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薬王堂が「福祉×アート」のコラボ商品を販売する理由とは

「社会課題を事業機会へ」というミッションを掲げ、SDGs(持続可能な開発目標)に挑戦する薬王堂ホールディングス(岩手県/西郷辰弘社長、以下:薬王堂HD)。「未利用資源×発酵×地球環境」によるスキンケア商品(『and OHU(アンオフ)』)を共同開発したのに続き、2022年2月からは「福祉×アート」のコラボ商品の販売を開始した。

「商品自体をギャラリーにしたい」という思を込め、1つの商品に4点のアートをプリントした

ヘラルボニーとのコラボ商品を発売

ヘラルボニー代表取締役副社長の松田文登氏

 薬王堂HD傘下の薬王堂(同)は、知的障がいのある作家や福祉施設とのアートのライセンス契約のもと、アートデータのモノ、コト、場所への展開により「福祉×アート」という新たな領域にチャレンジするスタートアップベンチャー、ヘラルボニー(岩手県)とのコラボレーション商品を、2022年2月22日から薬王堂全店舗および同社オンラインストアで販売を開始した。

 今回発売した商品は、ヘラルボニーとアートライセンス契約を結ぶ岩手県陸前高田市出身の田﨑飛鳥氏が描いた作品をプリントしたTシャツ、スウェット、フリースだ。この企画の責任者として立ち上げからかかわってきた薬王堂取締役常務執行役員の西郷孝一氏は、ヘラルボニーとの出会いを次のように話す。

薬王堂取締役常務執行役員経営戦略本部長の西郷孝一氏

 「昨年の夏頃、岩手で社会課題の解決に頑張っているヘラルボニーという会社があるということを、知人から初めて聞いた。たまたま岩手県奥州市にラボを持ち、『and OHU(アンオフ)』を当社と共同開発しているファーメンステーション(東京都)代表の渡辺里奈さんに話したところ、すぐさま副社長の松田文登氏を紹介してもらう機会に恵まれた」(西郷氏)。そのときまで、ヘラルボニーが何をやっている会社なのか、松田氏がどういう人なのか知らなかったというが、当日会ってみて「世の中を変えたいという強い思いに圧倒された」(西郷氏)という。

 「異彩を、放て。」をミッションに掲げるヘラルボニーは18年の設立。現在、日本国内にあるアートに特化した福祉施設37カ所とアートライセンス契約を結んでいる。副社長の松田氏は「障がいは“欠落”ではなく、“違い”や“個性”として日常に溶け込んでいくような豊かな社会を、岩手から発信していきたい。市場の開拓ではなく、そういった思想を開拓する会社でありたい」と、会社設立の思いを語る。

リアル店舗のギャラリー化も視野

 今回のコラボに当たって「東北から世界の健康をデザインする」を新ビジョンとする薬王堂グループは、松田氏がこれまで地元岩手県で親しんできた日常の一部でもある。薬王堂のリアル店舗と連携することで、ヘラルボニーとしての可能性が広がると考えた。

岩手県陸前高田市出身の田﨑飛鳥氏

 一方薬王堂グループは、かねてから東北6県に358店舗あるリアル店舗のメディア化を企図しており、社会課題解決のための商品、情報、サービスを提供する場にしていきたいと考えていた。

 そうした両者の考えが合致し、ごく短期間でコラボ企画が実現した。「当社店舗には、1日平均で1店舗当たり500~700人が来店する。コラボ商品を置くだけで、その358店舗分の来店客に見て、知ってもらうことができる」(西郷氏)。

 また、今回のコラボ商品の多くは、1つの商品に4点のアートがプリントされている。これには「商品自体をギャラリーにしたい」という思いがあったからだ。購入したお客がトートバッグを肩にして、あるいはスウェットを着て、街中に出て行ってもらえれば、それだけたくさんの人に、田﨑氏のアートの素晴らしさに気づいてもらえる。

 薬王堂では、今回の試みは一過性のものではなく、継続的な活動にしていきたいという。「今回は薬王堂店舗およびオンラインストアでの販売にとどまるが、コロナが収束したときには、薬王堂のリアル店舗のギャラリー化にもチャレンジしていきたい」(西郷氏)。

 事業の採算面では、通常、薬王堂で扱う同種の商品に比べて価格を上乗せしており、同社に利益も残るような設計であり、事業としての継続性にも問題はないとしている。