィス街の「ランチ難民」のためのサービスとして売り出したという。

 「1600台以上のキッチンカーと620箇所以上の出店場所のマッチングは、実はとても複雑。それを実現したのが、当社の強み」と話す森口氏。お客が飽きないよう、出店場所ごとに毎日違うメニューを出す店を手配したり、出店場所の客層やイベント内容に合わせたキュレーションを行うなど、複雑な要素の中からマッチングさせるシステムを構築した。そして、月間販売数30万食という膨大なトランザクションデータ(年月日、価格、数量、金額などのデータ)をもとに、お客が求めるコンテンツやメニューを探り、売上データを事業者と共有してPDCAサイクル(計画、実行、評価、改善)を回す。

キッチンカーだけじゃない!店舗型モビリティ

様々な業態が増えている。「ショップモビリティで、街そのもののサプライ機能がアップデートされる。街を豊かにしたい」と代表取締役の森口氏

 コロナ禍後、同社はすぐさまオフィス街から住宅エリアに活動の場を移し、20204月から2ヶ月間で3万食以上を販売。同年6月には「Beyond MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービスに異業種を掛け合わせたサービス)」を視野に入れ、キッチンカーだけでなく、あらゆるサービスや小売の店舗型モビリティを推進する事業「SHOP STOP(ショップ ストップ)」を打ち出した。これによって、鮮魚店や自転車修理店、八百屋、マッサージ店といった業態やサービスが拡大。出店場所各地を「バス停」に見立て、例えば同じ場所に朝はカフェ、昼はフード、夕方は八百屋、夜はちょい飲みできる業態を配車するなど“空間のマルチユース化”を行う。

 中でもショッピングセンター(SC)やスーパーマーケット(SM)前では、移動型ファイナンシャルプランニング(FP)が成功しており、若いファミリー層が週末の買い物ついでにライフプランを相談する事例が増えているという。

 また少子高齢化や過疎化が進む地方都市に店舗型モビリティを増やし、買い物やサービスを提供する場を作るなど、地方創生にも注力。こうした動きに期待し、提携する全国の行政・自治体も後を絶たない。例えば兵庫県神戸市では開発中のJR三ノ宮駅前を「モビリティーゾーン」として常設型パークエリアを設置。殺風景になりがちな開発エリアに活気を呼ぶ。

 

未来の料理人の選択肢にもなってきている

大阪府和泉大津市にある学校法人村川学園「大阪調理製菓専門学校」では、キッチンカーを授業に取り入れている(写真)。メロウではバンタン「レコールバンタン」のキッチンカー の授業に講師を派遣している

 現在、メロウの登録車数は、前年比41%増の1609台(20224月現在)。業態はうち9割が飲食だ。また出店場所を提供する空き地の保有者は、不動産デベロッパーからゼネコン、学校、政府機関など多業種に広がっており、前年比50%増の全国624箇所(20224月現在)と伸長する。

 そして全国各地の調理師専門学校では、将来有望な飲食業態として、キッチンカーでの演習が授業に組み込まれる例が増えており、メロウも授業を担当する機会が増えている。こうした教育機関での注目の高さから今後もキッチンカー をはじめとする店舗型モビリティは増えるだろう。

 「モビリティの可能性はまだ未知数。各業種に対し、どうしたら成立して利益を出せるか、丁寧にコンサルして多くの成功例をまずは作りたい」(森口氏)と前置きした上で、今後、同社は収集するビッグデータを活用し、商品開発や配送ロジックの改善を行うなどして、街に継続的な変化をもたらせる事業を展開するという。

兵庫県神戸市のJR三ノ宮駅前に広がる「&3Park」。神戸市はキッチンカーの出店に助成金も出す。メロウでは2024年5月末までに地方都市における登録車数1000台を目指す

 注目のダークストアも移動型に!?

 そうした街の変化の一つに、小売・流通業界と関係のある興味深い動きがある。それは某社とテスト中だという移動型のダークストアだ。「ダークストアの需要が過密する首都圏エリアは、倉庫の地代家賃も高い。そこで注文が集中する夕方などだけ、商品を積んだトラックを一定時間、提携する首都圏エリアの空き地に停め、そこを拠点にデリバリー配送する試みを行っています。まだ採算性を含めて試運転中ですが、注目しています」(森口氏)

 このように同社が提供する店舗型モビリティが、必要なサービスを必要な時間だけ、必要な場所へ出向いて提供する、“動くハコ”だと考えると、可能性は計り知れない。

 空き地活用、集客、地方創生、そして自店では賄えない商品やサービスを必要な時だけ提供できるなど、店舗型モビリティが街にイノベーションと豊かさをもたらせている。