J.フロント リテイリングの好本達也社長は2022年2月期の連結業績が増収・黒字転換したことを受け、「今期(2023年2月期)は守りから攻めへとギアチェンジし、投資額も前期(2022年2月期)の126億円から今期は344億円へと拡大。とくに百貨店やパルコ、デジタルへの投資を増やす」と述べ、攻めの経営に転じる考えを明らかにした。また同社が中期経営計画(中計)で掲げている23年度に営業利益を403億円に増やす目標に変更はないと語った。
22年2月期は増収で最終黒字に転換
2022年4月に開催された決算説明会の席上で、好本社長は「これまでは想定以上のコロナ禍の長期化で投資も抑制し、守りを固めてきたが、中計2年目(=23年2月期)は完全復活と再成長に向けギアチェンジする」と語り、店舗開発や売場改装投資に218億円を振り向けることを明らかにした。この半分程度はデベロッパー事業への投資だが、百貨店事業は前期の31億円から今期は75億円へと約2.4倍に、パルコは19億円から34億円に拡大する。デジタル関連投資はグループ全体で43億円から78億円へと増やす。4月12日に開いた決算説明会で示した。
同社の業績はコロナによる休業などの影響で赤字転落した21年2月期に比べ大幅に好転した。22年2月期決算(国際会計基準)は、売上収益3314億円(対前期比3.9%増)、事業利益117億円(同495,1%増)、営業利益93億円(前期は242億円の赤字)、当期利益43億円(同261億円の赤字)と増収増益で、営業利益と最終損益は黒字に転換した。なお一般的な小売業の売上高に相当する総額売上高は8752億円(同13.8%増)だった。
コロナ第6波が今年1月に広がるまでの昨年の業績は順調に回復。百貨店、SC事業(主にパルコ各店)など全セグメントが増収に転じた。セグメント利益こそ百貨店事業は45億円の赤字だが、日本基準の営業利益に当たる事業利益は17億円の黒字に転換。セグメント利益はSC事業が20億円に黒字転換、デベロッパー事業は47億円、決済・金融事業(JFRカード)は19億円だった。
ラグジュアリーなど強みの領域に投資
好本社長は今後の事業戦略について「百貨店ではラグジュアリー、高級時計、アートが好調で、この強みである領域に積極的に投資をしていく。そしてリアルとデジタルを掛け合わせながら、当社らしさを発揮する」と方向性を示した。
重点カテゴリーの強化では、実際に大丸神戸店ではラグジュアリーと時計売場を拡張し、昨年7月に従来の外商サロンをラウンジとして新設。今年3月には「ルイ・ヴィトン」が周辺に神戸の2店を1店に集約する形で3層展開に大幅に拡充し、オープンした。
ラグジュアリーブランドを集積した東京・銀座のGINZA SIXでは20代、30代の若者の購買が活発で、かつてはインバウンド(訪日外国人客)需要が3割近くあったにもかかわらず、昨年12月の全館売上高はコロナ前の19年度を上回り、過去最高記録となったという。今期も基幹店のプライムコンテンツの重点強化に取り組む。
リアル店とデジタルの融合(OMO:Online Merges with Offline)では、今年3月にコスメの「デパコ」がコマース機能を付加しOMOサイトとして生まれ変わった。同1月に立ち上げたアートの「アートヴィラ」も好調な推移を見せている。外商客向けサイト「コネスリーニュ」は「売上はまだ数億円規模だが、今後幾何級数的に拡大するのは間違いない」と好本社長は期待を寄せる。
今後、他領域にもサイト展開を拡充し、オンライン経由売上高は23年度に400億円を目指す。またオンラインとオフラインでの品揃えの拡充と店頭サービスの強化で、外商売上高は早期に2000億円規模に拡大したい考えだ。
一方で、好本社長は「インバウンド消費はいつか必ず戻って来ると思っているが、当初想定よりも回復は後ろにずれる。するとこれまでの重点アイテムや売り方に頼っていては厳しい状況になる」として、現在の成長カテゴリー以外の領域に布石を打つことも必要だとの認識を示した。また「中級価格帯の商品群が厳しい。どう対応していくかという見極めがこの数年間で求められてくる」とも語った。
松坂屋名古屋店の大幅改装は23年以降に実施する考えだが、19年9月に定期借家契約(定借)を大幅に導入した大丸心斎橋店方式を取り入れることについて「百貨店型のマーチャンダイジングを定借に置き換えるだけでは難しい。現在の成長カテゴリーやアイテム以外のところで、もう少し違った仮説が必要だ」と話した。
パルコとの連携で相乗効果に期待
パルコとの連携も進める。「パルコは百貨店と異なり、ラグジュアリーや時計、アートのシェアは高くないが、客層が若く、男性客も多い。百貨店と掛け合わせることがJ.フロントの一番の強みだ」として、大阪・心斎橋など百貨店とパルコが隣接する地域で、今後、シナジー(相乗効果)が高まると期待する。
また「大丸だけ、パルコだけしかないエリアでも、合体して攻めていく方法があると思う」と語った。
パルコは池袋、名古屋、仙台、広島、浦和の5店を中心に、大型改装を実施し、収益を改善する。とくに名古屋パルコは中計期間中の改装面積の35%、池袋パルコは同31%を占める規模で改装することを計画。アパレルのアップデート・圧縮やラグジュアリー、エンターテインメントの拡大など、カテゴリーのポートフォリオ変革を加速する。今期の業績はコロナ前の8掛けの水準に戻し、中計の最終年度である来期(24年2月期)には営業利益で名古屋パルコは40億円、池袋パルコは25億円程度をめざす。
このほか、要員構造と経費構造を改革し、固定費を中計の3年間でコロナ前の19年度と比べ100億円以上圧縮するなどの策を打つ。前期は43億円を低減した。
23年2月期の業績見通しは売上収益3700億円(対前期比11.6%増)、事業利益は220億円(同87.7%増)、営業利益は210億円(同223.9%増)、当期利益は115億円(同266.1%増)と2ケタ増収・3ケタの増益を見込む。総額売上高は1兆200億円(同16.5%増)の計画だ。