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第44回 SCでDXが進まない致命的な理由とは

保険金の支払判定にAIを導入することで、これまで1万人が担っていた業務が30分で代替するという。映画「イーグルアイ」や「マトリックス」の世界が現実のものとして現れようとしている。その一方でDXという言葉があまりに多用され、とりあえず会話の中にDXと入れるだけで先進性を感じてしまう昨今だが、ショッピングセンター(SC)運営においても、このDX、あちこちで叫ばれている。今号ではSC運営におけるDXについて考えていきたい。

i-stock/peterhowell

DXの誤解 デジタル化との違いとは?

 今の時代、デジタル化といえばすべてがDXと呼ばれる風潮がある。表題のAIの導入は、保険金支払プロセスの一部をAIに置き換え、業務の効率化、省人化、均質化を促進するものだが、業務そのものの構造に大きな変化は無い。AI導入によって業務の効率化と迅速化が図られ、人間による不均質性やエラーも減り、顧客価値が向上するが、これはDXの本質とは少しずれる。保険金支払いプロセスの一部をAIへの置き換えは、業務のデジタル化に当たる。だからといってこのAI導入にケチを付けるつもりは無いが、これはあくまで業務の効率化等を促進するためのデジタル化の導入である。

 では、DXとは何か。これを理解するために次の3つを区別したい。

①デジタル化

 デジタル化はデジタイゼーション(Digitization)とも言い換えることができ、デジタイゼーションとは現在行っている作業工程の一部をデジタルツールに置き換え効率化を図る活動である。現在の業務の内容、プロセス、業容、業態は変えず、部分的な効率化により業務の省人化やスピードアップやコストカットを期待するものだ。最近見かける、紙の伝票に埋もれた会社に出社した女性社員が「昭和かっつーの」と叫ぶテレビCMが分かりやすい。CMでは、伝票処理のデジタル化で「在宅ワーク、バッチグー」と社員達の顔はにこやかに変わる。ただ、一方でにこやかになった社員の業務という仕事はなくなる。デジタル化の悩ましい一面だがデジタル化は不可逆的であるため、次なる成長と同時並行的に考えなければならない。

②デジタライゼーション(Digitalization)

 デジタライゼーションとは、業務プロセス全体をデジタル化し新たな価値を創造することにある。部署単位、事業所単位、店舗単位で行われている業務を横断的に連携させ、蓄積されたデータを全社で一気通貫に活用することをめざす。デジタライゼーションが進めば、発注や、顧客情報の商品開発への連携などが自動化され、組織間のデータ移設作業や打ち直しなどという非効率的な作業に代わって時間を顧客価値の構想に充てることが出来る。サイト閲覧、クリック回数、購買履歴、顧客属性などを一元化し、商品をレコメンドするECはその典型である。

③デジタル・トランスフォーメーション(DX: Digital Transformation)

 上記の2つを踏まえてDXは、

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