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「コロナでも化粧品は売れる」を体現した「@cosme TOKYO」の顧客体験とは?

小売業界においては、O2O(Online to Offline)や、OMO(Online Merges with Offline)といったワードとともに「リアルとネットの融合」が旬な経営課題のひとつになっている。その課題に、実は2000年代から取り組み続けているフロントランナーが「@cosme(アットコスメ)」を運営するアイスタイル(東京都)だ。口コミサイト「@cosme」や、ECサイト「@cosme SHOPPING」とネットの印象が強いが、一方でコスメショップ「@cosme STORE」を全国に23店舗展開し、リアル、ネットの両面からコスメ業界に革命を起こし続けてきた。その同社が、新たなDXを加速させる本丸と位置づけているのが、2020年3月に東京・原宿にオープンした旗艦店「@cosme TOKYO(アットコスメ)」だ。ネットとリアルのかけ算で新たなユーザー体験を生みだすそのねらいと取り組みについて、アイスタイルリテール代表取締役社長の遠藤宗氏に話を聞いた。そこからみえてきた「デジタル戦略の本質」とは?

アイスタイル本社にて、撮影にも慣れた様子のアイスタイルリテール代表取締役社長 遠藤宗氏

「リアルならでは」の顧客体験を徹底的に追求

JR原宿駅を降りてすぐ目の前に構える「@cosme TOKYO」。長引く新型コロナウイルス禍の中にあって、20代の若年層を中心に多くの来客でにぎわっている。

店内は、ラグジュアリーブランドからプチブラまであらゆるカテゴリーが並び、コスメ業界の慣習を打破してきた@cosmeならではの品ぞろえが展開している。近年、コスメ業界で絶大な信頼のある年間アワード「@cosmeベストコスメアワード」の受賞商品と出合える「ベスコスタワー」を設置。また、週間ランキングの上位商品も常にチェックできる。まさに人気口コミサイト「@cosme」の世界観がそのままリアルで再現されているのだ。

さらに、店内のイベントブースではほぼ毎週、コスメブランドのイベントが開催されている。動画配信の専用スタジオも設置し、インフルエンサーやクリエイターがYouTubeInstagramなどの撮影を行えるようになっている。それらがコンテンツとして瞬時に配信され、そのコンテンツがさらなる集客を喚起し、「@cosme TOKYO」には、多い時には1日約1万人が来店する。単なる「@cosmeの旗艦店」を超えた、「コスメの聖地」のような存在になっているのだ。

コロナ禍でも集客は変わらないというコスメの聖地「@cosme TOKYO」

「内装などのデザインや機能よりも、ユーザーがわざわざ足を運ぶ価値を感じてもらえるよう、リアル店舗ならではの、ユーザー体験を徹底的に追求した店舗設計にしている」(遠藤氏)

10年前にメディア・EC・リアル店舗のID連携を実現

しかし、「@cosme TOKYO」が真にめざしているのは、このリアル店舗が提供する価値にとどまらない。その本丸は「リアルとネットの融合」にある。ユーザーがネットとリアルを行き来しながら買い物を楽しむ、たとえば次のようなカスタマージャーニーのイメージだ。

  1. SNSで化粧水の情報を見た顧客が気になり、店舗に来店
  2. 店頭で化粧水をテストし、スタッフからカウンセリングを受けるが、購入はいったん検討
  3. その後、@cosmeアプリに化粧品サンプル配布の通知が届き、サンプルを受け取る
  4. アプリでもオンラインでカウンセリングを受けながらサンプルを使用するうちに納得度が高まり、アプリから化粧水を購入
  5. 購入後もアプリに化粧水の使い方やキャンペーンについて案内が来るほか、1か月後には再びオンラインでカウンセリングを受けられるので、さらにエンゲージメントが高まる

「リアル店舗には、化粧品を実際に見て、試して、カウンセリングを受けられる魅力がある。一方で、ネットにはどこにいても商品を購入できる利便性がある。それぞれの魅力をかけ合わせて、どうすればユーザー体験の価値が最大化されるか、という観点からリアルとネットの融合を考えた」(遠藤氏)

アイスタイルのマーケティングを牽引してきた遠藤氏。小売のDX化、化粧品EC市場の拡大等により、益々その役割は大きくなっている。

リアルとネットを結びつけるカギが「データ」だ。店内のスタッフが接客・カウンセリングした内容は、共通の「カウンセリング台帳」に入力。カウンセリング台帳に蓄積されたデータが共有されることによって、リアル店舗でカウンセリングを受けたユーザーがその商品をECで購入する、さらにECで購入した商品を使用し、リアル店舗でカウンセリングを受ける、といったリアルとネットを行き来するシームレスなユーザー体験を可能にした。

同社では約10年前年には、口コミサイト「@cosme」・ECサイト「@cosme SHOPPING」・コスメショップ「@cosme STORE」の、3者間のユーザーID連携を既に実現している。ユーザーから寄せられる膨大な口コミをデータ化し、共有し、ECや店舗の運営に活用していく取り組みは、コロナ禍のはるか前に始まっていたのだ。

@cosmeDXを一気に加速

創業以来、メディア・EC・リアル店舗の3つのビジネス軸を展開する唯一無二のビジネスモデルを確立し、コスメ市場において不動のポジションを築いてきた@cosme。一方で、「果たしてこれでいいのだろうか、という疑問はずっと持っていた」と遠藤氏は当時を振り返る。

「それぞれ単体ではうまくビジネスを拡大してきた一方で、リアルとネットの融合という観点では、まだまだできることがあるはずだと考えていた」からだ。

ネットでの体験がリアルにつながる。リアルでの体験がネットにつながる。双方をより高次元で融合させることで、新たな顧客体験を想像できるはずだ――その、リアルとネットがシームレスにつながる新たなユーザー体験を実践する“実験場”こそが「@cosme TOKYO」なのだ。

リアル店舗でなければ体験できないテスターバーもオンラインからオフラインへの集客につながる

まず、「@cosme TOKYO」の世界観をスマホ上でも体感できるバーチャル店舗を導入。「@cosme TOKYO」の店内を歩き回り、商品情報をAR(拡張現実)で確認できる仕掛けで、全国どこにいても「コスメの聖地」にアクセスすることができる。バーチャル店内の広告ジャックなど、バーチャル店舗ならではの演出も可能だ。

また、目下力を入れているのが「@cosme TOKYO」をはじめとするリアル店舗の美容スタッフによるオンラインでの情報発信だ。OMO支援ツール「スタッフスタート」を活用し、スタッフがECサイト上でレビューを投稿。さらに人気YouTuberとのコラボレーションなども積極的に行い、スタッフのメディア露出を増やしている。「あの〇〇さんのカウンセリングを受けてみたい」とユーザーの来店動機にもなるスタッフも出てきている。

その美容スタッフのカウンセリングを、オンラインで受けられる「オンライン接客」や、ライブ配信などにも力を入れている。ある地方の美容スタッフのメイクを、まったく異なる地方のユーザーがECサイトで見て気に入り、オンライン接客を受ける――こういったユーザー体験がまもなく実現しようとしている。

「店頭の美容スタッフは、知識、技術、接客力含めて本当にプロ。彼・彼女たちのスキルと経験を活かせるフィールドを、これからは一店舗だけでなくオンラインにもどんどん広げてもらおうと考えている」

「どこにでもあるもの」を「どこにもない売り方」で売る

@cosmeの美容スタッフは、階層別に綿密に組まれた研修を受講することが必須で、本社オフィスでは毎日のようになんらかの研修プログラムが行われているという。DXに取り組むからこそ、こういった「ヒト」の持つアナログな接客やカウンセリングの価値がそのギャップからか、より重要視されているのだ。

「データももちろん重要だが、リアルとネットをつなげる真の主役は、美容スタッフ。その『ヒト』の価値を上げていくための教育投資は、DXが進み、顧客接点が増えるからこそ、より重要性を増してくる」

人気の美容部員はまさしく販売の要。OMOが自然と展開される店内での接客の様子

@cosmeのDXを推進する上で遠藤氏が強調するのは「テックタッチ」と「ヒトタッチ」のバランス。ユーザーから見えない部分は「テックタッチ」で効率化を徹底する。お客から見える世界は、「ヒトタッチ」の持つ非効率な価値を最大化する。「ユーザー体験」を起点に、「テックタッチ」と「ヒトタッチ」のかけ算を最大化する方程式を考え続けている。

「コロナ禍で化粧品が売れなくなった」などとよく言われる。しかし、売り方やユーザー体験は、アイデア次第でいかようにもデザインできる――そのことを、多くの人でにぎわう「@cosme TOKYO」ほど、説得力をもって示してくれるものはないだろう。

「私たちが販売している商品そのものは、我々の店舗でなくとも同じものを買うことができる。私たちは『どこにでもあるもの』を、『どこにもない売り方』で売っている」

「どこにでもあるもの」を、いかに「どこにもない売り方」で売れるか――「DX」デジタル戦略で問われるべきはテクノロジーではなく、その覚悟なのだ。